キャッスル・フリーク

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 飼い猫にミルクを与えること、古城の地下室に数切れのサラミとパンを運ぶこと、この二つが老婆の日課であった。そして今日も地下室の扉を空ける老婆。しかし老婆は、その部屋に繋がれている者にムチを振るう。その部屋には、虐げられつづけられ異形と化したジョルジョが閉じ込められていた。血にまみれ泣き叫ぶジョルジョを残し、老婆は食事の入った皿を置いて出て行くのであった。

 オルシノ家の末裔でアメリカに住むジョン・ライリーは、七〇〇年の齢を経たオルシノ城を相続し、妻スーザンと盲目の娘レベッカを連れてイタリアにやってきた。もっとも、永住するためではなく、売却処分するためであったが。

 古色蒼然とたたずむオルシノ城、しかしその扉をあけて一歩中に入ると、壁に並べ飾られているのはおぞましく不気味な絵画。この絵画の列がオルシノ家の歴史を物語っているのであろうか、使用人のアニューゼはジョンに告げる。「この城に長居してはいけません」と。

 その晩、ジョンはスーザンと熱い一夜を過ごそうとするが、あっさりと断られてしまう。それは、今から九ヶ月ほど前の晩ことであった。二人の子供を連れてドライブに出かけたジョンは、雨の中家路を急いでいた。夕食には帰ると妻に約束したことが気になっていたのか、憂鬱な雨の夜のせいだろうか、ジョンは少々ヒステリックになっていた。後部座席に座る息子JJが、落としたゲームを拾おうをチャイルドシートのベルトを外した時、苛立っているジョンはそれに気を取られ、事故をおこしてしまう。たいした怪我をしなかったジョンだが、助手席でうめくレベッカ、そして後部座席には、JJの姿はなかった。あわてて車から抜けだし、JJの姿を求めて叫ぶジョン。しかし、車から投げ出されたJJの体はすでに冷たい骸となってしまっていた。

 事故の悪夢に目を覚ましたジョンは、城のどこかからか聞こえてくる子供の泣声に気がついた。今はなき息子JJの呼ぶ声だろうか、その声に誘われるように地下のワイン倉庫に足を踏み入れるジョン。事故以来酒を断っている彼はそこに並べられたビンの一つを手にとりアルコールの誘惑にかられるが、それを振り払おうとした拍子にビンを壁にぶつけ、手に怪我をしてしまう。

 彼がキッチンで手を洗っていると、歳のせいか眠りが浅く目が覚めてしまったというアニューゼが現われた。子供の泣声が聞こえなかったかと訊ねたジョンに、アニューゼは先代の公爵夫人にまつわる悲しい話を物語る。

 第二時大戦後、アメリカ兵と結婚した公爵夫人は、息子ジョルジョを授かる。幸福に包まれているかにみえた公爵夫人だが、ジョルジョが5才になった時、夫は二人を捨て、夫人の妹とアメリカへ駆け落ちしてしまった。その直後、ジョルジョがこの世を去ってしまう。しかし、気のふれた公爵夫人が、夫への復讐心から息子に手をかけたのではないかとも噂されていた。そして四二年間、狂気と復讐心に苛まれつづけた公爵夫人もまた、帰らぬ人となっていったのであった。

 翌日、財産目録を作りはじめたジョンは、気晴らしになればと盲目のレベッカを同行させた。子供部屋に散らばるおもちゃに和むレベッカ。そして二人は公爵夫人の部屋にやってくる。私が公爵夫人なら、宝物はベッドの下に隠すというレベッカ。だが、ベッドの下からジョンが見つけたものは鉄ビョウの埋めこまれたムチであった。レベッカにはがらくたしかなかったと告げ、家捜しを続けるジョン。しかし、見つけたアルバムに見入ってしまい、レベッカが部屋を出たことには気がつかなかった。

 退屈をまぎらわそうと公爵夫人の部屋を出たレベッカは、隣の部屋で猫にであった。そしてその猫に誘われるように、杖で足元を確かめつつき地下へ下りるレベッカ。そして鉄の扉に閉ざされた地下の一室には、異形が一人、鎖に繋がれていた。何かの気配に気付いたレベッカだが、盲目の彼女はそれがなんであるかを確認できないままに引き返す。

 しかし、彼女が両親のもとに戻った後。レベッカの姿を見た異形は、何かを感じたのか、手かせから逃れるために親指を食いちぎり、扉に体当たりするのであった。そうして地下室から逃れた異形は、窓の向こうに何者かの姿を見つける。恐る恐る近づき手を差し伸べると、ガラスの向こうの何者かもまた近寄ってきて手を差し伸べた。ふいに込み上げた怒りにまかせてガラス窓を叩き割った異形。だがそこに外の世界は広がっておらず、窓枠の中には木の板がはめこまれているだけであった。そう、それは鏡なのであった。

 その晩、古城の中にはジョンたち以外の何者かがうろつき、レベッカはその気配に脅かされた。また、それを探して地下に降りたジョンは、一族の墓所の中にジョルジョの遺影を見つけ、その幼い姿にJJを重ねあわせて咽び泣くのだった。翌朝、警察を呼び事の次第を話すジョン。しかし、本気にしない警官はまともにはとりあってはくれない。ジョンが子供の泣声を聞き、レベッカが何かに襲われているというのに。

 ジョルジョの遺影が亡くなっていることに気づいたジョンは、スーザンを連れて墓所にやってくる。JJを失った悲しみも手伝ってかスーザンにすがりつくジョン。だが、ジョンを許すことのできないスーザンは、彼に辛く当たってしまう。アル中、大学を首になったこと、そして飲酒運転でJJを死なせたこと、全ての責任を何かに転嫁しようとしているのだと。さらに、JJのかわりにジョンが死ねばよかったのだと。

 身を投げてしまおうと屋上に駆け上がるジョンだが、そんなことが出来るわけもなく、城を飛び出してバーに入る。しばらく断っていた酒に溺れ、売春婦シルバーナを拾って城のワイン倉庫に連れ込む。一時の情事の後、再び酒に溺れたジョンはワイン倉庫で酔いつぶれてしまった。そして再び現われた異形の影、シルバーナは城から戻ることはなかった。しかし、それは惨劇の始まりでしかなかった。シルバーナの悲鳴を聞きつけ、地下に降りたアニューゼが次の犠牲者となってしまう。

 翌朝、シルバーナが家に戻っていないと警官がやってきた。ジョンが再び酒に溺れ、さらに女を買ったことを知ったスーザンは、レベッカを連れて城を出ようとする。だが、警官たちに見つかり、城へ連れ戻されてしまった。

 そして弁護士に相談するジョン。だが、弁護料をつり上げようとした弁護士から、意外な事実を聞かされる。先代の公爵夫人を捨てたアメリカ兵こそがジョンの父親であると。

 異形の正体の推理したジョンは、ジョルジョの墓を暴く。すると、その棺の中はジョンの予想通り空であった。ジョルジョは死んだのではなく、狂った公爵夫人によって痛めつけられつつも生かされていたのだ。そしてジョルジョが繋がれていた部屋には女とアニューゼの酷い死体が。しかし、ジョルジョの存在が証明されたわけではなく、嫌疑をかけられたジョンは警察へ連行される。

 警官たちに守られながらも不安な夜を過ごすスーザンとレベッカ。だが、一人、また一人と警官が異形の手にかかって姿を消す。そして異形の魔の手はスーザンとレベッカにも襲いかかり、ついにはレベッカは連れ去られてしまった。

 レベッカをさらってきた異形は、彼女に一枚の写真を見せる。それはジョルジョの墓から消えた遺影であった。自分を指差し、遺影を指差す異形、この写真は自分であるというように。ジョンの推察と、公爵夫人の噂は的中していたのだ。この異形こそ、変わり果てたジョルジョであったのだ。だが、遺影を見ようとしないレベッカに困惑するジョルジョはようやく気付く。この娘は目が見えないのだと。

 困惑は悲しみにかわるが、それ以上に欲望にかられたジョルジョはレベッカを手にかけようとする。だが、娘の悲鳴を聞きつけてやってきたスーザンによってナイフを背中につきたてられ、危機を脱する。しかし、それはほんの一時に過ぎなかった。

 城内を逃げ惑うスーザンたちは公爵夫人の部屋へ逃れ、クローゼットに身を隠す。あとを追ってきたジョルジョはその部屋で自分を痛め続けてきたムチを見つけた。狂気の倍増されたジョルジョは、ムチを振り回して破壊の限りをつくし、公爵夫人の部屋を出ていった。

 なんとか難を逃れスーザンたちだったが、再びジョルジョに見つかってしまう。そして逃げついたところはそれ以上逃れようのない屋上であった。二人の運命を物語るかのように、すでに日は落ち、いつの間にか降りだした雨、背後に迫る異形のジョルジョ。あきらめかけた二人だったが、そこへジョルジョを呼ぶ声が。警察での取り調べの最中、隙をついて逃げ出したジョンがようやく戻ってきたのだった。

 屋根の上で乱闘の末、ジョルジョを倒したジョン。安堵し、スーザンとレベッカと抱き合うが、気を失っていただけのジョルジョは再び襲いかかってくる。鎖で打ちのめされるジョンだったが、その鎖をからめ取り、城壁の外へ身を踊らせる。ジョルジョを道連れにして。

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