死霊のしたたり2

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 ミスカトニック医大の奇怪な事件から八ヶ月後、ハーバート・ウェストとダン・ケインの姿は、南米はペルーにあった。内戦中のこの国の野戦病院で働く二人、新鮮な実験体の手に入るこの状況でおこなっているのはもちろん死者蘇生実験、ミスカトニック医大を騒がせたあの実験の続きなのである。そして実験は新たな局面を迎えており、生命の再生は脳に頼る必要はなく、細胞単位での再生が可能になりつつあった。ウェストは宣言する、蘇生ではなく、生命の創造が可能なのだと。しかし、二人のいる野戦病院も戦禍に巻き込まれ、ケインは負傷し、ウェストは研究の途上で撤退を余儀なくされるのであった。

 そして二人は、再びアーカムに、ミスカトニック医大にその姿を現した。不治の病におかされた若い女性グロリアに、必死の思いで治療を施すケイン。しかし、すでに手のほどこしようがないことは明らかであった。

 ミスカトニック医大では、チャプマン警部補によって学長とヒル博士らを巻き込んだあの事件の捜査が続けられていた。そして警部補は、見世物小屋に出ていたヒル博士の生首を見つけ、ウイルバー・グレイヴス博士のもとに持ってくる。博士の首は、八ヶ月がたった今でも異常なほどに保存状態がよかった。しかし、異常はそれだけではなく、奇怪な事件に関った遺体は、いまだに腐敗の徴候を見せていなかった。また、それとは関係なく、近ごろ遺体の一部、体の一部が紛失することが多くなっていた。

 そして深夜、遺体の保管室に姿を現したのは、ハーバート・ウェスト。人目を盗んで人体のパーツを集めていたのは、彼なのであった。ウェストのさらなる目標は、南米での宣言どおり生命の創造。そのためにパーツを集めてきては、新しく借りた元死体置き場、今ではウェストとケインの住む家の地下研究室に持ち込み、実験を重ねていたのである。

 ケインがウェストの研究室にやってきた時、ウェストは煉瓦の壁を壊している最中だった。研究室と壁一枚隔てた向こう側は、古い安置室、150年も前の遺体が眠る地下の墓所。重いロッカーでその穴をふさいだウェストは、奇妙なことを口走る。これは防壁だと。何のための防壁なのか? そもそもなんのために壁に穴を開けたのだろうか? 不審に思うケインだったが、そんなことはおかまいなしにウェストは研究成果を語りはじめる。

 取り出したばかりのイグアナの羊水に、筋肉蛋白質のミオシンとアクチン、さらにトロポミオシンを加え、あの黄緑色に燐光を放つ蘇生薬を加える。これこそウェストの夢をかなえる薬品、生命を産み落とした原初の泥と同じ化合物なのだと。そして用意されたのは5本の指と視神経のついた眼球、ウェストはこれを組み合わせ、奇怪な昆虫のようなものにしたてあげる。そしてこれに薬品を投与すると、この肉の昆虫は動きだしたのだった。

 ウェストの研究に嫌悪を抱いたケインは、共同研究をやめ、立ち去ろうとする。だが、ウェストが持ち出したのは、八ヶ月前の事件に巻き込まれ、命を落としたメグの心臓であった。いつの間にかウェストは、彼女の心臓を冷凍保存していたのだ。そしてメグを失った時の悲しみを思い出したケインは、今こうしている間にも失われつつあるグロリアの命を救うための研究なのだと説得される。ウェストはメグの心臓を核に、新たな生命を創造しようというのだった。

 そんなところへ、チャプマン警部補がたずねてきた。八ヶ月前の事件を調査する警部補は、死体の一部が盗まれていることにウェストが関係しているのではないかと推測していた。あれこれと詮索されるウェスト、だが、研究室から抜けだしてきていた肉の昆虫がうろうろしはじめて、ケインは気が気ではない。なんとか早く話しを切り上げて警部補を帰そうとするウェストだが、肉の昆虫は警部補がなにげなく置いた本の下敷きとなり、見つかることもなかった。

 八ヶ月前の事件に興味を持っていたウイルバー・グレイヴス博士は、ヒル博士が残していったあの黄緑色の薬品の正体を探っていた。そして薬品が蘇生薬であることを突き止めてしまう。解剖中のコウモリに薬品を投与するグレイヴス博士。するとコウモリは生き返り、実験室を飛び回ったのであった。さらにグレイヴス博士は事件の真相を知るため、ヒル博士の生首に蘇生薬を投与する。だが、蘇生したヒル博士はいきなりグレイヴス博士のかつての研究を罵ると同時に、協力を強制するのだった。

 そのころ、ウェストとケインはペルーで知り合った新聞記者、フランチェスカと再会していた。彼女はボストンでの取材がてら、アーカムにやってきたという。だが、死体を盗み出す途中であったウェストはさっさと研究室に戻り、仕事中のケインも放送で呼び出されてしまう。夕食の約束をして仕事に戻るケイン。しかしそれを陰から見ていたチャプマン警部補がいた。

 ケインたちの身辺調査を続けるチャプマンは、フランチェスカに近づき、事件のことを話して聞かせる。その事件の不可解なこと、死んでいるはずの死体が動いていたことも。そして、生き返った死体の中に自分の妻がいたとこを。

 ウェストたちの研究は着々とすすみ、組み合わされたパーツは順調に形作られつつあった。そしてその晩、訪ねてきたフランチェスカと熱い一夜を共にするケイン。しかし地下の研究室では、ケインがいないすきを見はからっては、ウェストが研究の片手間に余ったパーツをつなぎ合わせては蘇生し、生物ともいえないような不気味な代物を作っては捨てていたのだった。

 だがそこへチャプマン警部補が踏み込んでくる。そして地下研究室のありさまを見たチャプマンはウェストこそあの事件の元凶、妻を悲惨な目にあわせた張本人だと知る。だが、ウェストは彼の妻の死の真相に気付いていた。チャプマンは、妻は転んで頭を打ったのだといっていたが、彼女の頭部にはそんな程度ではすまないほどに、何度も鈍器で殴られたあとがあったことを。

 真相をほのめかすウェストに、逆上したチャプマンが襲いかかるが、逆にウェストに殺されてしまう。そして、物音に気付いてやってきたケインの前で、チャプマンを蘇生させた。だが、復活したチャプマンはさらに狂暴化し、二人に襲いかかってくる。チャプマンの腕を切り落とし難を逃れた二人だったが、逃げ出したチャプマンによって研究室に閉じ込められてしまった。

 この騒ぎに目を覚ましたフランチェスカが居間にやってくると、そこにはソファーに横たわるチャプマン警部補の姿があった。ただならぬ様子に心配し声をかけるが、チャプマンは彼女をも襲おうとする。主人を守ろうと襲いかかるフランチェスカの愛犬だったが、狂人の力にはなす術もなく、壁にたたきつけられてしまった。泣き叫ぶフランチェスカにさすがの狂人も理性を取り戻したのか、屋敷を飛び出していった。ようやく研究室から抜けだしたケインとウェストが駆けつけるも、すでにチャプマンの姿はなく、なきつづけるフランチェスカと無残な姿となった犬が横たわるばかり。だが、何を考えたのか、ウェストは犬の骸を抱えて研究室に戻っていったのだった。

 翌朝、一人地下に降りたフランチェスカ。そこへ研究室から出てきたウェストの足元には元気な愛犬の姿が。思わず手を差し伸べるフランチェスカだが、その手を握り帰したのは人間の手であった。そう、ウェストはもぎ取られた前足に人間の手を移植し、犬を蘇生したのだった。悲鳴を聞きつけてやってきたケインにメグも同じ目にあわせたのかと馬声を浴びせ、フランチェスカは屋敷を飛び出していった。

 落ち込むケインに追い打ちをかけるように、彼の目のまえてグロリアの心臓が停止してしまう。急ぎ電気ショックを与え、さらに直接心臓マッサージを施すケインとウェスト。だが、彼らの健闘も空しくグロリアの心臓は再び鼓動することがなかった。そしてウェストは、生命創造の最期のパーツ、頭部を入手することになる。その晩、グロリアの頭部をつないだウェストは、ケインと共に生命創造の瞬間を迎えようとしていたのだった。

 一方、グレイヴス博士の研究室では、あいかわらず首だけのヒル博士がウェストを罵り続けていた。それに堪えられずヒル博士の首を捨てたグレイヴスだったが、ケインとウェストに恨みを持つチャプマンによってその首が拾い出され、グレイヴスはその手にメスを握らされる。そのメスはヒル博士自身の命令で、ヒル博士の生首に入れられたのだった。

 ケインを訪ねて大学にやってきていたフランチェスカは、ケインたちの屋敷に電話をかけるが、研究室に閉じこもる彼らには連絡がとれずにいた。そんなところをチャプマンに見つかって襲われるが、なんとか逃げ出して難を逃れる。だが、チャプマンは逃げる彼女を追おうとはせず、一つの箱を抱えて大学を後にする。

 そしてウェストの研究室。ケインの手によって蘇生薬が心臓に、繋ぎ合わされた人体の中に埋めこまれたメグのそれに注ぎ込まれていた。15秒・・・45秒・・・3分15秒・・・。まるでフランケンシュタイン博士の実験を再現するように、雷鳴が轟きはじめる。しかし、なかなか反応を見せないからだに苛立っている時、彼らのもとに木箱がひとつ届けられた。

 ウェストが開けたその木箱からは何かが飛び出し、人間そっくりの笑い声をあげてどこかえ飛び去っていく。さらに、難を逃れてやってきたフランチェスカを、再びチャプマンが襲う。だが、病院から解放された生ける死者たちの中に彼の妻の姿もあり、チャプマンに遅いかかかった。再び難を逃れるフランチェスカ。

 その騒ぎの待っただなか、地下研究室では、創造された人体が立ち上がりつつあった。「生きている」、つぶやくケインに呼応するかのように、立ち上がった体、そのグロリアの口からも「生きている」の声がもれた。そして轟く雷鳴とほとばしる閃光のなか、その「彼女」の姿はロビーに現われた。さらに、ウェストとフランチェスカもやってくる。だが、まるでそれに呼応するかのように、生ける死者たちの群れが集結しつつあった。

 地下研究室へ逃げこむケインたち。生命を創造したことを、神の領域に踏み込んだことを高らかに宣言するウェスト。だが、フランチェスカに嫉妬する「彼女」、によって騒動が巻き起こる。そして研究室のドアは生ける死者によってたたきつづけられ、まさに内憂外患の様相を呈していた。

 しかし事態は、それぞれの思惑通りに、もしくは裏腹に集結に向かう。ケインに拒否された「彼女」は、メグの心臓を自らの手で取り出し、さらに拒絶反応をおこしたその体は崩壊してしまう。

 研究室のドアを破ったチャプマンたち生ける死者たちは、その恨みをウェストたち生きている人間にぶつける。壁に開けた穴から古い安置室へ逃れるウェストだったが、そこに待ちうけていたのはコウモリの羽根を移植され、嬉々として飛び回るヒル博士の首、さらにはその安置室に捨てられていた怪物たち、ウェストが作り出しては捨てていた人体によって作られたおぞましい蘇生生物たちだった。そしてケイン、フランチェスカもチャプマンたちによって安置室に引きずり込まれ、生ける死者、不気味な蘇生生物たちとの乱闘に。

 しかし、この騒動に終止符を打ったのは、150年の齢を経て脆くなっていた安置室そのものであった。壁が崩れ、天井が落ち、怪物も、神をも畏れぬ人間をも飲み込んでしまう。まるで、永久の眠りを妨げられた安置室に潜む者たちが、再び安寧を取り戻そうとするかのように。

 そして全てが静まり返った時、墓地の一角から現われでる影があった。ケイン、そして彼に助けられたフランチェスカ。二人だけの姿が。

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