菊地秀行的ラヴクラフト&クトゥルー神話の世界

【書籍名】吸血鬼ハンターD−邪神砦
【出版社】ソノラマ文庫
【初版日】2001年12月30日
【 ISBN 】4-257-76952-1
【定 価】476円

 都へ向かう飛行車が不可思議な力によって貴族の「遊戯地」に不時着した。乗り合わせた人々は居合わせた戦闘士と通りかかったDによって命を救われるも、Dの向かう先は不死の貴族たちが滅亡を願って信仰していた砦。命拾いした人々、邪神の信仰者、神祖の軍隊、それぞれの思惑を秘めて息づく砦と、かつて神祖ですら封印するに止まった邪神をDは滅ぼすことができるのだろうか。

 不死の貴族が願う滅亡とは地球そのものの死滅、これを邪神と呼び、形態的な特徴の触手をそなえ、これに追い打ちをかけるように「クルル・・・」と来れば、もう疑う余地はありませんね。クルルって何と思われるかもしれませんが、クトゥルーやクトゥルフが一般的な呼称ですが、他にもクルルゥやクルウルフ、ク・リトル・リトルとも発音されています。まあ、人間の発声器官ではとても発音できない呼称なので、そういうものだということで。

 それはさておき、妙に話しの分かる邪神が、クトゥルー神話としては異色であり、人間臭いユニークな存在になっています。砦にこもった貴族は神祖軍に滅ぼされたようになっていますが、もしかしたら彼らの願いも地球の滅亡という巨大な形ではなく、個々の滅亡という形で聞き入れられたのかもしれませんね。

 もちろん、非力な人間たちもドラマティックに描かれており、これまでよりも非常な展開ではありますが、どこかしら優しさが残されているあたりに心を揺さぶられます。

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