飯野文彦ホラーコレクション

【作品名】侵食

【収録書籍】異形コレクション「恐怖症」

【出版社】光文社文庫

【定価】¥838

 男は都会から田舎に戻って来た。しかし彼の田舎もまた都会化の波に流されていた。コンクリートで固められた護岸から見下ろす河原もまた、懐かしい風景から都会の象徴ともいえる漆黒の鳥に占拠されようとしていた。そして男もまた・・・。

 飯野氏の近況報告を兼ねたエッセイ風のセミ・フィクションは、変わり行く風景に懐かしさを探し求める逸品。淡々と語られる過去と現在は、夕暮れ時の物悲しげな雰囲気、暮れ行く恐怖を感じさせる。人の住まう風景とは、かくして侵食をかさねてゆくものなのだろう。しかし、ここに描かれているのは単に失うこと、変わり行くことへの恐怖ではない。どんなに時を経ても、たとえ風景は変わっても、影は影のままに存在しつづけ、その影もまた新しい影に覆われていくのだろう。

 ところで、二つの川が合流するところの少し下流、あらら、私の自宅とほぼ同じ情景だわ。ちなみにすでに使われていないものの線路の敷かれた橋は合流よりも下流にあるから、スカートははいているようだが。それから、ぎゃーぎゃー鳥ってあおさぎじゃないかな。連続して鳴くところはみたことないけど、夜中に一声鳴かれるのはぞっとします。

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