飯野文彦ホラーコレクション

【作品名】惑わしの森

【出版社】祥伝社

【定価】¥381

 樹海の奥深くに隠された禁断の地に見えぬ稲妻が落ちる時、人はもう一度懐かしい声を聞く。しかし、異界から帰ってきたものは異形の者なのか。

 いつもと違う感触ながら引き込まれる冒頭から、そつなくまとめながらも先を読ませない謎と伏線、それでいて納得できる結末。これまでの飯野氏の作風とは趣を異にしながらも、比喩や感情表現に飯野氏らしさを散りばめられた作品ですね。

 樹海の磁気の影響とか、生まれ変わりに選民的なところがあるのかとか、元の肉体があったままでもいいのかとか少々疑問の残るところですが、これは読み手の裁量で良いでしょう。木になる人間ってのは「ボディー・スナッチャー」を色濃く匂わせていますが、頭に残るヘタってのがいいですね。私はこう考えます。あれはツノ、樹海の奥深くで復活したものは鬼になるのだ、と。

 氏の作品に最近多い少々内向的な主人公に、良い脇役を添えることで、物語にも視野にもこれまでにはない広がりが出ています。あまたある小説の中においては埋もれてしまう一作かもしれませんが、飯野作品としては読み手を選ばない作品じゃないかな。何よりファンタジーの要素が強いのが好感触です。

BACK/TOP/NEXT