飯野文彦ホラーコレクション

【作品名】母の行方

【出版社】光文堂

【収録書籍】異形コレクション「帰還」

【ISBN】4-334-73058

【定価】¥800

おぞましい家族の記憶を喪失という深淵に押し込めた男と、謎の妻の繰り広げる猟奇的な物語。

これまでの飯野氏とは何かが違う、情け容赦ない現実に潜んだ狂気と恐怖の物語である。しかも、飯野氏らしいとも言えた優しさのこもった文体を切り捨てた厳しさといっていいだろうか、そんな印象を受けた。傾向としては「椰子の実」と通じる世界であるが、夏のかげろうのようなどこか現実離れした世界ではなく、ピントのあった町の片隅で誰にも知られずに行われている物語である。実は私は猟奇的なテラーは嫌いだが、この形容詞と比喩を多用した、ある意味「ラヴクラフト的」ともいえる文章に魅了されてしまった。嫌悪と歓喜の入り交じった不思議な感想である。

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