11-2 ギターアンプについて
何回も言っているように、エレクトリックギターはギターアンプがあってはじめてギターらしい音になるので、ある意味ではエレクトリックギターの音を出すのにギター本体よりも重要なものだ。ギターアンプ以外のアンプ、例えばオーディオ用とかPA用のアンプやスピーカーなんかは、原音に忠実に音を大きくする事を目標にして技術の粋を集めた回路設計をしているのに対して、ギターアンプはギターの音が音楽的によい音で出ればいいわけだから、基本的に何でもアリだ。だからギターアンプの市場というのは、どっかの片田舎で趣味で作ったようなギターアンプが全世界で爆発的に売れたり、まじめにハイクオリティーを追求したアンプが全然売れなかったりする特殊な市場だ。(なんせ相手は思いこみの強い鬼畜
ミュージシャンだからなあ・・・)まあその辺はおいといて、ギターアンプにはコントロール部分とスピーカーボックスが1つになっている「ビルトインタイプ」のものと、アンプ部とスピーカーボックス部が別々になっている「セパレートタイプ(スタッカブルタイプ)」と呼ばれる2種類のものがある。ビルトインタイプの代表選手はフェンダーの「ツインリバーブ」とローランドの「JCシリーズ」だろう。セパレートタイプの代表はマーシャルかな。
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写真11-2-1 ツインリバーブ |
変わっているのはトーンコントロール回路で、トレブル(高域)ミドル(中域)ベース(低域)とあるんだけど、回路設計上この3つのつまみを左に回しきると音がいっさい出なくなってしまうのだ。(音質を変える回路が音量に影響するなんて普通じゃ考えられないことだ)あとどうしてもミドルコントロールの効きが悪いという特徴がある。(これも抵抗1本を変えれば改善できる)あとビブラートというつまみがあるけど、これは周期的に音量を変化させる「トレモロ」のこと。ビブラートアームのことをトレモロアームといったり、トレモロコントロールのことをビブラートといったり、この頃のフェンダーは言葉を知らなかったのか(?)
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写真11-2-2 JC-120 |
その人気の秘密は搭載しているコーラスとヌケのいい音色。コーラスについては第2章のギターアンプのマイキングを参照してもらうとして、ヌケのいい音という事はエフェクターの「ノリ」もよくピッキングなどのニュアンスも出しやすいアンプという事だ。よって下手クソが使うと最悪の音になるアンプでもあるわけだ。また逆に太い音を作りにくいアンプという言い方も出来るわけで、このアンプを好むギタリストはエフェクトを多用し、生音と歪ませた音を同じくらいの比率で使い分ける、どちらかというと器用な人が多い。また裏側にラインイン端子があるので、キーボードアンプとして愛用する人もいる。
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写真11-2-3 マーシャル |
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写真11-2-4 メサブギー |
サイマルクラスとは違う種類(同じ種類の場合もある)の出力真空管2組を片方は三極管結合で、片方は普通に接続してA級動作させるもので、簡単にいえば「パワーを犠牲にして音質を優先する」モードという事が出来る。まあ三極管結合にしろ、A級動作にしろオーディオ用の真空管アンプの設計の世界では珍しくもなんともない回路なんだけど、ギターアンプにこの技術を取り入れて、しかもギターアンプとして最適なように昇華した面は評価できるだろう。しかし残念ながらこのサイマルクラスはオプション扱いで、これを付けると一気に値段が跳ね上がる。それに回路設計上パワーを出せないので、ハイパワーのアンプには装備できない。
11-2-2 パワーソーク
さっき言ったようにマスターボリュームのないギターアンプで音を歪ませようとすると、ばかでかい音を出すしかないんだけど、パワーアンプとスピーカーの間にこのパワーソーク(Power Soak)を入れると、アンプをフルアップにした状態の音を小さい音で出すことが出来る。原理は至って原始的で、セメント抵抗(比較的周波数特性に優れているけど、かなり熱を出す抵抗)を挟み込んであるだけのもの。例えばスピーカーのインピーダンスを8Ωとすると、そのスピーカーと並列に8Ωの抵抗をつけて、4Ωの抵抗を直列につないでやればパワーアンプからの出力のうちスピーカーから出るのは1/4になる。まあしかし100Wの出力をこの方法で音量を落としたとすると、75Wの出力を抵抗で消化してしまうわけで、まるで真冬に暖房をつけて窓を開けっ放しにして何とか丁度いい温度にしてるような資源の無駄遣いマシンだな。(100Wといっても、そのパワーを生み出すのに電源から300W以上使っている。)ちなみにパワーソークはロックマンの商品名で、マーシャルから出ているものにはパワーブレイクという名前が付いている。
11-2-3 真空管
もう普通の生活の中でいわゆる真空管を見る機会なんて無くなってしまったけど、(まあパソコンのモニタも真空管だけど)これは何故かというと、どんどん真空管が半導体素子に置き換えられていったからなんだな。一般用途での使用には真空管には半導体と比べて欠点が多いのだ。(物理的形状が大きい。振動や衝撃に弱い、動作時に熱を発生する、高電圧を必要とする、ヒータ電源が必要、老朽化が早いなど)カード電卓程度の機能を持つものを真空管で作るとすると、何千本何万本という数の真空管と、みんなの部屋くらいのスペースと、鬼のような電力が必要になるわけだ。これでは半導体素子が主流になるのが当然と言えば当然だな。
で、みんなは半導体素子に囲まれながら生活している訳なんだけど、DJの中でアナログのレコードにこだわる人が多いように、音響の世界や楽器アンプの世界でも真空管にこだわる人はすごく多いのだ。(まあそれでもパンピーから見れば少数派だけど)これは一言でいっちゃえば、真空管でしか出せない音があるという訳なんだけど、まあ本当半分、思いこみ半分というところだな。トランジスタやIC等と違って、真空管は品番が同じならどのメーカのものも基本的に同じ真空管なので、種類もそんなに多くなくて、特にギターアンプに使われる真空管なんざ、ほぼ6種類だけなので割と判りやすい。プリ管(音量や音質を調整するための回路に使う真空管)は、ECC83とECC82とECC81の3本。まあこの中でも最もμ(増幅率)の高いECC83を使うケースがほとんどだ。パワー管(パワーアンプ回路に使われる真空管)はEL-34か5880かGZ-34。EL-34と5880は2本で100Wまでのパワーを取り出せる。GZ-34はその約半分だ。どちらかというとEL-34は5880に比べて堅くて芯のある音といわれている。最近まで日本に入ってくるマーシャルの100WタイプのものにはEL-34が使われてたんだけど、どうもEL-34の安定供給が難しくなったらしくて去年辺りから5880に密かに変更されている。また現在日本では真空管は作っていないので、ヨーロッパ式の呼び方の方が主流になりつつある。
日本式 | ヨーロッパ式 |
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12AX7 | ECC83 |
12AT7 | ECC82 |
12AU7 | ECC81 |
6CA7 | EL-34 |
5880 | 5880 |
6L6 | GZ-34 |
表11-2-1 真空管の呼び方の違い |
11-2-4 何故真空管アンプがギタリストに好まれるか
何故真空管アンプがギタリストに好まれるかについてちょっと考えてみた。考えるだけでは何なのでついでにいちゃもんも付けてみた。まあ物事は表裏一体と言うことだな。(ほんとだか)(^_^;
ギタリストに味方した考え方 | いちゃもん |
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真空管素子自体が歪むときに偶数次の倍音を発生しやすく、歪んだ音の耳障りがいい。 | 偶数次倍音を発生しやすい素子としては真空管の他にもFET等があるので、わざわざ真空管を使う必要はない。 |
高圧電源で作動させているため、ダイナミックレンジが広く取れ、その分回路もシンプルになるので、音の通りがいい。 | 大体エレクトリックギターはダイナミックレンジを云々するような音源ではない。 |
回路上スピーカーをドライブする前にトランスが必要になるが、そのトランスが音に適当なまろやかさを与える。 | 要は高域が劣化して低域の位相特性が乱れているだけのこと。音質を悪くするだけなら他にもやり方はあるし、真空管以外のアンプにトランスをつけてもよいのではないか? |
真空管の個性によって、同じアンプでも1台1台音質が違う。 | 品質管理が難しい。「当たり」を引けばいいが、「はずれ」をつかまされたときには悲惨。 |
プロがみんな使っている。 | プロの場合はローディーがいるからいいけど、こんな重いアンプよく持ち運びする気になるね。 |
適当なアンプが真空管式以外でない。 | これは仕方がないかもしれない。「高級アンプ=真空管式」という図式ができあがっていて、他に選択肢がないのが現状だ。 |