10-2-1 マルチケーブルとは?
「マルチ」とは「たくさん」という意味で、(マルチ商法のマルチと一緒の意味だ(笑))2本以上のケーブルがまとまっているものはすべて「マルチケーブル」なんだけど、通常「マルチ(ケーブル)」と言った場合は8チャンネル以上の「マイクマルチケーブル」の事を指すのだ。普通はチャンネル数もふくめて「○○チャンネルのマルチケーブル」、略して「○○チャンマルチ」といった言い方をし、マイクケーブル以外のマルチケーブルは、「スピーカーマルチ」というように、前に「何の」がわかる単語を付けるのが普通だ。
PAの世界で圧倒的シェアをしめるカナレ社の(マイク)マルチケーブルについて例を取ると、まずケーブル本体には太さが2種類あって、太めの方がL-4E3タイプ、細めのほうがM-202タイプという。L-4E3タイプは1チャンネルごとに4芯とシールドがビニール皮膜に覆われ、それをまとめて全体でビニール皮膜で覆ったもの。要は細めのマイクケーブルを束ねてビニール皮膜で一つにしてしまったようなものだ。強度、電気的特性は優れているものの、太くて重くなってしまうのが欠点。これに対しM-202タイプは芯線を2本にして1チャンネルごとのビニール皮膜をアルミ箔にしたもの。これによってある程度強度と電気特性を犠牲にして、細さと軽さを実現している。よほど使用条件の悪い場所でないかぎり、このM-202タイプで問題はないので最近はこちらのタイプが主流になってきている。(32chのマルチケーブルはM-202タイプしかない。)ケーブルの長さはあまり短いものは意味がないので、10mか30mか50mの3種類がほとんど。
10-2-2 コネクタ
ケーブルの両端にはマルチコネクタが付いている訳だけど、8チャンネルと12チャンネルのマルチコネクタは「NKコネクタ」が使われ、16チャンネルには「FKコネクタ」、24と32cチャンネルには「MSコネクタ」が使われている。「NKコネクタ」と「FKコネクタ」は、角ネジ(溝の断面が3角形ではなく四角形)の採用などにより、脱着が容易で耐久性にも優れるので、使いやすい。ただし昔の8チャンネルや12チャンネルのマルチケーブルの中には、独自の規格のコネクタや、MSコネクタが使われているものもある。
「MSコネクタ」はMilitary Standardの略、つまりアメリカ軍の規格で、色も軍用色のカーキグリーンで塗られている。軍用だけあって信頼性は高いが、重く扱いづらいので、チャンネル数の多いマルチケーブルにのみ使われる。使うときにはロックリングをしっかり回さないと接触不良が起きる場合がある。
「NKコネクタ」と「FKコネクタ」を使うマルチケーブルはほとんどの場合オスとメスのコネクタが付いているけど、「MSコネクタ」のものにはコネクタの規格上、両方ともメスが付いている。(よってMSコネクタを使ったマルチケーブルはケーブル同士をつなぐことは出来ないし、後述の「貫通ボックス」にはオスのコネクタが2つついている。)
10-2-3 ボックス
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図10-2-1 シングルボックス |
キャノンコネクタがオス(もしくはメス)のみの場合は「シングルボックス」という。図10-2-1は、上がマルチコネクタもキャノンコネクタもオスのシングルボックスで、下がマルチコネクタはオスでキャノンコネクタはメスのシングルボックスだ。しかしながらシングルボックスは使い回しが効かないので、あまり使用しない。
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図10-2-2 パラボックス |
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図10-2-3 パラパラボックス |
10-2-4 リール
PAの現場で多用されるものに、マルチケーブルをリールに巻いたものがあるけど、これは「リール」または「ドラム」という。リールの片側はメスのマルチコネクタとなっていて、ここにオスのボックスもしくは貫通を接続して使用する訳だ。もう片方はリールの内部でリール本体に付いているキャノンコネクタに接続されている。要はマルチケーブルとボックスを1つにして巻いたものが「リール」だと思えばいい。長さは30mか50mだけど、24chはケーブルの太さの関係で30mと40mしかない。