9-4-1 三角関数について
「さいん・こさいん・たんじぇんと」という名前くらいは覚えている人も多いかもしれない。日常生活に絶対出てこないような類のものなので、きれいに忘れている人も多いかと思うけど、なにもここで、もう一度三角関数の公式なんかをおさらいするつもりは全くないのでご安心を。三角関数の中で音響屋に必要なものは、とりあえず正弦(サイン)だけだ。
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図9-4-1 SINθ |
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図9-4-2 ターンテーブル |
→ 印の 縦位置 |
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図9-4-3 印の位置変化 |
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図9-4-4 Sinθが縦位置を表す |
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図9-4-5 正弦波 |
ということで判ったような判らないような説明は終わり。
9-4-2 位相について
位相もみんなを悩ませる言葉のうちの一つだ。実際プロのエンジニアの中にも正確に理解しているとはいいがたい人も多い。
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図9-4-6 正弦波の角度 |
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図9-4-7 位相 |
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図9-4-8 距離による位相差 |
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図9-4-8 距離による位相差の例 |
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図9-4-9 逆相スイッチ |
9-4-3 倍音について
倍音(Over Tone / Harmonics)とは簡単にいってしまえば、「音色」を決める要素だ。例えばギターとバイオリンで、同じ音程の音を同じ時間だけ弾いても、みんなはギターの音とバイオリンの音を聴き分けることができる。これはギターとバイオリンの持つ音色が違うためという理由が一番大きな要因だ。それでは音色の違いというのはなにかというと、これが「倍音」というものの含み方の違いなんだな。倍音とは例えば"ド"の音を出したときに同時に出る"ミ"や"ソ"や"1オクターブ上のド"やそれ以外の様々な音のことだ。ちなみにこの倍音を全く含まない音が正弦波なのだったね。
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図9-4-10 倍音 |
このようにたとえ"ド"の音を出していても実はいろんな音が出ている訳なんだな。何故このようにいろんな音が出ているのに"ド"の音だと感じられるかというと、いちばん"ド"の音が大きく出ているからなんだ。(図で定期的に音量の大きい部分)シンバルなど、倍音を多く含みかつ、この周期的に大きくでる倍音がない場合は、その音からは、音程感が感じられなくなるわけだな。
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図9-4-10 倍音の発生 |
このいろんな振動というのが倍音の正体で、音程のある楽器に使われる振動は倍音の発生のが比較的規則正しいのだな。というのは色々な振動といっても全く不規則な振動をはじめるわけではなくて、図9-4-10の下の部分のように振動する山と谷の部分が2つになったり3つになったり4つになったりと、本来の振動の正数倍の振動が起こりやすくて、21/3とかいう振動は起こりにくいのだ。で、正数倍の振動も山と谷の数が多くなってくると発生しにくくなってくるわけだな。
また中途半端な振動は折り返し地点の弦がとめられているところ近辺では比較的発生し易いんだけど、弦の中心にいけばいくほど他の振動成分と打ち消し合うことが多くなるので発生しにくいのだ。だからギターなんかブリッジ(ギターの弦がとめられているところ)近くで弾くと堅い(比較的倍音の多い)音がするし、弦の中心で弾くと柔らかい(比較的倍音が少ない)音がするわけだ。またエレクトリックギターなんかはブリッジに近づけてピックアップをつけると倍音を拾いやすいので堅めの音がするし、弦の中心に近づけると柔らかめの音がするわけで、リアーピックアップ(ブリッジに近いピックアップ)とフロントピックアップ(ブリッジから遠いピックアップ)が同じ種類のピックアップを使っても音質が違うのはこのためだ。
ちなみにギターでハーモニクス奏法(弦をはじいてから弦に軽く指をふれて「ぽーん」という丸い音を出す奏法)というのがあるけど、これは弦に指をふれることによって振動モード(振動のしかた)を強制的に変化させているわけだ。例えば開放弦を弾いて12フレット上で弦にふれると、ちょうど弦の中心をふれていることになるので、弦を2分割したような状態となって弦の中心が揺れるような振動が発生できなくなるわけだ。だから元の音程の振動は中心が押さえられているので発生することができないし、1/3の振動なども発生できなくなるわけで、結果として1オクターブ高い(開放弦の半分の長さの振れ)音が出て、倍音も少ないので正弦波に近い柔らかい音になるというわけだ。だから5フレットか24フレット上で弦にふれると弦の1/4の部分にふれているわけだから2オクターブ高い音が出るし、7フレットか19フレット上で弦にふれると弦の約1/3の部分にふれているわけだから1オクターブ上の5度上の音が出るわけだ。このようにハーモニクス奏法は弦の信号と密接な関係があるので、ハーモニクスが出やすいフレットというのは必ず弦の整数分の1の場所にある。