9-7-1 グランドってなんだ
グランド(Ground)とアース(Earth)は区別して使われていることもあるけど、音響の世界で大体はごちゃ混ぜにして使われている。だから特に区別して考える必要はないし、意味はどちらも「大地」とか「地面」とかいう意味だ。それで何故こんな単語が電気に関係するかというと、地球の地面の電位(地面が持っている電圧)を0V(ゼロボルト)と勝手に人間が決めてしまったのだ。全ての電圧の基準を地面にしたわけだな。で、これがグランドとかアース(日本語でいうと接地)とかの基本的な定義だ。ところがみんなも知っているとおり、やたらとグランドという表示のある音響機器といえど、いちいち地面に線をつなぐような真似はしていないでしょ?つまりグランドとかアースというのは、元の意味から更に「0Vの所」とか「0Vの所につなぐ」という意味を持つようになったわけだ。
9-7-2 システムの中のグランド
実際に音響システム上ではどのようになっているかというと、まず音響機器ごとにそれぞれグランドを決めて、それを基準にしている。それでどこを0Vにするかというと、人間がじかにさわることの多いシャーシ(ケース)を0Vとして決めているわけだ。これを普通「シャーシアース」といっている。(何故か「シャーシグランド」という言い方は聞いたことがない)もしここが100Vだったら、人間はこの音響機器のつまみにさわったとたんに感電してしまうわけだな。(実際昔のトランスレス方式の真空管ラジオではこのようなものがあった。シャーシの上からまるっとプラスティックのボディをかぶせて、感電を防いでいたわけだけど、まあ昭和30〜40年代はそういう恐ろしいことも平気な時代だったようだ。)
さてここでマイク・ミキサー・パワーアンプ・スピーカーという簡単な音響システムについて考えてみよう。これらは単体では図のようにそれぞれが勝手に基準の0Vを持っているわけだ。この時点ではそれぞれの基準が本当の0V(地面と同じ電圧)である必要は全くない。それぞれの音響機器の中で相対的にシャーシが0Vになっているだけの話なのだ。とはいうもののシャーシが地面に比べて極端に電圧が違うことはない。あくまで地面と同じ電圧にしようと設計はしてあるんだけど、色々な状況で必ずしも正確に地面と同じ電圧にならないことが多いという話だ。
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図9-7-1 それぞれの0Vの基準 |
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図9-7-2 システムで1つの基準になる |
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図9-7-3 システムで2つの基準 |
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図9-7-4 完璧なアース |
9-7-3 グランドループとグランドリフト
さてこれまでの例のように、単純な信号の流れならば問題にならなかったことが、システムが複雑になってくると問題としてでてくる。例えば上記のシステムにリバーブなどのエフェクターを加えたとしよう。リバーブはミキサーから出力したものを受けて、ミキサーの入力にリバーブの音を戻すので、図9-7-5のようなシステムになるよな。
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図9-7-5 複雑なシステムの例 |
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図9-7-6 アースループ |
実際にはいちいち地面につなげないことも多いので、地面への接続は省略することも多いけど、(特に小規模なシステムの場合)アースループだけは可能ならばシステムを組む段階で、アースループが出来ないようにシステムを組むのがいい。PAのように毎回システムが替わるものでは、(理想的ではないけど現実的には)ノイズや電位差などの不都合が発生したら、その原因と思われるアースループを切り放すようにする。D.Iなんかに付いているグランドリフトスイッチはこのためのものだと思っていい。
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図9-7-7 アースループを切り離す |
9-7-4 マイクからの感電
よくマイクなんかに口がちょこっと触れた瞬間に電気ショックを受けることがあるけど、これには2通りあって、ひとつは静電気のいたずら。だからすぐにもう一度マイクに触れても感電はしない。静電気でよく誤解されてるのは、この例だと「静電気」がマイクにあると思われていること。気分的にはわからん事もないけど、静電気を持っているのは「自分」なのだよ。床に敷いてあるカーペットや着ている衣服のこすれで人間の体に静電気がたまるのだ。で、人間の体が金属などの電気を伝えやすいものに触れると、静電気はそっちに移動する。この時に先端に痛みが走るのだ。だから先端を他のものに変えれば静電気が動いても痛みは感じない。例えば車のキーなどを持ってそのキーを金属などに触れさせると、火花が飛ぶような量の静電気がたまっていても、基本的には痛みを感じるようなことはない。
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図9-7-8 マイクからの感電 |
ところがこの人間がマイクに口を付けると、お互いがつながっているコンセントを基準にして、グランドラインが高い低いという関係が出来てしまうためにギターアンプから人間の体を通ってマイクの方向に電流が流れてしまう。どのくらいの電流が流れるかは、電位差と口とマイクの間の抵抗によって決まる。よって、唇が濡れた状態なんかだと抵抗が小さくなるので、かなり大きい電流が流れる可能性もある。(昔これで死んだ奴もいるからバカに出来ない)
このようにギターアンプが電位を持ってしまうことはギターアンプが故障しているときだけでなく、電源の位相によっても変わる。残念ながら日本の電源はアンバランス転送なので、プラグの挿す方向によってグランドラインの電圧が変わってしまうことがあるのだ。
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図9-7-9 アース電圧を等しくする |
バンドについてツアーをまわっているローディーなどがギターとマイクの間にテスターを当てているのは、楽器のセッティングをしたあとにギターアンプの電源を入れて、(もちろんPA関係の電源は入った状態で)、電圧が低い方にギターアンプの電源の極性を切り替えて、感電の予防をしているのだ。