9-3-1 デシベルについて
少々音響のことをかじったことのある人間にとって、デシベルとは一つの鬼門だとおもう。モノの本にしろ専門学校にしろ、最初の方にlogがどうしたのこうしたのという式が出て来て、最重要事項のような扱いをされてるし、そのくせその辺の音響屋に聞くと「そんな理論的なことはおれは判らんて。大体そんなもん知らんでもやってける。」というようなありがたいアドヴァイスをいただけるわけで、結構「なんか大事そうなんだけど、かじるとうっとうしそうだからそのままにしておこう」というような腫れ物にさわるような扱いを受けがちなのがデシベルだ。まあ、たしかにこんな物知らなくても音響屋にはなれるし、「あ、モニタのキック、2デシ下げて。」という「わかって言っとんのか?おまえ・・」と胸ぐらをつかみたくなるようなミュージシャンになることも可能だ。
「2デシだあ?おう、わかった、ええか、こ・れ・が・2・デ・シ・じゃ! 痛いか!」
閑話休題。dB計算で使うlogというのは対数を表す記号で、対数というのは、数を何かの何乗という形で表すもので、log23は、2の3乗で、8だ。この対数の中で「何か」にあたる部分が10のもの、つまりlog10というのを特に常用対数というんだな。dB計算ではこれを使う。だから常用対数というのは簡単にいうと、桁の数を数えばいいのだ。10は常用対数で表すと1、1000は3、0.01は-2だ。結構簡単でしょ?
9-3-2 デシベルの定義
当初この単位を必要としたのは電話業界で、ある場所からある場所に電話線で電力(信号)を送ったときに、送った電力をW2、受けた電力W1をとして、
100×log(W1÷W2)
としたものをベル(B)という単位で表すと決めたわけだ。ベルというのは電話の発明者の(うちの一人)の名前アレキサンダー・グラハム・ベルから来ている。最初に何故100をかけたのかは不明だが、まあそういうもんだと思うしかない。
で、このままでは単位がでかすぎて少し不便なので、(だったら最初に100なんか掛けなきゃいいのに・・・)1/10を表す補助単位のデシ(d)を付けてdBとしているわけだ。デシベル用にさっきの式を書き直すと
10×log(W1÷W2) になる。
いい忘れたけどdBというのは相対単位で、常に2つの値を必要とすることに注意。つまり常に「Aに比べてBは何dB」という言い方になるわけで、「Aは何dB」とは言わないわけだ。
それでまあW2を100W、W1を10WとしてW1をW2で割ると、0.1つまり10-1になる。だで10に-1をかけて-10dBというのが答えとして出て来るわけで、「W1はW2に比べて-10dBの電力差がある」といえるわけだ。(さてボチボチややこしくなってきましたね)
さて世の中に頭のいい人は多いもので、このクソややこしいdBを「どえりゃ〜便利だがや(名古屋弁)」と思った人が多かったらしく、電圧や電流に関してもこのdBをつかえんもんかね?と思ったわけだ。元々dBは電力を比べるためのものだから、当然そのままでは使えないんだけど、電力というのは電圧と電流をかけたものだから、電圧をV、電流をA、抵抗をΩとすると、
10×log(W1÷W2) という式は、
10×log(V1A1÷V2A2) というように書き換えられるよね。
更に電圧を電流と抵抗で置き換えると、V=AΩだから、
10×log(Ω1A12÷Ω2A22) になる。
更に2つの抵抗値を等しくする(Ω1=Ω2にする。インピーダンスをそろえるという言い方もできる。)と
10×log(A12÷A22) になる。
2乗を前に出すと、
20×log(A1÷A2)2 になる。
ということで、これが2つの電流を比べるときに使うデシベルの計算式だ。(電圧も計算式は一緒)ということで電圧と電流に対してdBを使うときには最初に10じゃなくて20をかけるのだな。要は電力の時は10、電圧と電流の時は20と覚えとけばいい。(すぐ忘れると思うけど)
それでまあ、そもそも何故こんな単位が必要かというと、あるシステムで1Wの音量で音を聞いていたとしよう(非常に不正確な言い方だけど、まあそれは置いといて)それで音量を10Wまで上げたとする。まあ当然音は大きくなるんだけど、このときどの位の感覚で大きくなったかを覚えておく。次に10Wの状態から初めて、さっきと同じくらいの変化で音を大きくしようとすると、何Wにすればいいだろうか?1Wから10Wは9W大きくなったわけだから、10Wに9Wを足して19W?・・・・・いいえ。答えは100Wだ。1Wから10Wは10倍になったわけだから、10Wに10をかけて100Wという考え方をするのだな。
これは音程の周波数でも同じ事で、音の高さも周波数が倍になれば、音程も1オクターブ上がる(倍の高さに聞こえる)わけだ。このように人間の耳は変化をかけ算で感じるものなのだ。ということで、dBという単位は人間の感じ方と比較的近いのだな。
さらに人間の耳に聞こえる最も小さな音を1とすると、聞くことの出来る最も大きな音は大体1,000,000になる。これじゃ音量を表すのに桁が違いすぎて不便だろ?「最初は568912の音量で、次に28872まで音量を落として下さい」なんて考えただけでもうっとおしいでしょ。それでdBの登場。「最小値と最大値では60dBの違いがある。」というふうに数字がコンパクトになるわけだ。
9-3-3 デシベルの兄弟達
dBという単位が普及(?)するにつれ、相対単位であるdBでは不便な状況が増えてきたわけだ。それである基準の大きさを0dBと決めるやり方が出てきた。それがdBのあとに文字の付く単位たちだ。これらはみな絶対単位なので、「この出力は何dBだ」というように単体で表記することが出来る。
ディービーエムと呼んでいるけど、正しくはディービーミリワットだ。(何故かデシベルミリワットとは言わない)0dB=0.1mWというのが基準なので、インピーダンス(抵抗値)には決まりはないんだけど、電力比の単位として電話回線用に使われていたせいで、インピーダンスは600Ωで0dB=0.1mWというのが元々の意味だ。だけど、この単位は結構便利だということで、最近ではインピーダンスを無視して、0.775Vを0dBとするという意味に変わってきている。(0.775Vとという中途半端な電圧は何かというと、600Ωの抵抗に0.1mWの電力がかかっているときに発生する電圧だ。)だからこの単位は、インピーダンスが600Ωの時にしか使わない人と、インピーダンスを気にせず使う人がいて混乱している。
dBmが、インピーダンスを600Ωとするかしないかで混乱しているので、dBmはインピーダンスが600オームの時のみに使って、それ以外に0.775V=0dBとする単位を作ろうとして決められた単位がこのdBv(vは小文字)だ。後述のdBV(Vは大文字)と間違えやすいので、音響業界では次のdBuを使う場合が多い。
dBvと全く意味はおなじで、0.775V=0dBとしている。無線関係で使われるdBμと紛らわしいけど、音響関係で無線の単位が出てくることはほとんどないので、民生機器やアンバランス回路の入出力を表すときには、このdBuが使われることが多い。
さっきいったように何でdBvやdBuが0.775Vという中途半端な値を基準にしているかというと、インピーダンスが600Ωの時に0.1mWの電力がかかっている場合の電圧ということだったわけだな。ところが考えてみると、もう既にインピーダンスは関係なくなっているのだから、電圧も中途半端な値じゃなくて、判りやすい1Vにしようということで生まれたのがこのdBVだ。家庭用のカセットデッキなんかにはこの単位を使ってレベルを表示していることが多い。Vを小文字のvにすると単位が替わってしまうので注意。
dBVと全く一緒。dBVとdBvを混同しやすいので、作られたようなものだ。ただし民生用機器の表示などに使われているとはいっても、家庭用のオーディオ製品の入出力レベルを、詳しく調べる奴なんかはあんまりいないので、せっかく制定したこの単位も余りお目にかかることはない。
0dB=1Wとした単位。30dBm=0dBWになる。 みんなが扱うような音響機器の単位としては大きすぎるので、余り使うことはない。
SPLというのはSound Pressure Level、要は音圧レベルのことで、音そのもののでかさを表す単位だ。音のでかさという事は空気圧の違いになってくるので、0dB SPL=2×10-5N/m2を基準としている。(Nはニュートンを表す。)地学でもやらん限りどうでもいいことなんだけど、2×10-5N/m2というのは2×10-4μbといってもいいし、2×10-4ダイン/cm2といっても、20マイクロパスカルといってもいい。話がそれたけど、要はこれはなにを基準にしているかというと、1kHzの音(人間の耳が弱い音に対して最も感度がいい帯域)で人間が聞き取れる最も小さい音とされている値なんだな。気を付けなきゃいかんのは、音圧レベルを表す単位はこのdB SPLしかないので、SPLをとってdBだけで表示してあることがあるという事だ。まあ音圧について話していたり、書いてあったりするところに出てくるので、そんなに紛らわしくはないとは思うけど。
正確にいうならそれぞれdB SPL A・dB SPL B・dB SPL Cなんだろうけど、普通は省略してdBA、dBB、dBCと書く。人間の耳は周波数によって感度が違う上に、どのような音を聞くかによっても周波数ごとに感度が違うという面倒なものなのだ。それでその周波数によって感度が違うのを補正しようとした周波数特性の曲線が決まっていて、その曲線がABCの3種類あって、その曲線で補正した音圧レベルの値をそれぞれdBA、dBB、dBCというのだ。ちなみにdBAというのは日本ではJISの規定によって「ホン」という言い方をすることが出来る。たまに国道の交差点なんかで見かける“只今の騒音○○ホン”とかいう電光掲示板にあるあのホンだな。更にややこしいことにはフォン(Phon)という音の大きさを表す単位が更にあって、これは純音を聞いたときの人間の耳の周波数特性を表したラウドネス曲線というものを基準に、人間の耳に感じる量を表した単位だ。まあこの辺は市役所の職員とか建築家にでもならない限り、しらんでもいいとは思うけど。
しかし誰がこんなに単位を考えたんじゃぁ!