8-6-1 エキサイタ
直訳すると「興奮器」となって余計に訳わからんくなるけど、実際その原理も他のエフェクターに比べてわかりにくいこのエフェクターだ。エキサイタは大きく分けて2種類の原理があって、歪みを利用したものが「オーラルエキサイタ」、位相のずれを利用したものが「フェイズエキサイタ」とそれぞれ呼ばれているんだな。とりあえず動作原理が簡単なオーラルエキサイタついて簡単に説明しておこう。
エキサイタの効果は「輪郭をはっきりさせる」「同じ音量で音を前に出す」というような言葉で表現されてるんだけど、要は(耳に付きやすい)高域の倍音成分を付加してやろうというもので、倍音を多く含んでいる音源ならイコライザーで高域をブーストしてやれば同じ様な効果が得られる。だけどもイコライザーで高域をブーストすると、耳に付きやすい高域のノイズも一緒にブーストされてしまうし、元々高域の倍音声分を持っていない音に対してはお手上げだ。ということで、なんとか原音から倍音を作る方法を考えると、上記のように、位相差を利用するか、歪みを利用するかということになって、オーラルエキサイタでは歪みを利用しているわけだ。
![]() |
図8-6-1 エキサイタの原理 |
8-6-2 エキサイタのコントロール
まあ原理的には上記の通りなんだけど、これはあくまで初期型のものの動作原理だ。現在あるエキサイタは、歪ませずに波形を分析して倍音を合成するものをはじめ、色々な回路を組み合わせてあるので、説明を読んでも多分さっぱりなんだか判らないと思う。だから使う時には「適当につまみを回して聴きながら各つまみを設定する。」というような使い方になってしまうのだな。といってもめったやたらにつまみを回しても仕方がないので、一応参考までに、APHEX TYPE-Cを例にとって各コントロールについて説明しておこう。
![]() |
図8-6-2 APHEX TYPE-C ブロックダイアグラム |
![]() |
図8-6-3 APHEX TYPE-C パネル |
まず分岐された入力を高域を強調するフィルターに通す訳なんだけど、どの辺りの周波数から上を強調するのかという設定だ。つまみを右に回せば回すほど(周波数を下げれば下げるほど)エキサイタの効果は増えるけど、元音のイメージが変わってしまう恐れがあるし、左に回すと上品なエキサイタ効果にはなるものの、エキサイタ効果自体は弱くなる。実際の使い方としてはつまみの12時の位置(大体3kHz)から始めて音を聞きながら設定しよう。
基本的にはTUNEで設定した周波数の下に谷を作り、上に山を作って音に「クセ」をつけるもの。取り立ててこうなるというのは難しいので、実際さわってみて好きな所にしてちょ。(名古屋弁)めんどくさい時は12時の位置にしとけばいい。
NULLはナルと発音するんだけど、この場合は、フィルターをかけるとどうしてもTUNEで設定した周波数近辺で元音の特性に谷が出来てしまうんだけど、この谷のことをいっているんだな。でFILLというのは「満たす」とか「埋める」とかいう意味なので、この谷を平らにする機能だ。右に回しきった状態で谷は完全に埋まるんだけど、埋め立てた分だけTUNEが下がってしまうのだな。まあでもNULLの谷は、音としてそんなに聞いてはっきり判るもんでもないので、難しいことは考えずにこのつまみは12時の位置にしときゃいいと思う。
これはフィルターをかけることによって発生してしまうノイズを低減させる為の付属回路。コントロールはA/Bタイプの切り替えスイッチとTHRESHOLDつまみ。Aは一般的なノイズゲートのような効き方をして、Bは前述のHUSH IIのような効き方をする。まあ複数の音源にエキサイタをかけるならA、1つの音源だけにかけるのならBというような使い分けでいいと思う。THRESHOLDはノイズゲート効きを調整するものなので、+30(左に回しきった状態)で事実上ノイズゲートはかからなくなる。他のコントロールの設定によって効き方が変わってしまうので、このノイズゲートの設定は他のコントロールの設定が終わってから決めた方がいい。
倍音を人工的に作り出す部分で、従来の歪みを利用したエキサイタではDRIVEと呼ばれてた部分。このエキサイタでは内部素子による演算で倍音を作り出しているので、歪みは発生しないそうだ。(???よーわからんけど)右に回すほど倍音の発生量が多くなる。
HARMONICSで発生させた倍音成分の「音色」ともいうべきコントロール。EVENというのは偶数という意味で、ODDというのは奇数の意味だ。だから左に回しきると偶数次倍音だけが出力され、右に回しきると偶数次倍音だけが出力される。こんなものが何で付いているかというと、音響心理学的に偶数次倍音は耳障りの良い音、奇数次倍音は耳障りの悪い音とされているのだな。ギターアンプで真空管アンプがもてはやされる大きな理由の一つは、真空管という素子が歪みを発生する時に偶数次の倍音を多くだす事にあるのだ。(もちろんその他にトランスによる音の「なまり」や、高電圧動作によるダイナミックレンジの広さも大きな要因だけど)だからといってこのつまみはEVENの方に回し切っとけばいいかというとそういう訳でもなくて、音を目立たせたい場合は耳障りが悪いだけにODDの成分が多い方が効果がある。
エキサイタ部分と、後述のSPR機能うちエキサイタ効果だけのオンオフスイッチ。
元の音を混ぜるか混ぜないかを選択するスイッチ。オンで元の音は出力されなくなる。コンプレッサなどのエフェクターと同じように、単体の楽器にかけるためにはさみ込む時はオフ、リバーブなどのエフェクターと同じようにミキサから送り出してリターンする場合は、オンにしておく。
エキサイタの効果を元音にどのくらい付加するかの設定。左に回しきった状態ではエキサイタの音は一切出力されない。SOLOがオフの時はこのつまみでバランスを決めるわけだけど、SOLOがオンの時は右に回しきっとけばいい。
SPRとはSpectral Phase Refractorの略で、低域(この場合は150Hz)の位相を進めるもの。この機能は直接エキサイタとは関係ないんだけど、音声信号は色々な音響機器を通ってくると、低域の位相が遅れがちになるというのがあってそれを補正してやろうという回路だ。これも必ず結果の出るエフェクトでもないので、使ってみて音に迫力が出たなと思ったら使えばいいというようなものだ。BBEというエフェクターのベースコントロールも同じ理屈のエフェクターだ。
電子部品のリレーのことなんだけど、ここでは他の機器でいうバイパスのことだ。リレーを使って入力から出力に何の回路も通さずに出力するようになっているので、この名前がある。
8-6-3 フェイザ
その名(Phaser)の通り、位相(Phase)を変調させてやることによって独特のうねり感を出すエフェクター。フランジャに似た原理と効果だけど、生成するコムフィルターの目が粗いので、フランジャよりは優しい感じの音になる。回路自体はディレイを使用しなくても作れるので、フランジャが一般的にエフェクターとして出回る前までは、みんなフェイザを使って遊んでいた。(70年代初期までは、曲中ずっと全体にかけるなどという荒技もあった。)位相をずらす回路をいくつ組み合わせるかによって得られる音がかなり変わって、段数が多いほどきめの細かい音が得られるんだけど、ギターの音などにはかえって段数の少ない方がマッチすることも多く、一概に多い方がいいともいえない。一般的には4段か8段か12段のものがよく使われている。ちなみにSPXシリーズのプリセットの中にあるPHASERは動作原理からして違うので、全然フェイザの音はしない。
8-6-4 ディストーション
音を歪ますエフェクター。ギター用のエフェクターとしてはポピュラーなこのエフェクターだけど、今まで何とか音の歪まないように注意を払っていたレコーディングエンジニアにとっては、神経を逆撫でするエフェクトだ。だからという訳でもなかろうが、プロ用のエフェクターの中でディストーション専用のものは見かけない。最近ちょっと流行ってるのはボーカルにディストーションをかけることで、なかなか攻撃的な音がする。ボーカルにディストーションをかける場合、ギター用としては最低の評価を受ける事の多い、デジタルディストーション(SPX-1000等に入っている)の方がかえって音が荒くなって使いやすい。