8-2 ディレイ

  
  
8-2-1 ディレイの歴史

  




  
8-2-2 ディレイエフェクト

   

    現在ディレイマシンといえば、現在はデジタルディレイマシンの事を指すことが多いので、デジタルディレイについて触れていこう。エフェクターとしてディレイを使う場合には、元の音にディレイを加えることが多いけど、ディレイタイムの取り方によって得られる効果はかなり異なったものになる。

       

  1. 10msec〜50msec

    一般に元音に10msec以下のディレイを加えても、人間はこれを2つの音として認知できないとされているんだな。だから10msecから50msec程度のディレイは、人間の耳に2つの音として分離して聞こえる最小値くらいのディレイタイムといえる。ということで、このくらいの遅れは、音楽的には同じタイミングといって差し支えなく、(テンポ120の128分音符で約30msec)このくらいのディレイタイムのディレイは別々に聞こえる(ずれて聞こえる)んだけど音楽的にはずれていない。ということが出来る。

    図8-2-3
    ディレイによるダブリング
    そこで図8-2-3のように、例えばギターの音を、左のチャンネルからは元の音、右のチャンネルからは30msec位ディレイで遅らせた音を出すと、あたかも左右で2本のギターが同じように弾いている感じを出せる。これがダブリング効果だ。この時ディレイタイムは長ければ長いほど、ダブリング効果は強調されて判りやすくなるけど、当然ながらあまりディレイタイムを長くすると演奏がずれて聞こえるので、早いフレーズには30msec程度、ゆったりとしたフレーズなら50msec程度、ストリングスなどで白玉中心の音源で100msec程度が限界だろう。

    このテクニックは、トラック数の少ないMTRで録音したものをミックスダウンする時に結構使える。例えばバンドものを8トラックで録音した場合、バッキングのギターなどはどうしても1トラックしか使えないけど、定位を考えた場合、ギターまで中央に定位させると殆どモノラルのミックスダウンになってしまうでしょ?かといって右とか左に定位させると左右のバランスが悪くなるし、ステレオコーラスなどでステレオにしても基本的には定位は中央だし、音色まで変わってしまう。そこでこのディレイによるダブリングを使えばもう1トラック使ってギターを重ねたような効果が得られるわけだ。

    この場合注意しなければいけないのは、ハース効果によって左右同じ音量にしてしまうと、ディレイのかかった方の音が小さく聞こえてしまうのだ。ハース効果とは、人間の心理で、左右から同じ音が聞こえた場合、先に耳に届いた方に音源の位置を感じるというもので、この場合は右にディレイをかけて遅らせているわけだから、当然左の方に音源の位置を感じるわけだ。音源の位置を感じるということは、左チャンネルの音の方が大きいということと同意な訳だな。

    左右の音量を等しくすると、左側の方が大きく聞こえる。 右側の音量を少し大きめにして、聴感上でバランスを取る。
    図8-2-4 ハース効果の補正

    だから左右の音量を揃えたい時には、メーターを無視して聴感上でレベル設定をしよう。またステレオで再生している時は良くても、モノラルミックスした時に、位相ずれによって起こる干渉から、音が引っ込んでしまったり音質が変わってしまうことがあるので注意が必要だ。まあ最近の再生システムはほとんどステレオなので、あまり気にすることはないと思うけど、モノラル放送のテレビやAM放送なんかでオンエアされる可能性のある場合は、しっかりとチェックしとかなかん。

       

  2. 100msec〜250msec

    ディレイタイムがこの位になると、音が遅れていることをしっかりと認知できるので、フィードバックを強めにかけるとリバーブの代用品として使える。まあリバーブが安価になった現在、あえてリバーブの代用品としてディレイを使う必要は、全くといっていいほど無いんだけど、ロカビリーやオールディーズバンドのボーカルなんかにかけると、古くさい感じが再現できていいぞ。またカラオケのいわゆるエコーもこれなので、下手にかけると場末の飲み屋のような雰囲気になってしまうので気を付けようね。

       

  3. 300msec〜500msec

    普通ディレイをかけるといったら、この辺りのディレイタイムのものを指すことが多い。実際に一番よく使われるのもこの辺りのディレイタイムだ。音楽ものに限らずドラマなんかの回想シーンでもよく使われてるよね。

    お前がやったんだろう!

    人殺し!

    みたいなやつね。(^_^;

    で、今や陳腐になってはしまった使い方とはいえ、非常に効果としては強力なエフェクトだということが出来る。強力なエフェクトであるが故に、音楽もので使用する時には注意が必要なのだよ。一般に音楽ものでこの辺りのディレイタイムのディレイを使う時には、曲のテンポに合うようにディレイタイムを設定する。なぜかちゅーとテンポにあっていないディレイは音楽を台無しにする恐れがあるからなのだ。

    図8-2-5
    ディレイによるリズムのずれ
    ここで極端な例を挙げてみよう。あるテンポが120の曲があったとして、これにディレイをかける。このテンポでの4分音符1つ分の長さは、500msだ。(テンポが120というのは、1分間に4分音符が120個入る速さのことだから、60秒/120=0.5秒という計算ね)

    で、この曲の1拍目に、何も考えずにディレイタイム375msのリピートディレイをかけたとしよう。(図8-2-5の赤い音符ね。)375msecというのは500msecの3/4なので、長さは付点八分音符の長さになるでしょ?そうすると最初のディレイは1拍目の裏裏、2つめは2拍目の裏、3つめは3拍目の表裏というようにディレイが現れるので、元の音符にディレイによって発生した音を加えると図8-2-5のようにとんでもない音符になってしまう。

    まあ逆にこれは、ディレイによって出来る音符の長さが「音楽的」なのでまだいいけど、実際にはこのくらいのディレイタイムのディレイをかける時に、他の音と喧嘩したり、音が濁ってしまうことは良くある話だ。で、そうならないようにするには、ディレイの音量を下げるか、ディレイタイムをテンポに合わせてやるという結論になるわけだな。テンポに合わせるといっても、4分音符に合わせるだけじゃなくて、8分音符や三連符に合わせたりしてもいい。図8-2-5の付点八分の例なんかも、判っててやるなら面白いかもしれない。要はセンスの問題よ。

    テンポに合ったディレイタイムを求めるのは、曲のテンポがわかっていれば比較的簡単だ。先述の通りテンポ=Xということは1分間に4分音符がX回演奏できる速さだから、1/Xが4分音符1つ分の長さになる。このままでは単位が「分」なので、判りやすいようにミリ秒に単位を換えると6000/Xになる。これを半分にすると8分音符の長さだし、3/4をかけると付点8分音符の長さ、1/3をかけると1拍3連の長さだ。

    まあでも、シーケンサーやドンカマを使っていない限り、テンポは大体しか判らないので、こういう場合は

    1. カンであわせる。
    2. メトロノームでテンポをはかる。
    3. タップ機能の付いたディレイを使う。

    などの方法でディレイタイムを決める。

    カンであわせるといったって、闇雲に探してもしかたないので、日頃から「大体このくらいだとテンポはいくつぐらいだな」という感覚を身につけておくようにする。大体ミドルテンポのものは130〜140位なので、この辺りのテンポの1拍のディレイタイムは400〜500msec位になる。どバラードは60〜70位で、新装開店で地獄の席取り合戦が始まる合図の軍艦マーチは120位だ。ディレイタイムはぴったり合わせるよりよりも少し長めに取っておくのがコツ。 何でかというと、ずれた時にディレイタイムがテンポより早くなると、うざったく聞こえてしまうのだ。逆に少し位テンポに対してディレイが遅れる分にはそんなに気にならないのだよ。(人間の演奏しているものなんか、そんなに正確にテンポをキープできるわけでないので、どこかでずれてくるのは仕方のない)

    メトロノームでテンポをはかる時も、大体いくつ位かを測れればいいので、大体のテンポを取った後でディレイタイムを決めて、微調整はディレイのディレイタイムで調整しよう。最近は電子式のメトロノームも安くなっているので1つくらいはもっておいた方がいいぞ。買うとしたらBOSSのDB-11のようにタップ機能が付いたものがいい。タップ機能とはメトロノームにボタンが付いていて、そのボタンを何回か押すと押す間隔の時間がテンポで表示される機能で、大体のテンポを取りたい時にはとても便利だ。ちなみにDB-11は体感器としてもポピュラな存在だ。

    体感器について
    パチンコ機の第1種と第4種(平たくいえばデジパチと権利モノのことだ)やパチスロの中には、大当たりを判定するカウンターの周期が比較的遅く、大当たりのポイントさえわかればカウンター周期に合わせて球を打ったりレバーをたたいたりすることによって少ない投資で大当たりをねらえる機種が存在する。(この方法では大当たりとは関係のないタイミングでは球の打ち出しを止める必要があるので、これを防止するためによくパチンコ店で『単発打ち、変則打ちお断り』という張り紙がしてあるわけだ)

    このカウンター周期をはかるためにメトロノームを使う訳なんだけど、パチンコ店の中ででかい音でメトロノームをならしたりイヤフォンで効いていたりすると非常に目立ってしまう。メトロノームをパチンコ店で使っても別に法律違反でもなんでもないんだけど、(パチンコ機などを故意に破壊・変形させたり、誤動作を起こさせるような行為をしない限り法律違反にはならない。トランシーバーや携帯電話などは電波によってパチンコ機などが誤動作を起こすことがあるのでこれらの使用は法律違反になる)パチンコ店には独自の法律があってメトロノームを使っているのが見つかると、事務所に連れていかれて、口頭による穏やかな注意を受けて重傷を負う恐れがあるので、普通は見つからないように、メトロノームのクリック音をリレーなどで振動に変えて体の見つかりにくい部分(腹など)に張り付けて使うのだよ。(体感器の名前はここから来ている)

    まあ最近では体感器で美味しい思いの出来る機種はほとんどなくなってきているので、一昔前のようにどう見ても音楽とは縁のなさそうなパンチパーマ軍団が楽器店に来て、メトロノームを50個注文するというようなことはなくなったけどね。まあ確かにチャレンジマン(尚球社のパチスロ2-1号機)なんかは1日10万コースも夢ではなかったんだけど・・・ま、10年前の話だな。

    図8-2-6 プレイメイト
    さらにデジタルディレイの中には、ローランドのSDEシリーズ(SDE-2000を除く)のように「PLAY MATE」というちょっとえっちな名前で、このタップ機能を備えているものがある。これは超便利だ。PAなんかでメインミキサの近くにフットスイッチが置いてあったら、そのフットスイッチは、ディレイのタップ機能用のものだと思って間違いがない。レコーディングスタジオ志望の人は、「パシリ」が終わった後によくさせられるのが、テープレコーダの調整とともにこのディレイタイムの計算なので、電卓を用意して慣れておくように。

       



       
    8-2-3 パンニングディレイ

       




       
    8-2-4 ハイパラメータ
       

        



       
    8-2-5 音像定位補正
       

       



       
    8-2-6 ハウリング対策