8-2-1 ディレイの歴史
音を自由に遅らせて取り出せる機器というのは、昔から音響屋にとって結構魅力的で必要性の高いものだったんだな。ところがリバーブは、エコールームという空間とマイクとスピーカで、曲がりなりにも得られたのに対して、純粋に時間の遅れた音を取り出すのは空間とマイクとスピーカだけでは難しく、実際に音響屋がディレイを手に入れたのは、磁気録音が開発されてからの話なんだ。それで磁気ワイヤーや磁気ドラムによるディレイマシンが次々と開発されたんだけど、広く一般的に普及したのは(アナログオープン)テープレコーダを使ってディレイを生成する方法だ。
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図8-2-1 テープディレイの原理 |
というわけで、普通のテープレコーダでもこの効果は得られるんだけど、テープスピードやヘッドの距離が一定なので、数種類のディレイパターンしか得られないし、テープレコーダを単なるエフェクターとしてしまうのはもったいないので、各社から色々なテープディレイマシンが発売された。
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図8-2-2 テープディレイマシン |
RE-201はエンドレステープを遊ばせるスペースを作ることによって、長いテープを装備でき、それによってテープの磨耗も少なく長時間の連続使用に耐えられるという優れた特徴を持っていたわけだ。しかも複数の再生ヘッドによる、複雑なディレイパターンを生成できるのはもちろん、モノラル仕様ながらスプリングリバーブを内蔵していたので、ディレイ+リバーブというエフェクトを簡単にかけることが出来た。
考えてみれば当時、マスターデッキにはオープンテープレコーダを使っていたので、保守さえしっかりしていればそのオープンテープレコーダと同じクオリティーのディレイを、テープディレイマシンは生成できたわけで、電子式のアナログディレイが開発された後も(特にディレイタイムの長い)ディレイマシンの主流はテープ式だった。
というわけでテープディレイマシンの天下に挑戦状をたたきつけたのが、電子式アナログディレイだ。これはBBDというICの登場によって出てきたものだ。BBDとはBucket Brigade Deviceの略で、簡単に訳すと「バケツリレーの素子」。これはどういう原理で音を遅らせるのかというと、その名の通り音を「バケツ」に入れて、与えられたクロックパルスのタイミングによって、次のバケツに渡すというのを繰り返すというとんでもない力技もの。バケツの数を増やせば増やすほど、クロックパルスの間隔を長くとれば取るほどディレイタイムを長くできる計算だ。この電子式アナログディレイの優れたところは、電気的にディレイを生成するので、テープ式のディレイマシンに比べて消耗劣化する部分が無く、半永久的に性能を維持できることと、モーターなどの重くて価格の張る部品が必要ないので、比較的安価での製造が可能ということだ。またテープ式ディレイマシンでは生成しにくい短いディレイ(10msec以下)を簡単に作り出せるというメリットもある。
この電子式アナログディレイの登場によって、一気にテープ式ディレイマシンが駆逐されるかと思いきや、そうはならなかった。何でかというとBBD素子の限界で、長いディレイタイムのディレイを生成することが出来なかったんだな。正確にいうとクロックパルス周波数をおとせば、結構長いディレイタイムのディレイを作ることは出来たんだけど、もしそうするとクロックパルス周波数が、可聴周波数帯にまで下がってしまい、これが信号系に漏れるのを防ぐため、3kHzとか5kHzとかとんでもないところまで、ディレイ信号の出力にローパスフィルターを入れる必要があったわけだ。当然高域特性の極端に悪化したディレイ信号になってしまうので、クロックパルス周波数はそう下げるわけにも行かず、何とか使えるディレイとしては500msec位、ディレイの高域特性の劣化が気にならないようにするには200msec位が限界だったんだ。
まあでもメンテナンスフリー(保守の必要がない)で比較的安価というのは結構魅力的で、現在でもカラオケのいわゆるエコーや楽器用のエフェクターなどのディレイマシンとして広く使われている。また後で触れるけど、電子式アナログディレイの高域特性の悪さが逆に幸いして自然な暖かみのある音として、電子式アナログディレイを愛用するエンジニアやプレーヤもいる。さらに短いディレイの応用エフェクターのフランジャやコーラスなどのディレイ生成用として、電子式アナログディレイは現在でも多く使用されている。
長かったテープディレイマシンの時代に終止符を打ったのが、デジタルディレイだ。これは音声信号を一旦デジタル信号に変換して、メモリーに蓄え、一定時間ののちにそのメモリーの内容を再び読み出して、再びアナログ信号に変換してディレイを生成するもので、電子式アナログディレイと同じくメンテナンスフリーでありながら、長いディレイタイムのディレイが、殆ど音質の劣化がなく得られるので、あっという間に普及した。当然普及につれ価格も下がってきている。なんせ20年くらい前は「何でもアメリカの方じゃ『れきしこん』とかいうところとかが、デジタルディレイちゅーもんをだしてるそうな」ということは知ってても、その当時で高級車の買えるくらいの値段だったので、所詮お話の中での世界だったのだ。それがまたしてもローランドがSDE-2000というデジタルディレイを20万円を切る値段で出したので、これも爆発的に売れた。なんせディレイタイムが数字で表示されるというのが、当時とてつもなくかっこよかったのだ。で、今はというと、ご存じの通りディレイのみならず、さまざまなエフェクトを内蔵したマルチデジタルエフェクターが、5万円を切るような値段で売られている。逆に今はデジタルディレイ単体としては、プロ用のものしか無くなってしまったので、値段的には比較的高価なものが多い。
デジタルディレイのもう1つの優れた点は、ディレイタイムが正確に設定できるという事がある。これによって大ホールや体育館なんかでの、マルチスピーカシステムの定位補正なんかも簡単に出来るようになった。これについても後で触れるね。
8-2-2 ディレイエフェクト
現在ディレイマシンといえば、現在はデジタルディレイマシンの事を指すことが多いので、デジタルディレイについて触れていこう。エフェクターとしてディレイを使う場合には、元の音にディレイを加えることが多いけど、ディレイタイムの取り方によって得られる効果はかなり異なったものになる。
一般に元音に10msec以下のディレイを加えても、人間はこれを2つの音として認知できないとされているんだな。だから10msecから50msec程度のディレイは、人間の耳に2つの音として分離して聞こえる最小値くらいのディレイタイムといえる。ということで、このくらいの遅れは、音楽的には同じタイミングといって差し支えなく、(テンポ120の128分音符で約30msec)このくらいのディレイタイムのディレイは別々に聞こえる(ずれて聞こえる)んだけど音楽的にはずれていない。ということが出来る。
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図8-2-3 ディレイによるダブリング |
このテクニックは、トラック数の少ないMTRで録音したものをミックスダウンする時に結構使える。例えばバンドものを8トラックで録音した場合、バッキングのギターなどはどうしても1トラックしか使えないけど、定位を考えた場合、ギターまで中央に定位させると殆どモノラルのミックスダウンになってしまうでしょ?かといって右とか左に定位させると左右のバランスが悪くなるし、ステレオコーラスなどでステレオにしても基本的には定位は中央だし、音色まで変わってしまう。そこでこのディレイによるダブリングを使えばもう1トラック使ってギターを重ねたような効果が得られるわけだ。
この場合注意しなければいけないのは、ハース効果によって左右同じ音量にしてしまうと、ディレイのかかった方の音が小さく聞こえてしまうのだ。ハース効果とは、人間の心理で、左右から同じ音が聞こえた場合、先に耳に届いた方に音源の位置を感じるというもので、この場合は右にディレイをかけて遅らせているわけだから、当然左の方に音源の位置を感じるわけだ。音源の位置を感じるということは、左チャンネルの音の方が大きいということと同意な訳だな。
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左右の音量を等しくすると、左側の方が大きく聞こえる。 | 右側の音量を少し大きめにして、聴感上でバランスを取る。 |
図8-2-4 ハース効果の補正 |
だから左右の音量を揃えたい時には、メーターを無視して聴感上でレベル設定をしよう。またステレオで再生している時は良くても、モノラルミックスした時に、位相ずれによって起こる干渉から、音が引っ込んでしまったり音質が変わってしまうことがあるので注意が必要だ。まあ最近の再生システムはほとんどステレオなので、あまり気にすることはないと思うけど、モノラル放送のテレビやAM放送なんかでオンエアされる可能性のある場合は、しっかりとチェックしとかなかん。
ディレイタイムがこの位になると、音が遅れていることをしっかりと認知できるので、フィードバックを強めにかけるとリバーブの代用品として使える。まあリバーブが安価になった現在、あえてリバーブの代用品としてディレイを使う必要は、全くといっていいほど無いんだけど、ロカビリーやオールディーズバンドのボーカルなんかにかけると、古くさい感じが再現できていいぞ。またカラオケのいわゆるエコーもこれなので、下手にかけると場末の飲み屋のような雰囲気になってしまうので気を付けようね。
普通ディレイをかけるといったら、この辺りのディレイタイムのものを指すことが多い。実際に一番よく使われるのもこの辺りのディレイタイムだ。音楽ものに限らずドラマなんかの回想シーンでもよく使われてるよね。
お前がやったんだろう!
お前がやったんだろう!
お前がやったんだろう!
お前がやったんだろう!
お前がやったんだろう!
お前がやったんだろう!
お前がやったんだろう!..........
人殺し!
人殺し!
人殺し!
人殺し!
人殺し!
人殺し!
人殺し!..........
みたいなやつね。(^_^;
で、今や陳腐になってはしまった使い方とはいえ、非常に効果としては強力なエフェクトだということが出来る。強力なエフェクトであるが故に、音楽もので使用する時には注意が必要なのだよ。一般に音楽ものでこの辺りのディレイタイムのディレイを使う時には、曲のテンポに合うようにディレイタイムを設定する。なぜかちゅーとテンポにあっていないディレイは音楽を台無しにする恐れがあるからなのだ。
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図8-2-5 ディレイによるリズムのずれ |
で、この曲の1拍目に、何も考えずにディレイタイム375msのリピートディレイをかけたとしよう。(図8-2-5の赤い音符ね。)375msecというのは500msecの3/4なので、長さは付点八分音符の長さになるでしょ?そうすると最初のディレイは1拍目の裏裏、2つめは2拍目の裏、3つめは3拍目の表裏というようにディレイが現れるので、元の音符にディレイによって発生した音を加えると図8-2-5のようにとんでもない音符になってしまう。
まあ逆にこれは、ディレイによって出来る音符の長さが「音楽的」なのでまだいいけど、実際にはこのくらいのディレイタイムのディレイをかける時に、他の音と喧嘩したり、音が濁ってしまうことは良くある話だ。で、そうならないようにするには、ディレイの音量を下げるか、ディレイタイムをテンポに合わせてやるという結論になるわけだな。テンポに合わせるといっても、4分音符に合わせるだけじゃなくて、8分音符や三連符に合わせたりしてもいい。図8-2-5の付点八分の例なんかも、判っててやるなら面白いかもしれない。要はセンスの問題よ。
テンポに合ったディレイタイムを求めるのは、曲のテンポがわかっていれば比較的簡単だ。先述の通りテンポ=Xということは1分間に4分音符がX回演奏できる速さだから、1/Xが4分音符1つ分の長さになる。このままでは単位が「分」なので、判りやすいようにミリ秒に単位を換えると6000/Xになる。これを半分にすると8分音符の長さだし、3/4をかけると付点8分音符の長さ、1/3をかけると1拍3連の長さだ。
まあでも、シーケンサーやドンカマを使っていない限り、テンポは大体しか判らないので、こういう場合は
などの方法でディレイタイムを決める。
カンであわせるといったって、闇雲に探してもしかたないので、日頃から「大体このくらいだとテンポはいくつぐらいだな」という感覚を身につけておくようにする。大体ミドルテンポのものは130〜140位なので、この辺りのテンポの1拍のディレイタイムは400〜500msec位になる。どバラードは60〜70位で、新装開店で地獄の席取り合戦が始まる合図の軍艦マーチは120位だ。ディレイタイムはぴったり合わせるよりよりも少し長めに取っておくのがコツ。 何でかというと、ずれた時にディレイタイムがテンポより早くなると、うざったく聞こえてしまうのだ。逆に少し位テンポに対してディレイが遅れる分にはそんなに気にならないのだよ。(人間の演奏しているものなんか、そんなに正確にテンポをキープできるわけでないので、どこかでずれてくるのは仕方のない)
メトロノームでテンポをはかる時も、大体いくつ位かを測れればいいので、大体のテンポを取った後でディレイタイムを決めて、微調整はディレイのディレイタイムで調整しよう。最近は電子式のメトロノームも安くなっているので1つくらいはもっておいた方がいいぞ。買うとしたらBOSSのDB-11のようにタップ機能が付いたものがいい。タップ機能とはメトロノームにボタンが付いていて、そのボタンを何回か押すと押す間隔の時間がテンポで表示される機能で、大体のテンポを取りたい時にはとても便利だ。ちなみにDB-11は体感器としてもポピュラな存在だ。
体感器について このカウンター周期をはかるためにメトロノームを使う訳なんだけど、パチンコ店の中ででかい音でメトロノームをならしたりイヤフォンで効いていたりすると非常に目立ってしまう。メトロノームをパチンコ店で使っても別に法律違反でもなんでもないんだけど、(パチンコ機などを故意に破壊・変形させたり、誤動作を起こさせるような行為をしない限り法律違反にはならない。トランシーバーや携帯電話などは電波によってパチンコ機などが誤動作を起こすことがあるのでこれらの使用は法律違反になる)パチンコ店には独自の法律があってメトロノームを使っているのが見つかると、事務所に連れていかれて、口頭による穏やかな注意を受けて重傷を負う恐れがあるので、普通は見つからないように、メトロノームのクリック音をリレーなどで振動に変えて体の見つかりにくい部分(腹など)に張り付けて使うのだよ。(体感器の名前はここから来ている) まあ最近では体感器で美味しい思いの出来る機種はほとんどなくなってきているので、一昔前のようにどう見ても音楽とは縁のなさそうなパンチパーマ軍団が楽器店に来て、メトロノームを50個注文するというようなことはなくなったけどね。まあ確かにチャレンジマン(尚球社のパチスロ2-1号機)なんかは1日10万コースも夢ではなかったんだけど・・・ま、10年前の話だな。 |
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図8-2-6 プレイメイト |
8-2-3 パンニングディレイ
ディレイを複数台用意して、ディレイ音の定位を動かした効果をパンニングディレイというんだけど、この中でも代表的なのがピンポンディレイだ。これはフィードバックの定位が一回毎に右左入れ替わるもので、最近はあんまり流行っとらんけど一時期ボーカルによくかかっていたエフェクトだ。ディレイ音が左右を飛び回ることから、ピンポンディレイというわけだな。
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図8-2-7 ピンポンディレイ1 |
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図8-2-8 ピンポンディレイ2 |
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図8-2-9 ピンポンディレイ3 |
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図8-2-10 ピンポンディレイ4 |
同じ方法でディレイタイムを変えるとディレイ音が2回ずつ返ってくるようなディレイもできる。上側のディレイを50ms下側のディレイを250msにしてみよう。入力された信号はまず50msと250msずつ遅れて出力される。さらに250ms遅れた信号が再入力されるので、次は300msと500msの信号が出力される。これを繰り返していくと、50msecずれたディレイが250msec毎に出力され、「たたん・・たたん・・」といったディレイになるというわけだな。
ヤマハのSPXシリーズでは、このようにフィードバックがお互いのディレイに影響する2台のディレイを1つのプログラムに収めたものが、「DELAY
LR」という名称で入っている。(SPX-900や1000は中央にもディレイを加えて「DELAY
LCR」という名称だ)
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図8-2-11 パンニングディレイ1 |
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図8-2-12 パンニングディレイ2 |
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図8-2-13 パンニングディレイ3 |
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図8-2-14 パンニングディレイ4 |
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図8-2-15 パンニングディレイ5 |
このようなディレイお互いにフィードバックが影響しあわないようなディレイはヤマハのSPXシリーズでは「STEREO ECHO」という名前で入っている。
8-2-4 ハイパラメータ
ディレイマシンのパラメータの中には、「HIGH」とかその手の名前の付いたパラメータが付いてることが多いんだけど、これはなにかというと、フィードバックの高域を減衰させるパラメータだ。要はフィードバックの音質を劣化させるものなのだよ。何でわざわざこんなものが付いているかというと、原音がほぼ忠実に反射してくるディレイなぞ不自然だからだ。
ディレイは山彦のような形で自然界に存在しているけど、「やっほー」といった声が、そっくりそのまま返ってきたら不気味でしょ?もしそんなことが起きたなら織田無道を呼んで除霊してもらわなきゃいかん。自然に存在するディレイは必ず音がこもって(=劣化して)返ってくるものなのだ。
テープディレイやアナログディレイの場合は、特に意識しなくても、機械の性能上いやでも音質が劣化してくれたので、あまり気にすることはなかったんだけど、(テープディレイやアナログディレイの音が暖かくて好きだという人は、このことをいっているんだと思う。)デジタルディレイではほぼ忠実に原音を再生するので、人為的にあえて高域特性を劣化させてやることによって、自然な感じに聴かせようとするのだ。まあ最近では、原音そのままのディレイに聞き手の耳が慣れてきたせいもあって、そんなに厳密に設定することも少なくなってきたけどね。
8-2-5 音像定位補正
これから紹介するディレイの使い方は、PAの分野などではとても重要なテクニックなので紹介しとこう。
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図8-2-16 音像定位補正1 |
なぜこんなことになったかというと、音が伝わる速さ(=音速)は大体毎秒340m位だ。(正確にはt=温度として、331.5+0.6t)ということは、音源から340m離れているところで聞いている人は、1秒前の音を聞いていることになるわけだな。
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図8-2-17 音像定位補正2 |
それでは、このエンジニアの努力を無駄にしないために、どうすればよいかというと、サブスピーカへのラインに1秒のディレイをかけてやればいいのだよ。そうすることによってメインスピーカからの音とサブスピーカからの音は、同じタイミングで音が出ているように聞こえるので、サブスピーカによって明瞭にメインスピーカの音を聞いているような感じにすることができるわけだ。
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図8-2-18 音像定位補正3 |
8-2-6 ハウリング対策
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図8-2-19 ハウリング |
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図8-2-20 みのもんたハウリング |
で、ハウリングが起きてしまった時に、みのもんたはどう言うかというと、「奥さんテレビから離れて」とか「テレビのボリュームを小さくして」というわけだ。さすがみのもんた、よく音響を心得ていらっしゃる。そう、ハウリングはスピーカから出た音が、マイクなどに入るまでに十分小さい音になっていれば起きないのだ。
十分小さい音にするための手段は、みのもんたのいうとおり2つあって、スピーカとマイクなどを十分に離すか、スピーカから出ている音を小さくすることだ。だけどPAのモニターなどの場合、スピーカの音量を下げるわけにはいかないことが多い。そこでまずは、グラフィックイコライザーなどでハウリングしやすい周波数帯だけ音量を下げるわけだ。但しこれにも限界がある。だってハウリングするということは、十分大きな音がスピーカから出ているということで、それをグラフィックイコライザーなどでカットするということは、どんどんスピーカから出ている音を小さくするということなんだもんな。そうすると肝心の音量が小さくなってしまって元の木阿弥だ。かといってスピーカからマイクを離すと、モニタを聞く人とスピーカの距離が離れるということなので、これも無意味だ。
ということで前フリが長くなったけどここでディレイの登場〜。
前にも少しふれたけど、人間の耳には10msec以下のディレイは、遅れとして認知できないという人間のとろさを利用するのだ。例えばマイクとスピーカの間にディレイをはさんで、10msec遅らせたとしよう。人間の耳にはこの10msec遅れた音は遅れとは認知できないけど、音は1秒間で約340m伝わるので、10msecで3.4m離して聞いているのと同じということになる。とどのつまり、マイクからみれば実際の距離よりも3.4m多くスピーカが離れているのと同じことになるというわけだ。
PAのモニターなどを実際に経験してハウリングと一戦を交え苦労したことのある人なら、すごくいい方法を聞いたぞという気になったと思うけど、ここでディレイを買いにいく人は、多宝搭とかをだまされて買ってしまう人たちだ。世の中そんなうまい話はないぞと。(^_^;
つまりこーゆー訳だ。ディレイをかけることによってコムフィルター(フランジャの所でふれる)が出来てしまい、音に癖が付いてしまって、かえって音が聞きづらくなることが多いという理由と、PAの音場は複雑な音場なので、ただでさえ乱れがちな位相とかがさらに乱れて、実際にはあまり期待したような効果が得られないという理由により、実際あまり使われることはない。まあでも非常手段として知っておいても損はないと思うよ。最近はやたら声の小さい自称ボーカリストが多いからなぁ・・・・っけっ。