7-6 ボーカルの音作り

  
  
7-6-1 ボーカル

   

  • ハイパスフィルターは、声が変化しないぎりぎりまで入れておこう。(大体100〜150Hz位)
  • イコライジングは原音を損なわないように注意する。どうしても録音時の失敗を取り戻すイコライジングをしなくてはならなくなった場合は、以下を参考のこと。
  • 声に暖かみが足りない場合は700Hz近辺をブーストする。
  • 声がキンキンする場合は、2kHz〜4kHzをカットしてみよう。
  • ヌケが悪い時は8kHz近辺をブーストするか、500Hz近辺をカットしてみよう。
表7-6-1 ボーカルのイコライジング

   
  • リバーブ
    なんといってもなくてはならないのがリバーブ。ボーカルの一部と考えて、他の音源以上に注意深く設定する。一般的にはプレート系のリバーブが多用される。これはプレート(鉄板)リバーブの明るい響きがボーカルに良く合うためだ。

    バラードなどでよく聞かれるシビリアンス(歯擦音。日本語ではサ行の音に多い「しゅっ」っといった音の事)を強調したようなリバーブは、プレート系のリバーブをローカットしたり、高域のリバーブタイムを低域に対して長くするなどして作った物だ。(高域のリバーブタイムが低域のリバーブタイムに対して大きい残響など、自然界には存在しないが、デジタルリバーブなどを使えば簡単に実現できる。)

    ボーカルに使うプレートリバーブは、比較的はっきりとメーカーや機種の音の差が出やすいので、プロのエンジニアにはそれぞれお好みのボーカル用リバーブがある。比較的ソニーやレキシコンなどのメーカーのリバーブが得意とする系統の音だ。

    また特殊な効果としてリバーブタイムを1sec辺りにすると響きの殆ど感じないダブリングのようなリバーブになる。

    ボーカルにかけるリバーブは、なにも1台に限られているわけではないので、キャラクターの違うリバーブを組み合わせることもよく使う方法だ。(例えばリバーブタイムの1.5sec位の短い物と2.5sec位の長い物の組み合わせとか、プレートとホールリバーブの組み合わせなど)

  • ディレイ

    ディレイをボーカルに使う時は、ロングディレイで歌詞の一部を何回か繰り返させる使い方が多い。これは今や当たり前になった使い方ではあるものの、言葉が繰り返すことのインパクトは結構大きいので、曲の中でアクセントをつけるエフェクトとしては未だによく使われる。また少し前までは、一拍ディレイを薄目にボーカルにかけっぱなしにするという使い方もよくあった。

    その他には特殊な効果を狙って30msec位のシングルディレイでダブリングしてみたり、200msec位のリピートディレイを使って、カラオケのような感じや60'sの様な感じを出すといった使い方もある。

  • アーリーリフレクション

    テンポのある曲などで、「リバーブをかけるとスピード感が失われるし、かといって生だとボーカルだけ浮いてしまうという」時などにはアーリーリフレクションが効果的だ。リバーブの音に慣れていると最初は違和感があるが、独特の雰囲気はシンプルなロックなどに合う。

  • コンプレッサ

    コンプレッサは必需品といってもいいだろう。ただしこのコンプレッサの使い方は、楽器に音色を変化させようとしてかける時と違って、音色がなるべく変化しないようにしなければならないので、比較的あっさりとしたかけ方になり、レシオが1:2〜1:4くらいで、ピーク時に−5VU位になるようスレッショルドを調整する。音を変化させるのが得意なコンプレッサなら、使わない方がいい。

  • ノイズゲート

    これは立ち上がりや消えぎわにどうしても不自然さが残るので、かけることはほとんどない。ボーカルのオーバーダブの時に入ってしまった余分な音は、(必要なところを消さないように細心の注意を払いながら)あらかじめ消去しておこう。デジタルMTRを使用している場合は、リハーサルモードにしておき、オートパンチイン、パンチアウトのタイミングを音を聞きながら指定して、OKならばリハーサルモードを解除し、消去すると間違いがなくて便利。

  • エキサイタ

    ボーカルにはよく使用されるエフェクトだが、エキサイタは「パラメータをこう動かすとこうなると」いった結果がはっきりと分かりにくいエフェクターなので、パラメータやエフェクトの量は、聞きながら決めるしかない。基本的には攻撃的な音にしたい場合や、エキサイタの効果を強く得たい時などは、ODD(奇数次倍音)を多く、さりげなくかけたい時はEVEN(奇数次倍音)を多めにするといい。馴れないいうちは(効果がわかりにくいので)かけすぎてしまうことが多いので注意が必要。エキサイタをオンオフして比べてみて、はじめて違いが判る程度にしておいた方がいいよ。

  • フランジャ/フェイザ

    最近ではあまり聞かないが、70年代にはよく使われた。ジャパンというバンド(古いバンドなので知らないとは思うが)のボーカルには、最初から最後までフランジャがかけてあって独特の不思議なな雰囲気を出すのに成功している。持続音の方が効果が判りやすいエフェクターなので、比較的ねちっこく唄っているボーカルなどには効果的だが、かけるのは一部分にしておいた方が一般的には無難だろう。

表7-6-2 ボーカルのエフェクト