7-2 ドラムの音作り

  
  
7-2-1 タム

  

  • ハイパスフィルタはあまり派手にかけると迫力がなくなるので、20Hzから80Hz位にとどめておいた方がいい。
  • イコライジングについては、なによりも効果的なのが中域をカットして(削って)やることだ。タムの大きさやチューニングによって違うが、ふつうのタムで700Hzから1kHz位、フロアタムで400Hzから700Hz位の部分をカットする。Q(バンドワイズ)は比較的広めでいい。ただしカットしすぎると、落ちついた音になる代わりに、音量感がなくなってしまうので注意
  • その他のポイントは、ふくらみや迫力の部分は100Hzから200Hz位、ぱちっとしたアタック音は4kHz近辺を、ぺたっとした部分は10kHz近辺をそれぞれピーキングイコライザでブースト(強調)してやる。妙に硬いアタックがある時は2kHzから4kHz位を少しカットしてみよう。

表7-2-1 タムのイコライジング


  • ゲート

    プレーヤがチューニングしたタムは、オンマイクで録るとかなりの余韻を含んだ音になり、音の濁りを生むので(まあそれが本来の音なんだけどね)、ミックスをクリアに仕上げたい時には、ゲートで余韻をある程度カットしてやるといい。

  • コンプレッサ

    タムにコンプレッサをかけると音がしまっていいのだが、コンプレッサの数が必要なのと、設定が煩雑になる割には、音の出現率が少ないので、あまり使わないかな?

  • ゲートリバーブ

    最近はあまりやらないが、一昔前には結構みんなやっていた。独特の迫力のある音になるが、これをやる時にはゲートでしっかり他の音をカットしておかなければならない。

  • リバーブ

    迫力を出すためならホール系のリバーブ、抜けの良さならプレート系のリバーブがおすすめ。

表7-2-2 タムのエフェクト


     



   
7-2-2 キック

  

    キックの音には、よくコンプレッサをかけるけど、これは主に2つの理由がある。

    1. コンプレッサをかけると独特の締まった音になること。(まあ逆にいえばヌケの悪いこもった音といういい方もできるけど)設定にもよるけど、コンプレッサを深くかけていくと、「ふとんを叩いたような音」になる。ためしに手でふとんを叩くと、場所や叩き方によって、結構キックらしいいい音がする。(音量は全然ないけどね)個人的には「ふとんサウンド」は嫌いではない。
    2. プレイヤーの演奏ムラによる音量差をなくして、安定した低音成分を得るため。キックはベースと並んで低音部、つまり音楽の土台となる部分を作る所なので、ここの音量大きくなったり小さくなったりして不安定だと、音楽そのものが聞きづらくなってしまうわけだ。もちろんプレーヤが上手くなればなるほど、この不必要な音量差は少なくなってくるので、あまり必要はなくなってくるが、プレーヤの技量がイマイチの時には、コンプレッサで、音量差をある程度なくすというのは(逃げではあるが)いい方法だと思っている。一度MTRに録音したキックの音だけを聞いてみるといい。思ったより音量差があるはずだ。

    ゲートも他の音のかぶりをなくすために、よく使われる。強めにコンプレッサをかけた後に、アタックを強調する音作り(高域の強調)をすると、結構シンバルやスネアの音がかぶってくるからだ。もともとキックの音は楽器側でかなりミュートして、余韻のない音にしてあるのが普通なので、ゲートのセッティングはそれ程難しくはないはず。

    リバーブなどの並列型のエフェクトは、昔は音がもわもわになるのを恐れて、まずかけることはなかったんだけど、最近ではリバーブタイムを短めにしたリバーブをかけることもよくあるよ。またアーリーリフレクションなんかもよくかけるな。これはがらっと音が変るといった感じではないけど、キックの「風」の感じを出すことができる。

    また最近は、低周波発振器にゲートをつないで、キックの音でコントロールしたり、オーディオトリガー対応の音源を同時に鳴らしたりして、低音を増強したりアタックを強調したりすることもよくやる。

    さてキックの音決めが終ったら、基準となる音量の調整をしよう。

    1. イコライジング・エフェクト済のキックの音だけを出す。
    2. ステレオ(2MIX)のメーターを見て、VUメーターがだいたい-5VU辺りまで振るように、キックのチャンネルのフェーダーを調整する。
    3. さらにそのキックの音が、ミックスダウンをするのにちょうどいい音量で聴けるように、モニターレベル(スピーカの音量)を調節する。

    こうすると何がいいかというと、このキックの音の大きさを基準に、他の楽器やボーカルを重ねていくと、ミックスダウンの完成の時に、ちょうどいい位のレベル(VUメーターの振れ具合)になっているのだ。

       

  • ハイパスフィルタは20Hz位にとどめておく。
  • イコライジングについては、ミキサのイコライザで音を作ってもいいが、グラフィックイコライザの数に余裕があれば、キックのチャンネルにグラフィックイコライザをインサートすると、細かい音作りができて便利。この場合はあまり素子数が多いとかえって使いにくいので、オクターブイコライザ(調整できる周波数が1オクターブおきのグラフィックイコライザ。10素子ぐらいになる)ぐらいがベスト。
  • 大きいスピーカで、大きい音で聞くと体感的に感じる部分が60Hz近辺、通常の低域の迫力の部分は100Hz近辺にある。この辺りの周波数は、スピーカや音量などによって、聞こえ方がかなり変わってくるので注意しよう。VUメーターやスペクトラムアナライザで視覚的に確認するのも一つの方法だ。(あくまでも参考にね)
  • 中低域の200Hz〜500Hz辺りはカットしてやると、音にしまりがでてくるが、あまりやりすぎると音量感がなくなってしまう。
  • 1kHz近辺は余りいじらないことが多いが、ブーストすると「皮の音」を強調できる。
  • 4kHz近辺の音は張りに影響する部分だ。ここをブーストするとかなりヌケが良くなるけど、下品な音にもなりやすい。今風の音のポイントは8kHz近辺。高域はここをブーストするだけでよいことも多い。

表7-2-3 キックのイコライジング

   

  • ゲート

    音量の大小も比較的小さいので、他の物に比べてかなり強力にかけても(RATIOを深くとっても)いいが、スレッショルドは甘めに設定する。目安としてはスネアの音でゲートが開かなければよしとしよう。ゲートの開く時間は、主にRELEASEで調整し、HOLDは短めにする。LIN/LOGを切り替える機種ではLINにしておく。たまに「ぷちっ」といったノイズが入ることがあるが、その場合はRATIOを少し弱めにするか、音に影響を与えない程度にATTACKを上げると回避できる事が多い。

  • コンプレッサ

    RATIOを4:1程度、ピーク時−5VU程度のかけ方が無難。(ATTACKは最短にしてRELEASEは300ms位だろう。)

  • アーリーリフレクション

    お奨めのエフェクト。基本的にYAMAHAのエフェクタのプリセットをそのまま使えばいい。REV-5やSPX-90には反射音の違いで二つのアーリーリフレクションがあるが、REV-5やSPX-90の5番のプログラムのタイプが(LARGE)HALLの物が使いやすい。他の物を使う場合はあまり「ビンビン」といった音がしない物を選ぶこと。

  • ゲートリバーブ

    ゲートリバーブの作り方については後述するけど、HOLDとRELEASEを短く設定するのがコツ。

  • リバーブ

    リバーブタイムを普通にすると音が濁ってしまうが、あまり短くしても金属的な音が耳につくだけなので、リバーブタイムは1.5秒程度にして、音量的にさりげなくかけるのがいい。

  • エキサイタ

    効果がはっきり判る時と、判らない時があるので何ともいえないが、試してみるのもいい。メタリカ系のキックの音には必需品。またエキサイタではないが、BBEをかけて低域をコントロールしても面白い。

表7-2-4 キックのエフェクト



    図7-2-1 キックの周波数特性


    図7-2-1は、音作り前のキックと音作り後の周波数特性の変化を表したものだ。青の線が何も音作りをしない状態での周波数特性。いわゆる生音だ。(ちなみにマイクはPL-20を使用)その音に、コンプレッサをかけたあと、イコライザで60Hz近辺と2kHzから8kHz辺りをブーストして、300Hz近辺をかなりカットした音作りをしたものが赤の線だ。

    重みがあって、かつヌケの良いキックの音というのは、このような周波数特性になるのだな。8kHz辺りはイコライザでブーストした割には、余り持ち上がっていないけど、これは元々その辺りの倍音成分を、キックが余り含んでいないからなのだ。

    さらに緑の線は、赤の線の音作りをしたあとに、さらにエキサイタをかけたものだ。エキサイタのセッティングの都合で、1kHzから3kHzの部分がちょっと少なくなってしまっているけど、それよりも元の音がほとんど持っていなかった8kHz近辺が、しっかり出ているのに注目してほしい。これがエキサイタによって付加された倍音成分で、「ぴちっ」としたアタック音がエキサイタによって付加されたわけだ。

    これは実験のためかなり派手に音作りをしてあるので、必ずこのような周波数特性にならなければいけないことはないし、エキサイタも必ずかけなければならないものでもない。また微妙な音色のニュアンスまでは周波数特性に現れないので、自分の耳を信じることが第一だぞ。



      

エフェクターの順番について。

  

    図7-2-2 エフェクタの順番
    例えばキックにコンプレッサとグラフィックイコライザとゲートをかける場合、単純に組合せだけを考えると6通りなんだけど、普通は図7-2-2のような4通りのうちのどれかになる。

    まず1と2、3と4の違いは、コンプレッサとグラフィックイコライザのどっちを先にかけるかの違いだ。基本的にはコンプレッサのあとにグラフィックイコライザをつなぐ。グラフィックイコライザのあとにコンプレッサをつなぐと、グラフィックイコライザでブーストした部分が、再びコンプレッサでつぶされてしまうので、グラフィックイコライザの効きが悪くなるからだ。とはいうものの(特に低域で)持ち上げた音をコンプレッサでつぶした音も、なかなか目の詰まった捨てがたい音なので、どっちがいいとは一概には言えない。またミキサについているイコライザなど、他のイコライザをさらに使えば、コンプレッサの前後両方でイコライジングすることもできる。

    1・3と2・4の違いは、ゲートを他のエフェクターの後にするか、前にするかの違いだ。後にすれば、コンプレッサやグラフィックイコライザで発生したノイズも含めてゲートで除去できるし、前にすれば、ゲートの設定がしやすい(コンプレッサで音量差がなくなる前なので、欲しい音と不要な音のレベル差が大きいから)というメリットがある。まあ普通はゲートは一番後にしておく方がメリットが大きい。よっておすすめは1の方法

   



  
7-2-3 スネア

  

  • ハイパスフィルタは、50Hzから150Hz位にする。
  • イコライジングは、まず下手にいろいろなポイントをイコライジングする前に、シェルビングで10kHzを少しブーストしてみよう。それだけで結構使える音になるはずだ。
  • 細かい音作りをしたい時は、ミキサのイコライザで音を作ってもいいが、グラフィックイコライザがあれば、スネアのチャンネルにインサートしたほうが音作りはしやすい。
  • 太さを強調したい場合は100Hz〜200Hzをブースト。アタックを強調したい時は2kHz近辺をブーストしてみよう。1kHz近辺をカットすると締まりのでることが多いが、キックやタムの「中抜き」ほど効果はない。逆にリムショット(スティックをヘッドの上にねかせて、スティックの腹でスネアのリムを打つ奏法。「コン」といった感じの音で、静かな曲想の部分に多用される)の暖かい「木の音」は、その辺りがポイントなので、リムショットのある曲の場合はこのポイントはカットしない方がいい。チャンネル数と精神的な余裕があれば、スネアのトラックをパラって、通常時とリムショット用のチャンネルを作り、個別にイコライジングやエフェクトを行なうという方法もある。
  • 変な共鳴(コーンといった音)が入ってしまっている場合は、録音の失敗なのだが、大体500Hz近辺をイコライザでカットすると、気にならなくなることがあるので試してみよう。

表7-2-5 スネアのイコライジング

   

  • ゲート

    スネアの音は、はっきりとして余韻もあまりないため、タムなどに比べると各つまみの設定はそれほど難しくない。ただし普通スネアのすぐ近くにハイハットがあるので、RANGEをあまり深く取ると、ゲートが開いた時と閉じた時のハイハットの音量差が、かなり大きくなってしまい違和感がでるので、RANGEは他の音のかぶりを防ぐ効果と、違和感のない音との中庸点を慎重に設定しなければならない。

    またスネアを表と裏で録ってあり、双方にゲートをかけてある場合は、それぞれにスレッショルドを設定すると、表のゲートが開いて裏が開かないということが起こる可能性がある。これを避けるためには、ステレオリンクのある機種では、ステレオリンクさせて裏側のスレッショルドを高くしておくか、キーイン端子の付いている機種なら表のゲートのアウトをパラって、裏のゲートのキーインにいれてやればいい。この時裏のゲートのトリガーはEXT(外部)にしておくこと。

  • コンプレッサ

    音がなまるという理由から嫌う人も多いが、かけた音もなかなか捨てがたい。かける場合はRATIOを4:1程度、ピーク時−5VU程度のかけ方が無難。(ATTACKは最短にしてRELEASEは500ms位だろう。)

  • ゲートリバーブ

    ゲートリバーブは、本来リバーブとキーインを持ったゲートとの2台の組み合わせで作る物だが、現在ではデジタルシグナルプロセッサ(エフェクタ)で作ることが多い。初期のものは、ゲート部分のHOLDしかコントロールできない物があったが、(ROLANDのSRV-2000など)現在ではパラメータの数も増えて、様々なタイプのゲートリバーブをつくれるようになっている。大体メーカープリセットのゲートリバーブは極端なエフェクトになっている場合が多いので、自分で曲にあったパラメータを設定した方がいい。

  • リバーブ

    ホール系のリバーブの方がスネアには合うことが多いが、バラードなどでリバーブを多めにかけたいときは、音が濁りやすいので、INIT DLYを少し多めに取る。INIT DLYの値を16分音符や8分音符分の時間に合わせると、違和感なくINIT DLYの値を長くすることができる。(もちろん3連符系の曲では1拍3連や半拍3連に合わせる)

表7-2-6 スネアのエフェクト

   



   
7-1-4 ハイハット

   

  • ハイパスフィルタのポイントとしては、だいたい100Hzから300Hzあたりだ。荒っぽい感じを出したい時は、あえてハイパスフィルタをいれない方がいい時もある。
  • 少しキンキンした音になっている場合は、2kHzから4kHz辺りをカットしてみよう。
  • 10kHz辺りをブーストする時らびやかさが出るけど、慣れないうちはオーバーブーストしやすいので注意。
  • ざっくりとシェルビングで高域をブーストするだけでも良いことが多い。

表7-2-7 ハイハットのイコライジング

   



  
7-2-5 シンバル

   

   



  
7-2-6 その他

   

   



   
7-2-7 リズムマシン