7-2-1 タム
ドラムのどの音から音作りをするかというのは、エンジニアによっても違うんだけど、私の場合はタムからはじめることが多い。あらかじめ別に録っておいたタムの音を出して、一つ一つ音を決めていく。タムは大きさの異なるものが複数あるのが普通なので、どれから音作りをしてもいいんだけど、私は低い(口径の大きい)方から作っていく事が多いかな?人によっては高い方から作る人もいるし、曲中でも多用されるタムから作っていく人もいる。
最近の音作りでは、タムにゲート(ノイズゲート)をかけることが多いけど、叩き方の強弱によってゲートが開いたり開かなかったりしないように設定する。理想的にはそのタムを叩いた時にだけ、ゲートが開くのが理想だけど、現実的にはよっぽどカブリをなくして録音していない限り、スネアを叩いた時などにタムのゲートが開いてしまうことが多いので、あまり神経質に設定することはない。
またタムのゲートのレシオを深くとりすぎると、タムのマイクにかぶっているシンバルの音が、タムのゲートの閉開によって出たり出なかったりする。この結果としてシンバルの定位や、音量感が揺れ動く不自然な音場となることがあるので気をつけよう。並列型のエフェクターは、リバーブのほかにアーリーリフレクションやゲートリバーブなんかを使い分ける。VCAのグループが組めるミキサなら、タム1つ1つの音決めが終ったら、タムのグループを組んでおくと便利だよ。
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表7-2-2 タムのエフェクト |
7-2-2 キック
キックの音には、よくコンプレッサをかけるけど、これは主に2つの理由がある。
ゲートも他の音のかぶりをなくすために、よく使われる。強めにコンプレッサをかけた後に、アタックを強調する音作り(高域の強調)をすると、結構シンバルやスネアの音がかぶってくるからだ。もともとキックの音は楽器側でかなりミュートして、余韻のない音にしてあるのが普通なので、ゲートのセッティングはそれ程難しくはないはず。
リバーブなどの並列型のエフェクトは、昔は音がもわもわになるのを恐れて、まずかけることはなかったんだけど、最近ではリバーブタイムを短めにしたリバーブをかけることもよくあるよ。またアーリーリフレクションなんかもよくかけるな。これはがらっと音が変るといった感じではないけど、キックの「風」の感じを出すことができる。
また最近は、低周波発振器にゲートをつないで、キックの音でコントロールしたり、オーディオトリガー対応の音源を同時に鳴らしたりして、低音を増強したりアタックを強調したりすることもよくやる。
さてキックの音決めが終ったら、基準となる音量の調整をしよう。
こうすると何がいいかというと、このキックの音の大きさを基準に、他の楽器やボーカルを重ねていくと、ミックスダウンの完成の時に、ちょうどいい位のレベル(VUメーターの振れ具合)になっているのだ。
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表7-2-4 キックのエフェクト |
図7-2-1 キックの周波数特性 |
重みがあって、かつヌケの良いキックの音というのは、このような周波数特性になるのだな。8kHz辺りはイコライザでブーストした割には、余り持ち上がっていないけど、これは元々その辺りの倍音成分を、キックが余り含んでいないからなのだ。
さらに緑の線は、赤の線の音作りをしたあとに、さらにエキサイタをかけたものだ。エキサイタのセッティングの都合で、1kHzから3kHzの部分がちょっと少なくなってしまっているけど、それよりも元の音がほとんど持っていなかった8kHz近辺が、しっかり出ているのに注目してほしい。これがエキサイタによって付加された倍音成分で、「ぴちっ」としたアタック音がエキサイタによって付加されたわけだ。
これは実験のためかなり派手に音作りをしてあるので、必ずこのような周波数特性にならなければいけないことはないし、エキサイタも必ずかけなければならないものでもない。また微妙な音色のニュアンスまでは周波数特性に現れないので、自分の耳を信じることが第一だぞ。
エフェクターの順番について。
図7-2-2 エフェクタの順番 |
まず1と2、3と4の違いは、コンプレッサとグラフィックイコライザのどっちを先にかけるかの違いだ。基本的にはコンプレッサのあとにグラフィックイコライザをつなぐ。グラフィックイコライザのあとにコンプレッサをつなぐと、グラフィックイコライザでブーストした部分が、再びコンプレッサでつぶされてしまうので、グラフィックイコライザの効きが悪くなるからだ。とはいうものの(特に低域で)持ち上げた音をコンプレッサでつぶした音も、なかなか目の詰まった捨てがたい音なので、どっちがいいとは一概には言えない。またミキサについているイコライザなど、他のイコライザをさらに使えば、コンプレッサの前後両方でイコライジングすることもできる。
1・3と2・4の違いは、ゲートを他のエフェクターの後にするか、前にするかの違いだ。後にすれば、コンプレッサやグラフィックイコライザで発生したノイズも含めてゲートで除去できるし、前にすれば、ゲートの設定がしやすい(コンプレッサで音量差がなくなる前なので、欲しい音と不要な音のレベル差が大きいから)というメリットがある。まあ普通はゲートは一番後にしておく方がメリットが大きい。よっておすすめは1の方法。
7-2-3 スネア
最近はスネアを収音する時に、表と裏、2本マイクを立てることが多いんだけど、その場合はまず表の音から作る。表の音には、キックと同じ理由からコンプレッサとゲートを使用することが多い。ゲートを使う際には、スネアのゲートが開いたときと閉じたときで、ハイハットの音の音質や音量に違和感が出ないように気をつけよう。スネアの裏のマイクは、スナッピ(響線)専用のマイクと思えばいい。だからスナッピの音を強調するために大胆にローカットをいれて、(それだけで聴くと耳のいたくなる音を作って)ぢわぢわと表の音と混ぜて、ちょうどいいところで止める。
理論的に考えると、裏の音は表の音に対して逆相になっているので、ものの本などには「スネアの裏側のマイクは位相を逆にしてミックスする」などと書いてあるんだが、これは無響室で、まったく同じマイクを、まったく同じ距離でとった時に成り立つことなので、実際はあんまり気にすることはない。まあ逆相スイッチを押してみてそれで好みの音になるんだったらそれでよしといったところだ。この表の音と裏の音もVCAグループでくくっておくと便利。
ヒビキモノは多用される。今じゃあたりまえになってしまったけど、昔はスネアにリバーブがかかってるだけで「お〜プロみたいな音だ〜」と感動したもんじゃ。(しみぢみ)まあそれでも今だにスネアにリバーブをちょろっとかけるだけで「らしく」なるから不思議といえば不思議だな。この時のリバーブはプレートよりもホールタイプのほうが迫力があってお薦めだよ。ただ逆に、少しミックスになれてくると、「スネアにはリバーブとかけなければいけない症候群」にかかることが多いので、必要なときに必要なだけリバーブを使うようにしよう。ゲートリバーブも、あたりまえの感じがあるけど、一時期のように、いかにも「ゲートリバーブでございます」ってな感じのかけ方は、少なくなってきている。またスネアを表からしか録音しなかった場合は、短めのゲートリバーブやアーリーリフレクションを、スネアのスナッピの音の代わりとして使うと、結構いい感じ。
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表7-2-6 スネアのエフェクト |
7-1-4 ハイハット
マイクで録った音を聞いてみればわかるけど、ハイハットは結構すげー低域が録音される。このままでは抜けの悪い音となってしまうので、割と大胆にハイパスフィルタを入れる。かといってあんまりやりすぎると、今度は迫力がなくなってしまうので、注意するよーにね。イコライジングは比較的簡単な部分だ。
エフェクトは特に必要のない部分。必要に応じてリバーブを味付け程度にかけてもいいけど、リズムのもっとも細かいところを受け持つ音源なので、いじりすぎないようにしよう。遊びでフランジャなどをかけることはあるけどね。
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7-2-5 シンバル
シンバルなどの金物の音は、オーバートップ2本という形で録音してあることが多いと思うけど、この音源はドラム全体の音や雰囲気を再現するためのものなのか、シンバル用のマイクなのかを最初に考えた方がいい。
というのはオーバートップの音というのは、(スネアが大きくキックが小さい傾向はあるものの)ドラム全体の音がバランス良く入っているものなのだよ。実際昔はこの方法でドラムを録音してたんだから、当然といえば当然だけどね。
PAの世界ではオフマイクは(オーバートップのマイクは、スネアやタムから見ればオフマイクでしょ?)他の音源やモニタとカラのカブリの問題があって、使いたくても使いにくいという状況がある。よってオーバートップというのは、シンバル用のマイクと割り切って使うことが多いんだけど、他の音のかぶりが少ないレコーディングの世界では、シンバル用のマイクとして使うにはちょっともったいない気もする。
全体の音を活かす時には、ハイパスフィルタは控えめに(50Hzから100Hz位)にとどめておき、シェルビングイコライザで10kHzあたりを少しブーストして「くもり」を取ってやればいい。これでシンバルの音だけでなく、ドラムセット全体の「雰囲気」を付加することが出来る。
シンバル用のマイクとして割り切って使う時は、割と大胆にハイパスフィルタを入れる。(200Hzから400Hz位)ピーキングイコライザで10kHzあたりを少しブーストしてやると、少し上品な感じになる。逆に迫力や下品さを出したい時は2kHz〜4kHzあたりを少しブーストしてやるといい。
7-2-6 その他
その他パーカッションなどの小物の音決めは、モノによって違ってくる。ウインドチャイム(ツリーベル)、スプラッシュシンバル、タンバリンなどの金物は、ハイハットやオーバートップをシンバルマイクと考えた時の音作りと一緒だ。皮物のティンバレスはスネア、コンガやボンゴなどは大体タムなんかと同じと考えればよろし。
リムショット(スネアをスティックの腹で叩く奏法)やハンドクラップ(手拍子)やカウベルは、少し高域をブーストするイコライジングが一般的だけど、500Hz〜1kHzをブーストすると音が厚くなって、わしゃ好きだ。
7-2-7 リズムマシン
リズムマシンについては、録音時にどういった録音をしたかによって処理の仕方はちゃう。
リズムマシンのインディビジュアルアウト(楽器別に音を取り出せるアウト端子)を使ったり、複数の音源を使ったりして、個々の楽器を分けて録音してある場合は、(少なくともキックとスネアだけでも分けて録音してある場合は)個々に音作りが行えるので、前述のそれぞれの楽器の項を参考に、音作りをすりゃーいーんだけど、現在の音源は、ほとんどサンプリング音源なので、サンプリング時に倍音成分が欠けていてイコライザの効きは悪いし、他の音のカブリが全く無いためゲートは無意味だし、音量をそろえるためならコンプレッサをかけなくても、打ち込みのデータのベロシティーやボリューム情報をいじってやればよいということで、あまり生の音の時のような変化や効果は得られないことが多い。効果的なのはゲートリバーブやリバーブを付加することくらいだな。
まあそれでも、音量を他の楽器とのバランスを聴きながら操作できるのは大きいから、なるべくリズムマシンのアウトは分けて録音しといた方がいいな。(ってミックスダウンの時に書くなってかぁ)
ステレオの2チャンネルだけで録音してある場合は、ドラムセットのバランス変更や、個々の処理はできないので、アーリーリフレクションを軽めにかけるとか、全体で少しイコライジングする程度にして、細かい音作りはあっさりあきらめよう。リズムマシンの音源はカブリがないので音源の定位が「点」になってしまうので、だからアーリーリフレクションなどの、音をあまり変えずに定位を広げてくれるエフェクターは必需品だ。
まあ一番のお奨めは、SMPTEなどの同期信号を録音しといて、ミックスダウンの時にリズムマシンを走らせることだな。そうすりゃバランスを考えながらデータの編集が出来るもんな。