6-1-1 オーバーダブの手順
オーバーダブ(Over Dub)とは、ベーシック録音の時に同時録音できなかった、もしくは敢えて後回しにした音源を、すべてMTRに録音する作業のことで、カブセともいう。これはMTRを使用した録音特有の作業で、ベーシック録音の時に録音した音源を再生しながら、それに合わせてあらたに音を録音するという、「再生」と「録音」というまったく違った種類の作業を同時に行わなきゃいかん。んなもんでミキサの扱いはちょいとばかしややこやしいものになる。
6-1-2 入力別の注意
微妙なノリをあわせるためには、なるべくベースはドラムと一緒にベーシック録音の時に録音してしまうのがいいんだけど、(特にDIを使用する場合は、ドラムの音がカブる心配がないしね)どうしてもオーバーダブしなきゃならない時のために書いておこう。
ライン録音する場合はDIを使用する。(まちがっても12-2Pの変換ケーブルなどで結線したりしないよーに。)ラインの音(DIで録ったベース本体の音)のみ録音する場合は、コントロールルームの中で演奏してもいい。この時はDIから11ーバンタムを使用して、ミキサのパッチベイに立ち上げる。
現在のレコーディングでは、エレクトリックベースの音は、D.I.で録った音を加工して、ミックスダウン時に音を作るのが主流なんだけど、この方法はベースの音をクリアに録れるという反面、ミックスダウンするまでプレーヤがイメージしている「普通のベースの音」とかけ離れた音〈低音がなくパキパキの音〉になってしまう事が多いという欠点があるんだな。これを解決するためにはモニターしているチャンネルのインサートやEQを使って、ある程度演奏しやすい音を作ってやれば良い。つまり、録音自体はD.I.からの音をそのまま録音して、プレーヤには音作りをして、ベースらしい音を聞かせてあげるわけだな。
またプレーヤ中には、アンプのスピーカで少々歪んだ音を好む人もいるので、そういった場合は素直にアンプの前にマイクを立ててやったほうが「らしい」音が収音出来る。「歪み系の音」をラインでいい感じに録音するのはかなり難しいのだ。勿論MTRのトラックに余裕のある場合は、ラインとマイクの音を2つの別トラックに録音しておいてもいい。
アコースティックピアノのマイキングは、非常に難かしいってのは前にもいった通りだ。気を入れてかかろう。当り前のことだけど、アコースティックピアノは調律以外にチューニングを変える手段が無いので、曲の最初か終りにピアノの真ん中のAの音を10〜20秒位チューニング用に録音しておく。そのあとからかぶせる楽器に関してはその音にチューニングを合せるわけだ。
エレクトリックベースをマイクで収音する場合と考え方は一緒。エレアコをラインのみで録る場合は、コントロールルームで演奏してもいいけど、ギター自体の生音があって、オペレーターが少しやりにくいことと、コントロールルームのスピーカの音が、ギターのピックアップを通じてカブってしまうので、あまり薦められない。基本的にはスタジオで録るのがよいとおもう。もちろんマイクとラインを両方録音しておく手もある。
フュージョン系の音楽以外では、余りラインで収音をすることはないと思う。基本的にはスタジオの中でギターアンプを鳴らして、それをマイクで録る。エレクトリックギターの音は、ギターアンプから出た音が「完成品」だ。ギターだけスタジオで鳴らす時は、他の楽器がカブってくる心配がないので、レコーディングならではの「オフマイク」に挑戦してみるのも面白いと思う。オンマイクとオフマイクを2トラック使って別々に録音するのもよし、オンマイクとオフマイクを自分の好みのバランスで混ぜ合わしたものを、1つのトラックに送ってもいい。 いずれにせよギターは何回も別のトラックにかさね録りすることが多いので、ミキサのトラックアサインやモニターチャンネルのON/OFF、MTRの録音手順を間違えないように気をつけようね。(経験者は語る)
機材をスタジオにセットしても、コントロールルームにセットしてもどちらでもいいんだけど、プロの現場ではコントロールルームに機材をセットすることが多い。これは音色等の指示やコミュニケーションがとりやすく、プレーヤもヘッドフォンよりコントロールルームのスピーカからモニターしたほうが、音色などの雰囲気をつかみやすいからだ。
キーボードはステレオアウトの物が多いが、トラック数に余裕があればステレオで録っておいたほうがいい。トラック数に余裕の無い時は、モノラルにして録音することになるんだけど、この時キーボードから出ている音が、音源に内蔵のエフェクターで、コーラスやリバーブなんかをつけ加えただけのステレオなら、エフェクターをオフにして録音して、ミックスダウンの時にエフェクターをかけてるようにする。オーバーダブの時にはモニターのチャンネルで、仮のエフェクトをかけて、雰囲気を出す。
ステレオで録音する場合でも、エフェクトかかっているものは、そのエフェクトが音色の一部分になっている時以外は、エフェクトをきってから録音することが多い。特にリバーブはあっさりめ、もしくはまったくかけずに録音したほうがミックスがやりやすい。エフェクトは付加することはできても、除去することはできやん(三重弁)のだよ。
オーバーダブで一番厄介なのがこの「歌モノ」。精神的な部分をヌキにすれば、楽器はプレーヤが風邪をひいてても録音が可能だけど、歌の場合は物理的に無理。そこまでいかなくても余り長時間歌わせると声の質が変わってくるので厄介だ。しかしながら、歌の入っている楽曲ではこの厄介なものが一番大切なパートなので、プロのレコーディングでは何日間もかけ、多くのトラックを使いていねいに録音する。残念ながら時間の余裕がないことも多いのが実状だ。じゃけえ(広島弁)ボーカルやコーラスなどのオーバーダブは、短時間で効率よくやらなきゃいかん。最低限オペレーターの操作ミスなどのないようにね。
まず前もって必ずボーカルの人に歌詞カードを書いてもらう。(Cメロ譜と呼ばれる、ボーカルパート専用の譜面があればそれに越したことはないが・・)それを見ながらオーバーダブを行うこと。それにボーカルのどのテイクがOKなのかや、ミックスダウンのアイデアなどを記入しながら作業するわけだ。
またエコーがあるとボーカリストのノリが良くなることは、カラオケなんかでもわかるよね。ボーカル系のオーバーダブの時も、エコー(リバーブ)をかけてやる。これをよく「仮リバーブ」といっているんだけど、これはオーバーダブの時にだけ必要なもので、ミックスダウンの時には、もっと細かくエフェクト処理を、周りとの兼ね合いを考えながらするから、この仮リバーブはMTRには録音しない。MTRに録音しないためには、モニターしているチャンネルからリバーブに送って、2MIX(STEREO出力)に戻してやればいい。