4-2-1 トラック割りとは?
マルチトラックレコーディング、つまりMTRを使ったレコーディングでは、レコーディングをはじめる前に必ず、どのトラックにどのような音源を入れるかを決めておく。この作業をトラック割り(Track Assignment)と言い、特にチャンネル数の少ないMTRを使う場合には、作品の出来不出来を左右する大切な作業だ。
まず、録音する曲の楽器構成を再確認して、トラック割りを考る。普通はトラック数の若い番号から、ドラムとベースのリズム隊→ギターやキーボードなどのコード楽器→ソロ楽器にボーカル関係というような順番で入力していく。意図的に変えない限り、「トラック割りのトラック番号」=「ミックスダウンの時のミキサのチャンネル番号」なので、このような順番で入力した方が、よく動かすソロ楽器やボーカル関係のフェーダーが、右手の動かし易いところに来て便利だからだ。(左利きの人はごめんなさい)
更に言えばドラムもキック、スネア、ハイハットの、操作する頻度の高い3つフェーダーが左手で扱いやすい所にくるように、操作する頻度の少ないオーバートップ関係から始めて、タム関係、ハイハット、スネア、キックというような順でトラック割りをするといい。ソロ楽器やボーカル関係のトラックは出来るだけテイク数が取れる様に複数のトラックを確保しておく。
トラック割りはトラックをどのように使うかという事だけでなく、使用するマイクをきめるという面もある。同時に録音しなければ、同じマイクが他の楽器にも使えるので、どこまでを同時に録音するかなども含めて、マイクの使い回しを考えておく。
INPUT | MIC/D.I. | NOTE | INPUT | MIC/D.I. | NOTE | ||
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1 | TOP-L | C-414 | 13 | E-GUIT2 | C-38B | ||
2 | TOP-R | C-414 | 14 | PIANO-H | U-87 | ||
3 | FLOOR-TOM | MD-421 | 15 | PIANO-L | U-87 | ||
4 | LOW-TOM | MD-421 | 16 | SYNTH-L | AR-116 | PAD-20 | |
5 | MID-TOM | MD-421 | 17 | SYNTH-R | AR-116 | PAD-20 | |
6 | HIGH-TOM | MD-421 | 18 | EG-SOLO1 | C-38B | ||
7 | HIGH-HAT | C-451 | 19 | EG-SOLO2 | C-38B | ||
8 | SNARE-BOTTOM | SM-57 | 20 | CHO-1 | U-87 | ||
9 | SNARE-TOP | BETA-57 | 21 | CHO-2 | U-87 | ||
10 | KICK | PL-20 | 22 | VO-1 | U-87 | ||
11 | E-BASS | #85 | 23 | VO-2 | U-87 | ||
12 | E-GIUT1 | C-38B | 24 | VO-3 | U-87 | ||
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デジタルMTRの場合は関係ないけど、アナログMTRのトラック割りでは気を付けなければいけない事に、「エッジトラックには、重要な音や高域の成分の多いものは入れない」というのがある。エッジトラックってのは、24トラックのなら1トラックと24トラックの事をいう。つまりテープの端っこにくるトラックのことだ。アナログMTRはテープの幅をテープの進行方向に平行に、トラックを分割している関係上、どうしてもテープの端のトラックはヘッドへの当たりが悪くなりがちで、それによって特に高域特性の劣化が起きやすいのだ。だからトラック数に余裕がある場合は使用しない方がいいし、空きが無い場合はドンカマなど、ミックスダウンに必要のない音を入れたり、ベースなどの比較的高域成分の少ない音を割りり当てるようにしよう。
4-2-2 トラックが足りない場合
トラック数とお金は、いくらあっても困らないのだが、実際にはどちらも限界がある。お金の場合は、パチンコとか競馬とか宝くじのようなすばらしい打開案があるのだが、トラック数はどう頑張っても増えてくれない。で、考えると方法論としては3つある。(宝くじをあてて、新しいMTRを買うというのは、なしね。)
「ドラムに使うマイクを10本から8本にする」などの単純にインプットを減らす方法と、「タムなどの複数の音源を、録音の時に音作りをして、LRの2トラックにまとめる」方法がある。足りないトラックがあと2トラック位の時は、この入力数を削る方法が一番手っ取り早い。
サブミックスとは、ミックスダウンの前に、録音した音源をあらかじめミックスしてしまう事。全ての音源をミックスしなくても、足りないトラック数分だけトラックが空けばいいので、タムだけとかドラムだけ、ドラムとベースだけという様に必要に応じて必要分だけミックスする。もちろんサブミックスが完成した後は、元のトラックの音源は消しておく。但しこの方法は、ピンポン(後述)する事による音質の劣化を気にしなければならないし、ミックスダウンの時にバランスや音質を変えたいと思っても、サブミックスしたあとでは細かい音作りが出来なくなってしまうので、必要最小限にとどめておいた方がよい。(全ての音源をミックスしてしまわずに、必要悪と考えて最小限のトラックのミックスにとどめるということだな。)
ちなみにこの2つの方法は、エフェクターを有効に使えるという副次的なメリットもある。例えばコンプレッサが2回路分しかない場合、サブミックスでドラムミックスを作る時に、キックとスネアにコンプレッサを使い、さらにミックスダウンの時にベースとボーカルにコンプレッサを使えば、2回路分のコンプレッサを4回路に使えるわけだ。
ケチなこと言わずにトラック数を増やしてしまおうという考え方だな。増やすと言っても単純に2台のMTRのトラック数の合計になるわけじゃなくて、基本的には同期信号用に各に1トラックずつ必要で、また同期信号の隣のトラックはお互いの干渉を避けるために空けておいたがいい。従って24トラックの2台を同期させた時のトラック数は24+24-4=44トラックになる。同じく24と8の組み合わせでは28トラックになる。デジタルMTRは同期信号用のトラックを別で持つことが多いので、単純にトラック数を足せばいい。