DTMというのは、デスクトップミュージック(Desk Top Music)の略だ。無理矢理日本語にすると、「机上音楽」(笑)この場合のデスクトップというのはコンピュータの画面のことだ。よってDTMの定義は、コンピュータを使って作る音楽と言うことになるのだけど、ここではちょっと幅を広げて、コンピューターミュージック、つまりシーケンサで電子的な音源をならす場合の事について考えてみよう。
4-5-1 DTMの録音形態
一口にDTMといっても、色々な形態があるわけなんだけど、どの程度録音機材を使用して作品を作るのかをあらかじめ考えておこう。
一番簡単な方法だけど、最近の音源は安価な物でもこの方法でかなりのレベルの作品が出来る。この場合、打ち込み(シーケンサにデータを入力する)作業が全行程の9割以上を占めるといっていい。打ち込みは音符データは当たり前として、音量に関するパラメータを注意深く設定しよう。(主にコントロールチェンジの使い方だな。)
ミキサを使わないわけだから、ミキサでのフェーダー操作にあたるコントロールチェンジの7番と、パンニングの設定の10番は、ちゃんとデータを入力しよう。その他にも音源によって色々な処理が打ち込みできる様になっているので、使用する音源のMIDIインプリメンテーションチャート(普通取扱説明書の巻末についている)で確認してみてね。
インディビジュアルアウト(individual Output)とは1つの音源で、単独に任意の音色のみを取り出せる端子のこと。つまり一台の音源なのに、複数台の音源を使っているようなことが出来るということだ。
複数の音源になるけど、ここでわざわざMTRまで使用する必要はない。シーケンサを走らせれば何度でも同じ演奏をしてくれるわけだからね。かけ声などの短い声やSEなど音源にない音を入れたい場合も、MTRを使用するよりサンプラを使った方が手っ取り早い。
で、この方法は複数の音源をまとめるためのミキサが必要になるけど、ミキサを使うメリットとしては、各音源の音量バランスが、リアルタイムで簡単に取れる(いちいちデータを打ち込み直さなくていい)事や、ミキサのイコライザを使って、ある音源の音質を調整したり、(例えばキックの音を単独で取り出しておいてそのチャンネルのイコライザを操作して太い音を作るとかね。)外部エフェクタを使って内蔵エフェクトだけでは出来ない凝ったエフェクト処理をする事が出来る事だ。
例えばDTMのバックにボーカルをのっけたいとか(通信カラオケを録音する様なものだな)、アコースティックギターを入れたいとかいう場合だ。これには後で触れるMTRを利用する方法が一般的なんだけど、たかが1つ音が増えただけでわざわざMTRを使うのも面倒だ。で、最近では音声信号を取り込めるシーケンサソフトも出ているので、これを利用してしまう方法もある。
マッキントッシュ用のシーケンサソフトで音声信号を取り込める物には、デジタルパフォーマー、スタジオビジョン、ノーテーターロジックオーディオなど。この方法の利点はMTRを利用せずにコンピューターだけで音声信号を扱える事と、コンピューターだけでボーカルを聴きながら演奏データを編集したり、ボーカルの音声そのものを編集したりできる事だ。ただし、この作業はコンピューター本体だけでは出来ず、音声取り込み読み出し用のA/D、D/Aコンバーターが必要になる。
これはほとんど生楽器を録音する場合と一緒だ。考えなければいけないのは、同期信号とMIDIシンクロナイザを利用するかどうかだ。打ち込みの音源を適当に分けてMTRに録音するだけなら、わざわざ同期信号とMIDIシンクロナイザのお世話になる必要はない。(というか同期信号とMIDIシンクロナイザを使わないのなら、MTRを使う意味が余りないのも確かだが。)ほとんど打ち込みで音源が完成していて、それに生楽器やボーカルなどを複数かぶせたい時や、使用する音源が多くセットを組むのが大変な時は(一度に録音してしまえばあとは音源を用意しなくてもテープを回すだけでいいからね)この方法がいいだろう。
じゃあ同期信号とMIDIシンクロナイザを使った場合はなにが便利かというと、いったん録音した音源を、後から自由に差し替えられるという点だな。例えば、ボーカルをかぶせるまでは気にならなかったんだけど、打ち込みの音とボーカルがぶつかっている場合や、全体を通してみるとピアノの音よりオルガンの音の方がいいなと思った時に簡単に、その音源の音色や音符データを差し替えられるって事だ。同期信号とMIDIシンクロナイザを利用していない場合は、全部録音し直すしか方法がない。(独立したトラックに録音してある場合は、そのトラックだけ手弾きで入れ直すという手もあるが・・・)
同期信号は、そのままではシーケンサのデータとして利用できないので、ミディシンクロナイザを利用してシーケンサが読みめる形に変えて使う。ミディシンクロナイザは録音時に、同期信号とシーケンサからのテンポや小節データを読み込んで変換データを作り、再生時には同期信号を読み込んで、シーケンサにテンポ情報や小節情報を出力する機械だ。このシーケンサとテープレコーダを同期させる同期信号にも、SMPTE信号が使われる事が多い。
これはSMPTE信号がVTRやの同期によく使われる信号で、他のメディアとの同期が容易だからだ。SMPTEのシステムさえ組めば、「VTRを再生すると映像とともにシーケンサが走って音源が鳴り、様々なエフェクトがかかる」というような事がこのSMPTE信号で実現できる。更に最近ではSMPTE対応の照明調整卓まであるので、SMPTEだけで一つのイベントが出来てしまう。まあこの辺はMAの分野なのでここでは詳しくふれない。
FSK信号はどちらかというと、シーケンサ専用の同期信号で、MAの世界などでは使われる事はない。またYAMAHAのシーケンサQX-3などは、専用の同期信号をシーケンサから出力できるので、個人での使用ならば(他と規格統一する必要がなく、テープとシーケンサのみの同期を考えればよい場合)この同期信号を利用しても良い。
4-5-2 音量のエディット
音量に関する打ち込みデータとしては、ベロシティとボリュームがある。確かにどちらも上げると音量が大きくなるんだけど、この2つは全然別物なので、音量を変える時はTPOに応じて使い分けよう。
ベロシティは弾く時の強さ。ベロシティとは本来「速さ」という意味なんだが、鍵盤楽器を強く弾くときには、鍵盤がすばやく押し込まれる所から、MIDI楽器は、鍵盤が押されはじめてから押さえつけられるまでのわずかな時間の差を検知し、それを弾く強さのパラメータとして使っているわけだ。音源がベロシティに対応してれば音量が大きくなると同時に音色も変化する。
コントロールチェンジ7番のボリュームは、単純に音量が変わるだけ。ベロシティが最大のデータでも、このボリュームデータが小さい値であれば(音色は別として)小さい音量になるし、ベロシティが小さいデータでもこのボリュームデータが大きければ大きい音になる。
例えば音がだんだん大きくなるのを表現する場合、ボリュームを一定にしてベロシティで表現した場合は、プレーヤがピアニッシモからフォルテッシモになる様に弾いたような効果が得られるし、ベロシティを一定にしてボリュームで表現した場合は、ミキサのフェーダでフェードインしたような効果になるわけだ。
ミキサを使わない時などは、このベロシティとボリューム以外にも、コントロールチェンジのパン設定や、エフェクトのデプスなどのパラメータもしっかり設定しとこうね。
あと気をつけるとよいのは、打ち込みをやっている時は、ヘッドフォンか小さいスピーカでそこそこの音量でモニターしてる事が多いわけなんだけど、この状態では低域のモニタリングが難しく、ベースとかキックが大きいデータを作ってしまいがちなので、たまには比較的大きい音でスピーカを鳴らしてみたり、自分なりの「サバ読みの基準」を作るようにすることだ。
4-5-3 音色のエディット
音色の選択やエディットは、生楽器に対するイコライジングのようなもので、DTMではかなり重要なポイントだ。
音色のエディットの第一歩は、ピアノの音ならピアノの音を色々な音源で試してみる事だ。最近はGM音源が一般的になってきているので、プログラムナンバーさえあれば、どんな音源を使ってもとりあえず同じような音色が選択される様になっているものの、同じはずの音でも音源によってかなり音質が違う。1つの音源モジュールだけを使っていかに複雑な事が出来るかに挑戦しているのならともかく、そうでない場合は、音源は1つだけでなく色々な違う音源を試してみて、気に入った音源を選ぶといい。特にエレクトリックピアノ、ギターやベース系、ドラムの音色は音源によってかなり違うぞ。
それと、音源に表示される音色名を鵜呑みにしない事も大事。特にギター関係の音色なんかはそのまま聞くと、「どこがギターやねん?」と、関西人でなくてもつっこみたくなるような音色も多い。またベースの音も高域の方ではピコピコ系の音に使えたり、リバーブをかけるとピッチカートの様な音になったりして、全く別の音に使えたりするのだ。また音色によってはベロシティーによって、全く違う音色になるものもあるので注意しよう。例えばベースの音色で、ベロシティーの強弱によって指で弾いた時の音とチョッパー(弦を叩いたりはじいたりする奏法)の音が切り替わる様になっているものもあるぞ。
異なった音色を混ぜると全く違ったニュアンスの音になったり、一つの音色では不足していた成分を、他の音色で補える。MIDIの普及によって現在では、プロの世界でも、単独のシンセサイザーや音源をエディットして音を作るよりも、音色をいくつか混ぜ合わせて作る方法が多くなってきている。