現在の時点ではプロ一般を問わず、アナログテープレコーダとデジタルテープレコーダが入り乱れて使用されているけど、アナログレコードがCDにとって変わられたように、そのうち録音メディアはみんなデジタル機器にとって変わられそうな状態だ。かといってアナログテープレコーダは前世紀の遺物かというと決してそんなことはなく、デジタル機器がさらに飛躍的な性能向上がない限り、アナログテープレコーダは(特にプロの現場で)生き残っていくと思う。
磁気録音は、とにかく磁気に反応するものであれば、アナログ信号をまがりなりにも記録できるわけで、磁気録音が発明されてから色々なものが使われてきた。一番最初に実用化されて使われたのは磁気ワイアーで、針金のようなものに録音をしていたわけだ。今でも法律関係の文書には「磁気ワイアー等への録音」とかという表記がある。
余談だけど、法律関係の文書はなるべく日本語で表記しようとしてかえって訳の判らない表記になってしまっているところが結構笑える。著作権法の第二条に依れば「録音」とは「音を物に固定し、またはその固定物を増製することをいう」そうだ。(^_^;
で、最初に磁気録音技術を発展させたのはドイツだ。第二次大戦中イギリスやアメリカなどの連合軍は、毎晩のようにラジオで放送されるヒトラーの演説に、「よっぽど演説が好きなのかもしれないが、ちょっと超人的な体力だな。」と思っていたらしい。というのは当時の録音技術では録音した物の音質は、(磁気録音であろうがレコードであろうが)AMラジオですら録音か生放送か判るくらいひどいものだったのだ。それで戦争が終わった後連合軍が見た物は、膨大な数のテープというわけだ。大戦後その技術がイギリスやアメリカに渡り、交流バイアス法などの様々な発明や改良が加えられて現在に至っている訳なんだけど、この発明や改良のおかげで磁気録音技術は少しばかり複雑な物になってしまったのだ。これについては後述しよう。
3-1-1 オープン
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写真3-1-1 オープン |
一口にオープンといっても様々なフォーマットがあり、オープンというだけではどんなものかは特定は出来ない。
3-1-2 カセット
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写真3-1-2 カセット |
元々、会議の録音などに便利なようにと考えて、小さくまとめるためにテープ幅やスピードを遅くした規格なので、開発当初は音楽なんかを録音するとは夢にも思っていなかったんだ。これを日本のメーカーが何とか音楽の録音再生に使えるように改良を加えて、現在のように広く音楽用に使われるようになったと言うわけだな。しかしまあ、決められた規格の中では、音質の向上に限界があるので、所詮カセットはカセットの音だ。「ローファイ」の音を目指しているのでない限り、プロの世界でマスタリングなどに使用されることはない。ただし先進国の中でカセットを再生できない家庭は皆無に等しいので、そういった意味では一番流通している録音メディアであることには違いない。
3-1-3 レコード
レコードはパンピーにとっては再生メディアであって、録音メディアではないんだけど、ダイレクトカッティング(演奏をリアルタイムでミックスして、テープレコーダなどを通さずそのままカッティングマシンでレコード原盤に溝を刻んでしまうやり方。昔はみんなこのやり方でレコードを作っていた。)という方法もあるのでここで紹介しておこう。レコードってのも考えてみればおかしな言い方で、直訳すると「録音」になってしまう。かといって特に正式な呼び方があるわけでもないので、ここではレコードといっておきましょ。アメリカでは「ディスク」といっていたんだが、最近はCDの事を言うしね。もっとも最近はDJなる怪しい連中が多くなってきたおかげで、「皿」「円盤」「ビニール」「塩ビ」「アナログ」なんて言い方や、レコードの規格の名前で「LP/SP」「12インチ」「ドーナツ」なんて言い方もすることもある。原理的にはエジソンの蓄音機と大差無くて、録音時は電気信号を針の振動に変えてレコードに刻み、再生時にはレコードに刻まれた溝を針でなぞっていって、その振動を電気信号に変えて音を出すというものだ。ちなみにオーディオアンプやミキサについている「Phono」という表示は、エジソンが完成させた蓄音機「Phonograph」が由来。
簡単に電気信号によって溝を刻み、その溝を針でなぞって振動を電気信号にといっても、低域では振動が大きくなり針飛びが起きてしまうし、高域ではあまり微少な振動はピックアップ出来ないという欠点がある。そこで、信号を溝に刻むときに低域を減少させ、高域を増加させる方法が採られている。で、電気信号として取り出したあと低域を増加させ、高域を減少させれば差し引きゼロでもとの音に戻るし、低域にも高域にも良い結果となるという理屈だ。
このインチキ方法は、最近知的所有権保護が不十分とかいって、日本にいちゃもんをつけてきた団体、RIAA(The Recording Industry Assosiation of America 米国レコーディング産業協会)によって規格が決められていて、レコードはすべてこの協会の規格に沿って作られている。
3-1-4 その他のアナログ録音メディア
最近はめっきり見えることも使うこともなくなった「国宝級」の珍しさのものについても一応ふれとこう。
マイクロカセット
手元に資料がないのでうろ覚えだけど、カセットテープをさらに小型化したテープ。テープスピードはカセットの半分の0.938ips。テープ幅も確か半分だったと思う。テープレコーダとテープの小型化を追求したもので、会議などの長時間録音用に開発されたものだ。カセットテープよりさらに性能的に不利なものなので、音楽の録音には使えるはずもなく、いつのまにか消えてしまった。あ、そういえば今でも留守番電話の受信用テープに使われていたな。
エルカセット
これは知らないだろう。(^_^; 20年ほど前日本のオーディオメーカー数社が談合して、「みんな面倒くさがりだでオープンよりカセットの方が人気がでてきたがや、でもカセットは音が悪りーで音のエーやつ作ったら売れる思わん?」ということで、確かカセットの倍のテープ幅とテープスピードを持ったカセットを発売したんだけど、全く売れんかった。よく覚えてないんだけど結構当時オーディオに興味があった私でも実物は見たことがないので、多分1〜2年で姿を消したんだろうな。
8トラックカセット
10年ほど前までカラオケやカーオーディオの世界で結構売れていたもの。エンドレステープ(テープの始めと終わりをつないでだもので、テープメカニズムを工夫して、再生しっぱなしにすると一生回りっぱなしになるようにしたもの)になっていて、よく覚えてないんだけど5分程度の録音時間だったと思う。テープは1/4インチのテープを8トラックに分けて、ステレオ4チャンネルのフォーマットだった。テープレコーダにはABCDの切替があって、再生中に違う曲にすぐ切り替えられた。(だから何なんだという気もするけど)音楽録音用としてはもう見ることもないけど、一部の業務用留守番電話や非常放送用のテープとしてはたまに見かけることもある。このようなものはテープのつなぎ目に銀色のテープが貼ってあって、それをテープレコーダで関知して自動的に停止するようになっている。(これはほとんどフルトラックのフォーマットなので、厳密には8トラックじゃないんだけど)
ソノシート
レコードの一種。ぺらぺらのビニール系のシートに溝を刻んだもの。製作コストが安いので、レコード全盛時代には結構作られた。もちろん普通のレコードに比べれば音質は悪かったんだけど、その薄さとコストの安さから雑誌の付録とかで本の中に挟み込まれたりすることも多かった。(これって元祖マルチメディアかもしれないな。)