ここでは色々なデジタル録音メディアについてみていこう。(日進月歩の世界なので、ここで書いてることは1年後には嘘になる可能性もあるけど。(^_^;)
3-5-1 PCMプロセッサ
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写真3-5-1 PCMプロセッサ |
PCMってのはパルスコードモジュレーション(Pulse Code Modulation)のことで、大雑把にいってしまえばサンプリングのことだ。(正確にはサンプリングはPCMの一部分をいう)だからPCMプロセッサというのは、録音時にはアナログ信号をデジタル化して、再生時にはデジタル信号をアナログ化する器械のことだ。・・・ということはデジタル機器は、みんなPCMプロセッサであるということになってしまうんだけど、まあ一番最初に単体で出た機器なので、慣用的にこの名前で呼んでいる。
ただしPCMプロセッサ自体には信号を記録する部分はないので、なにかデジタル信号を記録する器械が必要になる。で「どっかに適当な奴は・・・」とPCMプロセッサが探していたら、運悪く目があってしまったのがVTR、つまりビデオデッキだ。VTRには音声を録音するトラックももちろんあるんだけど、PCMプロセッサが目につけたのは映像用のトラック。映像用のトラックは音声トラックに比べて、はるかに広い帯域の信号を記録することが出来るからなんだな。
PCMプロセッサが出た当時、デジタル録音なぞパンピーにとっては高嶺の花だったので、PCMプロセッサだけを購入すれば、手持ちのVTRを使えるというのは結構魅力的だったわけだ。それにビデオテープをそのまま使う仕様上、テープの長さだけ録音が可能なので、3時間近い長時間録音が出来ることも魅力だった。その他のメリットとしてはEIAJ規格による規格統一がされているので、互換性に優れることと、基本的にはVTRを選ばないので、業務用のVTRはもちろん、家庭用のVTR(VHSでもβでもよい)でも録音が可能だという点だ。またビデオテープは比較的安価なので、ランニングコストが余りかからないという点も見逃せないな。
それでは、何で最近は余り使われなくなってしまったかというと、・・・・・
最近のデジタル機器は16ビット(0〜65535)が標準なので、14ビットでは少し見劣りしてしまう。PCMプロセッサの中にはオプションで、16ビット録音が可能なものもあるけど、これは本来エラー訂正用のエリアを音声用に振り分けているので、14ビット録音に比べてエラー訂正が甘いといった欠点がある。
ちなみに、一時期小規模のスタジオでスタンダードとなっていたのは、PCMプロセッサと業務用VTRの組合せだ。PCMプロセッサをCDのマスタリング用として使用する時には、CDは16ビットなので、14ビットではコピー元よりもコピー先の方が性能が良くなってしまうので、しかたなく16ビットモードを使用するんだが、16ビットモードは前述の通りエラー訂正が甘くなってしまう。で、エラーをおきにくくするためには、VTR側の精度を上げてやるしかないというわけで、VTRを業務用のものにして安定性を高めるわけだ。
一番困るのはキューイング(アナログテープレコーダなどで、早送りや巻き戻し時にテープをヘッドに近づけて「キュルキュル」といった音を出して、テープの頭出し等を行うこと)が出来ない事だ。頭出しをするには、早送りや巻き戻しをしてから停止して、少し前になったら再生状態にしてここだぁ!と思ったところでポーズするという原始的な方法しかないわけなんだけど、正確な頭出しはまず不可能だし、VTRのメカを流用しているので、早送り巻き戻し再生と切り替える度に数秒間待たされるのはかなり苦痛だ。
3-5-2 CD
CDとは知っての通りコンパクトディスク(Compact Disk)の略だ。「中日ドラゴンズ」だとか「クリスチャンディオール」だとか「キャッシュディスペンサー」だとかいうボケは、すでにオヤヂが入っているので、使わないようにしよう。それでCDの大きさは、いわゆるCDが12cm、シングルCDといわれるものが8cmとなっている。開発当初は10cmで60分間の音楽信号を記録する規格の予定だったんだけど、ベートーベンの交響曲の何番かが70分程度あって、「こんな有名な曲が入らないようなものは音楽を記録する物とはいえん!」ということで、現在の12cmに落ちついたらしい。
周波数特性 | 20Hz〜20kHz | サンプリング周波数 | 44.1kHz |
ダイナミックレンジ | 90dB以上 | 量子化ビット数 | 16ビット直線 |
ひずみ率 | 0.05%以下 | 変調方式 | EFM |
ワウフラッタ | 水晶精度 | 誤り訂正方式 | CIPC |
表3-5-1 CDの規格 |
周波数特性が20Hz〜20kHzというのは、サンプリング周波数が44.1kHzだから、デジタル部分の周波数特性は、限りなく0に近い周波数から、44.1kHzの半分の22.05kHzになる訳なんだけど、D/Aコンバーターの回路特性によって不必要な低域を除去したり、サンプリング周波数の信号回路の混入を防ぐため、余裕を持ってLPFを設計してあるために、周波数特性が少し悪くなって、20Hz〜20kHzという周波数特性になるわけだ。
ダイナミックレンジは量子化ビット数に関係していて、デジタル部分では16ビットは65536通りの信号の大きさの違いを認識できるわけで、20log10 65536=96.33dBがデジタル部のダイナミックレンジになる。ところがこれもD/Aコンバーターの回路が持つわずかなノイズによって小信号時の違いが判別できなくなるので、結果としてCDのダイナミックレンジは90dB以上という表示になっている。
原音に対して出力された音がどれくらい変化しているかを表す値だ。「歪」という字が当用漢字から外れたためにひらがなでの表記になっている。ちなみに「歪率」と書いてあったら「わいりつ」と読むのが正しいそうだ。で、これがどういうカラクリで0.05%パーセント以下という数字になるのかは勉強不足のためちょっと私には判らない。ごめん。ただ0.数%から数%のひずみ率を持つアナログメディアに比べれば文字どおりけた違いに良い数値なことだけは確かだ。
ワウフラッタというのは「ワウ」と「フラッタ」の合字で、どちらも回転ムラを表すものなんだけど、「ワウ」の方が比較的周期の遅いもので、「フラッタ」の方が比較的周期の速いものということになっている。で、CDを見てみると、トレイの上にディスクを乗せてぶん回しているだけなので、どう考えてもレコードのターンテーブルやアナログテープレコーダほど正確に回るようなメカニズムだとは思えない。実際この時点ではかなりのワウフラッタが存在する訳なんだけど、CDはこの時点でワウフラッターがあろうが無かろうが関係ないのだ。なぜかというと、CDはディスクからデジタルデータを読み込んで、そのデータを一旦RAM(ラム Random Access Memory)に書き込んでから、D/Aコンバーターに送っているわけで、この時点では順番さえあっていれば良いことになるわけだ。
ということで回転ムラがでてくる可能性があるとすれば、RAMから読み出すときのスピードが変化することということになるんだけど、(別にRAMは回転しているわけではないので、ワウフラッターというのはおかしな話なんだけど、ここで読み出すスピードが変わると、レコードのターンテーブルや、アナログテープレコーダのワウフラッターのような影響がでるので、通常ワウフラッターという言葉が使われる)RAMからデータを取り出すスピードは、水晶発振器というものを使って決めていて、精度は水晶に影響されるので「水晶精度」というわけだ。一般向けの技術としては水晶発振器はもっとも正確なもののうちの1つなので、水晶精度といえば実用上ワウフラッターはないといっているのと一緒だ。(ワウフラッターを計測する器械の基準が水晶発振器なので、「測定可能値以下」というような書き方をしてあることもある)
これは44.1kHzで固定だ。
16ビット直線と書いてあるけど、16ビットリニアといってもいい。要はアナログデータの振幅に同じ割合で16ビット分を割り振って量子化したものだ。
EFMというのはEight to Fourteen Modulationの略で、8ビットを14ビットに直すという意味だ。何でいきなり8ビットとか14ビットとか今まで出てこなかったようなものがでてくるのかというと、16ビットをいったん8ビット2つに分けて、さらにその8ビットを14ビットにして記録するというややこしいことをやっているんだな。何故こんな事をしているのかというと、例えば「0000000000000000」や「1111111111111111」のように同じ数が連続すると、信号をうまくピックアップできないからなんだな。それで、「1と1の間には必ず0が2個以上10個以下含まれること」という決め事がしてあるわけだ。これを行うためにまず14ビットの組合せ(16384個)の中から、上記の決め事にあう組合せを抜き出すと、267通りある訳なんだな。(逆に言うと、上記の組合せを256以上含むのには、14ビット必要ということだ)で16ビットの信号を8ビットに分けてある訳だから、267通りの中からあらかじめ8ビット分の256通りの組合せを選んでおいて、それに置き換えるわけだ。この置き換え(=変調)をEFM(Eight to Fourteen Modulation)というのだ。よくわからんでしょ?(^_^;
記録された信号を正しく取り出すための技術で、デジタルメディアにはなくてはならない技術だ。例えば「頑固一徹」という言葉を記録したとして、アナログメディアで2読み込みエラーが起きても「がんこいってつ」というように、音がぶれたりするだけで音の本質には影響を与えないけど、デジタルメディアでは基本的に0と1の組み合わせで判断するので、"10000000000100"を"10000000000101"と読み込みエラーを起こしただけで、「まんこいっぱつ」のように全然違う内容に置き換えられてしまう可能性がある訳だ。
そこでデジタル録音メディアには必ず誤り訂正機能が組み込まれているんだけど、でその誤り訂正方式としてCIRCと書いてあるけど、これはサークと読む。クロス・インターリーブ・リードソロモン・コード(Cross Interleave Read-Solomon Code)の略なんだけど、クロス・インターリーブという技術とリードソロモン・コードという技術の組み合わせだ。
クロス・インターリーブというのは簡単にいうと、データを連続的に記録しないで、あちこちに分散して記録する方法だ。エラー訂正は長時間エラーが連続すると訂正が不可能になるので、まとまって1秒間エラーが起きるより、0.1秒間のエラーが10回の方がいいという考え方だな。リードソロモン・コードというのはなんか哲学的な名前だけど、(何となく「賢者の書」みたいなイメージがない?)人生そんなにドラマチックじゃなくて、これは単純に1960年この理論を考えたリードとソロモンという2人のおやぢの名前からきている。コードというのは符号とか暗号とかいう意味だ。でその理論はかい摘んでいえば、記録するときに信号に特殊な記号を混ぜておいて、読み込み時にそれによって正しく読み込んでいるかどうかを判断するものだ。このCIRCの技術はすべてのデジタルメディアのエラー訂正に使用されていると言っていいほどよく使われている技術だ。
それでCDはレコードと逆に、円盤の内側から読み込みを始めるんだけど、最初の部分にTOC(Table Of Contents)という情報が入っている。ここには「このディスクには何曲入っていて、それぞれの曲は、何分何秒から何分何秒まで」というような情報や、「全体で何分何秒」などの情報が記録されている。だからみんなはCDをCDデッキに入れてすぐに頭出しをしたり、何曲入っているか、トータルで何分かなどがすぐ判るようになっているわけだ。またさらにCDには記録容量の約3%分のサブコード領域というものが確保されていて、ここに色々なデータを書き込むことが出来るようになっている。ユーザーズビット(User's bit)とも呼ばれるこのサブコード領域は、P.Q.R.S.T.U.V.Wの8つの領域が有るんだけど、普通のCDで使われているのはPとQで、ここに通常の音楽用CDに必要な情報が入っている。(Pには記録された内容の区切りや有無の情報、Qには曲番や絶対番地、インデクスやプリエンファシスの有無などの情報が入っている。CDのマスタリングに使う機械を「PQエディタ」といったりするのはこのためだ。)ということはあと6つのユーザーズビットが空いているわけで、ここに他の情報や静止画像を入れたりすることが出来る。(動画像はデータ量が多いので記録できない)場末の飲み屋のカラオケなどで、動かないへたくそな画像が出てきたら、それはこのユーザーズビットに入れた静止画像だ。
3-5-3 CDV
以前は上記のユーザーズビットに静止画像を入れたものをCDVといってたんだけど、最近はCDというよりも、LV(LAaser Visoion =レーザービジョン)の小型版として登場したものをCDVということが多いみたい。約5分間の動画データと音声データに加えて約20分の音声データだけを記録することが出来る。まだまだ発展途上のメディアなので、今後どうなっていくかは見当がつかないけど、個人的にはその中途半端さからあんまり普及しないような気がする。(大体親玉の LV自体が発表されてからしばらく経つのにいっこうに普及してないからなあ)
3-5-4 DAT
現在ユーザー側で録音の出来るデジタルメディアで、MDの次に普及しているのがDATだ。(一般用としてはかなり苦戦しているが)DATとはDigital
Audio Tape-recorderの略なので、本来デジタル録音の出来るテープレコーダの総称なんだけど、ここではいわゆる一般的なDATについて説明しよう。現在製品化されているDATは、回転ヘッドを使ったR-DATと呼ばれるもので、一応世界共通の規格があるんだけど、あとから色々な規格が追加されたり削除されたりしているので、ちょっとばかり詳しく見ていくと結構混乱する。それでは混乱させてあげよう。DATには現在ほとんど無用の長物と化した規格を含めて6つのモードが存在する。
モード | サンプリング 周波数 |
ビット数 | チャンネル数 | C-120テープでの 録音可能時間 | |
---|---|---|---|---|---|
1 | 標準 | 48kHz | 16ビット 直線 |
2 | 120分 |
2 | 標準 | 44.1kHz | 16ビット 直線 |
2 | 120分 |
3 | オプション1 | 32kHz | 16ビット 直線 |
2 | 120分 |
4 | オプション2 | 32kHz | 12ビット 非直線 |
2 | 240分 |
5 | オプション3 | 32kHz | 12ビット 非直線 |
4 | 120分 |
6 | ワイド トラック |
44.1kHz | 16ビット 直線 |
2 | 120分 |
表3-5-2 DATの規格 |
これは普通みんながアナログソースをDATに録音するときに使われるモードで、録音が可能なDATデッキには必ず備えられているモードだ。サンプリング周波数は48kHz、ビット数は16ビット直線。名前の通りDATの標準規格だな。当初は120分テープしかなかったので、最長記録時間は120分だったけど、現在は180分のテープがあるので、最長記録時間は180分だ。
標準48kHzモードのサンプリング周波数だけを44.1kHzに換えたようなものだ。意外にこのモードを装備しているDATデッキは少ないけど、CDとサンプリング周波数が一緒なもんで、CD用のマスタリングとして使うには便利。
標準48kHzモードのサンプリング周波数だけを32kHzに換えたようなもので、衛星放送のAモード用の規格だ。みんなにはほとんど関係ないし、このモードを装備しているDATレーコーダも一般にはない。
長時間録音モード。LPモードともいわれるんだけど、これはサンプリング周波数とビット数を低めに設定して時間当たりのデータ量を約半分に減らし、その代わりに倍の時間録音できるようにしたものだ。まあVTRでいえば3倍モードやβIIIモードのようなものだな。サンプリング周波数は32kHzで量子化ビット数は12ビット非直線。据え置き型のDATならほとんどのものにこのモードは装備されているけど、音質を犠牲にして時間を稼ぐという使い方はあまりDATではしないので、まず使われることがないモードだ。
ただし今までは、PCMプロセッサを使ってVTRの「3倍モード」やβlllモードでしかできなかった(だけどPCMプロセッサの所でふれたように、PCMプロセッサでVTRのスピードを落として録音するのはかなりリスキーだ)デジタルによる長時間録音が、安定した性能で可能になったという点は大きいと思う。180分テープを使えば最長6時間までの連続録音が出来るわけだ。
標準48kHzモードから、サンプリング周波数とビット数をおとして、時間当たりのデータ量を少なくするのはオプション2と一緒だけど、このモードは録音時間を倍にするんじゃなくて、トラック数を倍にして4トラックにしている。ただしDATはMTRとしての規定はないので、せーので4トラック同時に録音再生するだけだ。だからこのモードは4トラックモードとはいわずに、4チャンネルモードといっている。わしは実際にこのモードで録音されたテープや、このオプションを装備したDATを未だに見たことがない。
今までのモードは録音再生を前提としたモードだったんだけど、これは再生専用のモードだ。当初はCDみたいにソフトを発売してもーけようということを考えていたわけだ。もちろんどんなDATでも、このワイドトラックは再生出来るんだけど、大量生産に都合のいいテープの磁性体を使用しているので、それに関係する部分に規格が他のものと少し違う。それと売り物という事で間違えてサブコード情報(曲の頭や時間の情報など)を書き換えられては困るので、このモードだけは勝手に書き換えたり出来ないように音声信号に混ぜてこれらの情報を記録している。まあ使う分には気にする必要は全くないんだけどね。サンプリング周波数は44.1kHz、ビット数は16ビット直線だ。
以上のような6通りのモードがDATには存在するのだ。まあ実際使うのは標準48kHzモードだけだと思うけどね。
3-5-5 DATのサブコード
デジタルメディアには、サブコード領域と呼ばれるコントロール信号などを書き込める部分があって、これが今までのアナログ録音メディアにはない特徴になっている。このサブコード領域は音声を録音する部分と独立しているので、DATやMDなどはサブコードをあとから音声信号に影響を与えずに、書き込んだり消したり出来るのだ。ここではDATのサブコードを例にとって説明しよう。
DATのサブコードは下記のように最大7つの情報を扱うことが出来る。
1 スタートID
2 エンドID
3 スキップID
4 プログラムナンバー
5 アブソリュートタイム
6 プログラムタイム
7 TOC
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図3-5-1 DATのサーチ記号 |
このサーチボタンはCDにも付いてるけど、通常の早送り巻き戻しボタンの記号に一本棒が入ったような記号をしている。CDやDATにはA面B面がないので、必ず右向きの矢印は早送り方向、左向きの矢印は巻き戻し方向になる。
録音時に、無音状態が数秒続いたあとに音が入ってきたら、自動的にスタートIDを書き込んでくれるのがオートIDというもので、結構便利な機能だけど、フェードインの曲なんかは、ある程度以上の音量にならないとIDを書き込んでくれなかったり、ライブを通しで録音するときなんかは、曲以外の所で、しゃべりがとぎれる度に新たなIDを書き込んでいくので、30分程度の録音で100個以上のスタートIDが入ってしまったりと、決して万能ぢゃない。まあライブ録音の時なんかはオートIDをオフ、その他の時はとりあえずオンにしておいて、後からきちんと入れ直すというのが常識人の使い方だ。このスタートIDや次のエンドIDやスキップIDは、1つにつき約8秒間を必要とするので、1つのIDを書き込んだら8秒以内に次のIDを書き込むことは出来ない。
エンドIDというのは、テープに記録された内容を最後の部分に入れるIDだ。180分テープで1分しか使ってなくても、このエンドIDが入っていればDATレコーダはこのテープの終わりとみなすわけだ。これはスタートIDの時のオートIDのようにDATデッキが勝手に入れてくれるオプションはないので、録音中か後でマニュアルで入れる。このエンドIDは入れないと困るもんでもないけど、テープを何回かに分けて録音するときなんかはどこまで録音してあるかがすぐ判るので、入れておいた方がいい。
なかなか楽しそうな名前なんだが、スキップというのは「とばす」というような意味に取っておけばいい。このIDが入っていると、そこから次のスタートIDまでテープを早送りサーチするという物なんだけど、通常はさらにDATレコーダ側でスキップ機能をオンにするかオフにするかの切替があるので、これがオフになっているとスキップIDは無視される。
プログラムナンバーというのは、テープの頭からのスタートIDの順番の番号ことで、テープの最初から順番に録音していってオートIDをオンにしておけば、勝手に打っていってくれる。ただし途中まで録音済みのテープの途中から録音したり、あとから途中にスタートIDを書き込むと、プログラムナンバーは途中から狂ってくるので、リナンバー機能を使ってプログラムナンバーを打ち直してやる必要がある。
プログラムタイムというのはIDとIDの間の時間。プログラムナンバーを打ってある場合は、そのプログラムの長さといういい方もできる。
テープの先頭からの時間。
TOCというのはCDの所で出てきた物と一緒。私はDATでは見たことがないのでよく判らないんだけど、多分ワイドトラックモードで録音されたミュージックソフトテープ用の物だと思う。
以上のサブコードを図でまとめとこう。
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図3-5-2 DATのサブコード |
あ、それからCDの時は8ビットを14ビットに変換するEFMという変調方式を利用していたけど、DATも同じように変調しなければデータとして認識できない。DATで使われる変調方式はETM(Eight
Ten Modulation = 8-10変調)といわれるもので、これはCDと同じように16ビットを8ビット2つに分けたあとに、今度は10ビットに変換するやり方だ。何故CDと同じじゃないかとわしに聞くな。CDのときは「1と1の間には必ず0が2個以上10個以下含まれること」という取り決めだったんだけど、DATの場合は「1と1の間に0が最大3つまで」という決まりになっているのだな。でこれを満たす組合せは14ビットなくても10ビットで用意できてしまうので、DATでは8ビットから10ビットに変換する方式になっている。
3-5-6 DAT使用上の注意
アナログメディアでは後者の方法は、「無信号を録音」する事になり、バイアスのノイズ分が付加されてしまうので、強いて言えば前者の、再生状態でカラ送りをする方法の方がいいけど、まあどっちの方法でも大差ない。ところがDATの場合は、前者の方法では問題が起きるのだ。
前者の方法で録音したテープを再生したりサーチしたりすると、1曲目の終わりまでは正常に再生したりサーチしたりしてくれるんだけど、1曲目が終わった瞬間にサブコード情報もとぎれてしまうので、DATのデッキは「あれっ、いったいこの部分はなんなんだ????」ということで、極端にスピードを落としておそるおそる進むのだ。2曲目の頭の部分まで来るとサブコード情報が復活するので、DATデッキは安心してまた正常に再生したりサーチしたりしてくれるようになるんだけどね。
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図3-5-3 DATの曲間の作り方 |
ポータブルDATデッキは携帯性を最優先して考えてあるので、ポータブルDATデッキ単体では、据え置き型のような細かい編集機能が省略されていることが多いのだ。それと機種によってエンファシスがオンで録音されてしまう事があるいうこと。これはポータブルDATデッキは生録などの用途に使うことが多いためで、生録では余り録音レベルをあげて録音すること(量子化ビット数めいっぱい使うこと)が難しいので、エンファシスによってS/Nの改善を図っているためだ。
3-5-7 サブコードのアフレコ
先述の通りDATにはサブコード領域があって、音声信号とは無関係に自由に記録したり消去したりすることが出来る。これらは音声信号の録音中に同時に記録することももちろん出来るけど、普通は音声信号の録音時には、音に集中して、あとからサブコードを書き込むこと(アフレコ)が多い。ここではソニーのDTC-77ESを例にとって、サブコードのアフレコの方法について説明しておこう。メーカーや機種によって多少の違いはあるものの、基本的にはどんなデッキでも同じような手順になる。詳しくは使うデッキの取扱説明書を参照してくれ。(逃げ)
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図3-5-4 スタートID |
これは音声信号の録音の時に、無音部分が数秒続いた後に一定以上のレベルの信号が入力された時点で自動的にスタートIDを書き込んでくれるもの。デッキの電源を入れた状態(初期状態)ではオンになっている。普通はオンになっていた方が便利だけど、一度書き込んだIDは1つ1つ消していくしか方法がないので、あまりにも不必要なIDが入るようならオフにしといた方がいい。
スタートIDを全く書き込んでいなかったり、いったん書き込んだIDを消したりした場合は、プログラムナンバーがなかったり、狂ったりしてしまうので、このリナンバー機能を使ってプログラムナンバーを打ち直す。使い方はIDの編集が終わったら、テープのどこの部分からでも、停止状態でも再生状態でも構わないから、とにかくこのRENUMBERボタンを押す。そうすると勝手にテープを頭まで巻き戻して、順次スタートIDを探していき、見つけると数秒間音を聞かせた後にプログラムナンバーを書き込んでいく。テープの未録音部分やテープの終端、もしくはエンドIDまで来るとプログラムナンバーを書き込む作業をやめて、またテープの先頭に巻き戻して終わる。
スタートIDを書き込む為のボタン。次のERASEボタンで不必要なIDを消した後にテープを再生し、大体ここだと思ったところでこのWRITEボタンを押す。そうするとリハーサルモードになって、さっきWRITEを押した部分から3秒間繰り返し再生してくれる。これを聴いてスタートIDを打った場所が気に入らなければ、前にずらすときは巻き戻しのボタン、後ろに動かすときは早送りのボタンを押すと、1回押す毎に0.3秒づつ移動してくれる。移動して丁度いい場所が決まったら、もう一度WRITEボタンを押すとスタートIDを実際に書き始める。スタートIDを書いている時には音声信号はミュートされているけど、スタートIDを書き終わったら音声信号が出てくる。
スタートIDを消去するボタン。操作は簡単で、テープを再生状態か停止状態にしてSTART IDのERASEボタンを押すだけだ。そうするとテープがスタートIDの所にある場合はそのスタートIDを、そこにスタートIDがない場合はテープを巻き戻していって最初に見つかったスタートIDを消す。一度に複数のスタートIDを消すことは出来ないので、他にも消したいスタートIDがある場合には同じ手順を繰り返すしかない。
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図3-5-5 スキップIDとエンドID |
3-5-8 MD
MDとはミニディスクの略で、現在ソニーが中心となって売り出しているデジタル録音メディアだ。シングルCDを一回り小さくしたようなディスクをメディアとするので、DATなどのテープを利用するものに比べて耐久性が高いというのがもっとも大きなウリだ。
原理的にも性能的にもサンプリング周波数が44.1kHzで量子化ビット数が16ビットとCDと同じスペックなんだけど、デジタル化するときにATRAC(Adaptive Transform Acoustic Coding)というインチキをやって、16ビットのデータを4ビットまで圧縮して記録している。よってCDの約半分の大きさのメディアに70分以上の録音が可能となっているわけだ。
データを圧縮してある関係上、再生にはデータの伸張が必要になり、約3秒間のデータをRAMに読み込んで、順次伸張しながら音声信号を再生する。けがの功名的に、もし読み込みエラーが起きても、3秒以内ならもう一度読み込み直せばよいので、CDより読み込みエラーには強く、振動の多いカーステレオなどの分野やポータブルステレオの分野に向いているといえるわけだな。
DATや後述のDCCなどに比べて、MDのメリットはというとなんといってもCDと同じ、非接触型のメディアだということだろうな。DATやDCCはテープをヘッドがこするという接触型のメディアなので、アナログメディアに比べて長いとはいうものの、確実のテープにもデッキにも寿命がある訳なんだけど、CDやMDは半永久的に使用することが出来る。ATRACによる圧縮は人間の音響心理を利用して、ほとんど必要のないデータの部分を消してしまうというものなので、歪みの発生は避けられないものの、ちょっと聴いただけでは判らないようなごく微量の信号の変化なので、一般用としては十分な性能だ。
だがプロは音のわずかな違いが勝負所という部分もあるので、圧縮をするMDはマスタリングなどの用途に使われることはないといっていい。またプロ用として考えるとサンプリング周波数が44.1kHz固定というのもいただけない。(最近はサンプリング周波数のコンバーターが装備されていることが多いけど)さて、果たしてどこまで家庭用デジタル機器のスタンダードとなるか・・・個人的な意見だが、一般人はそこまで音にこだわっていない気がする(^_^;・・・・カセットでい〜じゃん。
3-5-9 DCC
DCCとはデジタルコンパクトカセット(Digital Compact Cassette)の略で、その名前からも判るようにいわゆるカセットを開発したフィリップスが提唱している規格だ。
特徴としては従来のカセットと全く同じカセット形状、テープ幅、テープスピードを採用していることで、DCCのレコーダは、必ず従来のカセットの再生用ヘッドも持っていて、再生だけは出来るようになっている。またテープも両面走行するんだけど、従来のようにテープをひっくり返す方法ではなく、いわゆるオートリバース方式でテープの進行方向とヘッドの向きが変わるようになっている。
サンプリング周波数48kHz、44.1kHz、32kHz切替で、ビット数は16ビットと見かけ上のスペックはDATとほとんど同じ(ちなみに変調方式もDATと同じETMだ)だけど、MDのように量子化はインチキをやって4ビットに圧縮してから記録している。このインチキ方法はPASC(Precision Adaptive Sub-band Cording)といわれるもので、動作は全く違うもののMDのATRACと同じようなことをやっている。このDCCはDCCデッキで従来のカセットがかけられるという点以外に目立ったメリットがない(固定ヘッドというのはすごいけど、パンピーには関係ない)ので、ほとんど普及せずに終わった。(第2のエルカセットだな)日本での主力メーカだった松下電器(Panasonic)は、既に撤退して、ビクターだけが、何とかカタログに載せているだけだ。
3-5-10 プロ用固定ヘッドデジタルテープレコーダ
本来なら最初に紹介するべきもんなんだろうけど、お恥ずかしい話しながら私は使ったことがないのだよ。で、ざっとだけふれておくことにしよう。
現在プロ用固定ヘッドデジタルテープレコーダには大きく2通りの規格があって、1つはソニー・松下・TEAC・STUDERが共同提案したDASHフォーマットと、もう1つは三菱・AKAI・OTARI・AEGが共同提案したPRODIGI(PD)フォーマットだ。この2つの規格には互換性はないので、不便は不便なんだけど、どちらも独自の技術で高性能化をはかっているためこの両者の甲乙は付けにくく、将来どちらかのフォーマットが消えてしまうこともなさそうだ。ただしMTRの部分ではSONYがPCM-3348というヒット機種を出したために、DASHフォーマットの方が優位に立ちつつある。共通点はサンプリング周波数が48kHzと44.1kHzに対応している点と、量子化ビット数が16ビットリニアな事だ。
固定ヘッド式の大きなメリットは、アナログテープのように手切り編集が可能な事だ。DATなどが回転ヘッドをテープに斜めに当てることによって何とか記録できるデータ量を増やしているのに対して、同じくらいのデータ量を従来と同じような方法で(しかも同じテープスピードやテープ幅で)記録しようとしているわけだから、とんでもなく高密度記録テープになるはずで、本来なら手切り編集はおろか、手で直接触ることさえ出来ないようなもののはずなんだけど、手切り編集を可能にするために様々なエラー訂正への努力がこれを可能にしているわけだ。(で、DATやDCCなどはこの技術をちゃっかり利用して大きな顔をしている)
1/4インチテープを使用する2トラック機は、ツインDASHといわれる方式によって手切り編集時の信頼性に優れる。またマルチトラック機は、トラック数が48トラックでも1/2インチテープで済む。従来のDASHフォーマットの1/2インチ24トラックのフォーマットで録音されたテープを、48トラック機で正常に再生することもでき、さらにそのテープに音を重ねて48トラックテープに変更することもできる。
1/4インチテープを使用する2トラック機は、オプションとしてサンプリング周波数そのまま(44.1kHzもしくは48kHz)で、ビット数を20ビットにするSTDモードと、ビット数はそのままサンプリング周波数を96kHzにするHSモードがある。STDモードを使用した場合のダイナミックレンジは約120dBになり、通常のモードより約30dB改善される。HSモードの場合は40kHz以上の周波数帯域まで周波数特性が改善される。
3-5-11 メーカ独自規格のデジタルMTR
アマチュア用の(最近ではプロも積極的に使っている例も多いけど)デジタルMTRには、メーカの独自規格のものが非常に多い。多くは8トラック程度のトラック数で、必要に応じて台数を増やせばトラック数を増やせるようになっている。
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写真3-5-2 AKAI DR-1200 |
独自規格の8ミリテープを使ったフォーマットだ。逆にこの独自規格が嫌われて市場では苦戦した。ヤマハでは現在このDRU-8を含め、デジタルMTRは作っていない。(MD
MTRは出しているが、I/Oがアナログ)
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写真3-5-3 TASCAM DA-88 |
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写真3-5-4 Alesis A-DAT-XT |
まあ出た当初の大方の読みは「信頼性が低いだろう」という読みだった。ところがふたを開けてみると、他のメーカーの独自規格のものと勝るとも劣らない機能と信頼性を持っていることが判り、特にミュージシャン関係から一気に普及した。現在では次のFOSTEXやテープレコーダ関係製品の大手メーカーAMPEXをはじめとして数多くの中堅メーカーがこの規格への参加を表明している。この規格も16台までの増設が可能なので、128トラックのMTRを構築することが出来る。現在ではADATのあとにXTのついた改良版が販売されている。最近プロ用のM-20というのも発表された。
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写真3-5-5 FOSTEX RD-8 |
3-5-12 その他のデジタル録音メディア
現在新製品発表がもっとも活発に行われている分野だ。一昔前のキャッチコピー風にいうなら「今、デジタルが熱い!」ってとこかな。(ああ恥ずかしい)
一般的な分類でいうと、テープレスレコーディングというくくり方をすることが多いんだけど、そういった意味ではCDやMDもディスクに記録するので、ここの中に分類されることになる。まあでもCDやMDはもう珍しくもなんともない存在なので、ここではその他のテープレスレコーディングメディアについてふれておこう。
その他のテープレスレコーディングメディアと一口にいっても様々なものがあるけど、いずれも音声信号をデジタル化して、読み込んで処理をしてから出力したり保存したりすることには代わりない。これを楽器側からアプローチしていったものがサンプラで、テープレコーダの代用として進化していったものがハードディスクレコーダだ。よってこの2つの構造はほとんど同じものなんだけど、サンプラはより楽器としての使い勝手を、ハードディスクレコーダは今までのテープレコーダのシミュレートや新しい機能を充実させることに重点を置いている。
現在デジタル機器に使われているメディアは
1 RAM / ROM
2 ハードディスク
3 MO
4 WO
5 フロッピディスク
なんかが代表的だ。これらは皆ランダムアクセスが可能だという点が、テープを使った録音メディアとは異なる点だ。
ランダムアクセス(Random Access)とは簡単にいうと、メディアのどの部分にも瞬時に移動できるという事で、例えばCDもランダムアクセスが可能なメディアなので、いきなり1曲目から12曲目にとばすなどという芸当が可能なわけだ。これはDATなどのテープメディアでは出来ないことだ。
更に上記の5種類のメディアの順番はそのメディアの読み書きの早さも表していて、RAM / ROMがもっとも速く、フロッピディスクがもっとも遅い。早さの点だけ考えればRAM / ROMを使えばいいということになって、他のメディアの存在意味がないことになるけど、現実にこれだけ存在しているという事は、それぞれにメリットデメリットを抱えているという事になるわけだ。
RAMはRandom Access Memoryの略で、ROMはRead Only Memoryの略だ。この2つは構造も性能もよく似ているけど、RAMは何度でも記録の書き換えができるのに対して、ROMはその名の通り、いったん書き込んでしまった記録は消すことができない。
今までのテープレコーダなどの代わりにしようとすると、読み書きできるRAMの方ということになるんだけど、RAMは現在の記録メディアで最高速の読み書きスピードがあるものの(次に高速なハードディスクの約100〜1000倍)、記録容量当たりの単価が高く、大容量にできないのが難点だ。(値段はハードディスクの約50〜500倍)よってRAMは現時点では、デジタルメディアの作業用の記録素子として使われている。保存はハードディスクなどの記録メディアにまかせて、高速な処理が要求される部分にのみRAMを使用しているわけだ。あ、それとRAMにはもう一つ弱点があって、記録を保持するためには電源が必要ということだ。だからサンプラーやデジタルエフェクターなどのデジタル音響機器は、電源を切ってしまうとその中にあった音声信号は消えてしまう。サンプラーがデータをフロッピディスクやハードディスクに保存しなければならなかったり、SPXシリーズのFREEZEでサンプリングした音が電源を切ると消えてしまうのはこのためだ。
(ちなみにキーボードの音色を保存しておくRAMカードは、中に電池がちゃんと入っている。例外としてヤマハのDXシリーズのカートリッジには電池が入っていないんだけど、これは単純なデータなら読み書きできる特殊なROMを使っているのだ。)
RAMに比べてROMは工場で一度データを書き込んでしまったら(通称「焼き付け」)、そのデータは消したり変更したりできず、その分大量生産すればコスト的に安くすることができるので、需要のある自動販売機やエレベーターの音声案内に使用されている。ちなみにROMは一度焼き付けてしまえば電源がなくても内容を保持してくれる。 良く言われることだが、宅急便のトラックの「バックします」というROM音声は「ガッツ石松」と聞こえる。
ぴぽ〜んぴぽ〜ん ガッツ石松・・・
ぴぽ〜んぴぽ〜ん ガッツ石松・・・
ぴぽ〜んぴぽ〜ん ガッツ石松・・・
ハードディスクという名前は、それまであったフロッピディスク(へなへなしたディスクという意味)に対してハード(堅い)といっただけで、別に象が踏んでも壊れない訳じゃない。それどころか振動やごみなどに非常に弱いデリケートなメディアなのだ。
構造は、アナログレコードのプレーヤのようなものだと思えばいい。決定的に違うのは、「針」の部分が円盤からほんのわずかに浮いていることと、円盤が超高速だという事だ。大容量のハードディスクはこの円盤と針の部分を何枚か重ねて1つのハードディスクにしている。最近コンピューターの扱うデータが肥大化の一途をたどり、それを保存するハードディスクも大容量化が進んだため、大容量のハードディスクが比較的安価になってきた。15年前20MBのハードディスクといえば超大容量で何十万円もするものだったんだけど、今や読み書きスピードが倍以上になった4GBのハードディスクが3万円程度で買える時代だ。
よって以前は恐れ多くて考えもしなかった「音声データをハードディスクに読み込んでしまおう」という発想が生まれてきたんだ。なんせ1分間の録音に約10MBの容量が必要というのが相場だから、1曲をマスタリングするためだけでも、昔は何百万の金を払ってハードディスクを数台用意しなければならなかったわけだし、ハードディスクの読み書きスピードも遅いので、データの書き込み読み込みエラーを起こす可能性が高かったわけだな。(でもこの流れでいくと、現在ではまだまだ高価で低容量のRAMに音声信号を読み込んで保存するという時代が、そのうちやってくるかもしれない。まあ1999年の7月以降に地球が存在すればの話だけど。)
で、現在脚光を浴びているのが前述のハードディスクレコーディング・HDR(HardDisk Recording)だ。現在このハードディスクレコーディングの機器は、大きく2通りに別れていて、1つはハードディスクレコーディング専用機。もう1つはコンピューターを利用したものだ。専用機で現在で回っているものはAKAIのDR4VRやDR-8やDR-16、FOSTEX D-80、RolandのVS-880などで、最近はSONY MDM X4、YAMAHA MD4、TASCAM 564など、ハードディスクではなくMDを利用したものが、アマチュア用を中心として売られている。コンピューターを使うものには、コンピューター本体を利用するものや、本体にカードを増設してやるもの、本体はコントローラーとして利用するものなど色々なタイプがある。いずれも今までのマスターレコーダやMTRのような使い方をするように考えられているわけだ。(AKAIのS-3200などはサンプラーながら、ハードディスクレコーディングも出来るようになっている)
ハードディスクレコーディングで今までのテープレコーダでは出来なかった機能は、何といっても非破壊的(ノンディストラクティブ)編集な編集が可能なことだ。ハードディスクレコーディングではハードディスクに音声信号を記録して、それをRAMに読み込んで編集するために、RAM上にあるデータが使いものにならなくなったとしても、ハードディスクにデータが残っている限り何度でもやり直すことが可能だからで、失敗したらあ゛ーといってももう遅いアナログテープの切り張りに比べると、格段に便利で安心だ。
これを考えるとプロ用のスタジオなんかは、みんなハードディスクレコーディングに移行してもよさそうなもんだけど、48トラックを1時間録音する容量となると、15GB(ギガバイト)ものハードディスクが必要になるし、作業用のRAM領域も膨大な容量が必要になる上に、録音したもののバックアップや保存にも同じだけの容量を持った記録メディアを用意しなければならない。これではとてつもなく高い設備投資とランニングコストがかかってしまうので、現在の所ハードディスクレコーディングは、2トラックや8トラック程度までの使用に限られている。ただし2トラックの編集で、今までさんざん苦労して切り張りしてきたCM制作のギョーカイや放送局にとっては、ありがたいことこの上のない機械なので、AKAIのDD-1000というハードディスクレコーダ(厳密にいうと記録メディアに後述のMOを使用しているので、ハードディスクレコーダではないんだけどね)などは10年ほど前にあっという間に色々な放送局や小中規模のCMスタジオやMAスタジオに普及した。
通常「えむおー」と呼んでいるけど、これは光磁気(Magneto Optical)の略で、磁気によって円盤の表面を変化させ、それを光学的に読みとる方式だ。まあ構造的なことは知らなくてもいいとして、性能的にはハードディスクに比べて、読み書きのスピードがほぼ同じくらいで、容量は3.5インチで200MB強、5インチで500MB強といったところ。そのまま音声信号の記録に使うこともあるけど、ハードディスクとの一番の違いはメディアがドライブから取り出して交換できる(リムーバブル)だということで、データーの保管用によく使われるが、最近ではOTARI PD-80などMOを利用したレコーダも発売されている。その他リムーバブルメディアとしてはとしてはSyQuest社の「リムーバブルハードドライブ」やiomega社の「zip」や「jaz」なんかがある。
余り一般にWOという言葉は使われないけど、Write Onceつまり、一度だけ書き込みが出来るメディアのことだ。現在このたぐいのものは再生専用のものまで含めると、規格といい製品名といい大混乱を起こすようなものばかりだ。何故かというと、生産ラインが確立していて単価を押さえられるメディアであるCDを利用したものがほとんどだからだ。ざっと挙げると、CD-WO, CD-MO, CD-R, CD(CD-DA), CD-S, CD-G, CD-V, CD-ROM, CD-ROM-XA, CD-I, 電子ブックなど。ここまで色々あると説明する気にもならんし、コンピューター用のフォーマットや映像用のフォーマットも多いので省略するけど、性能的には読み書きのスピードがハードディスクの1/10程度、容量は600MB位だ。
まあどういったものか説明する必要はないと思うけど、実際にこのフロッピディスクが音声信号の記録に使われることはない。ハードディスクなどの他のメディアに比べて記録容量が極端に小さくて、読み書きのスピードが極端に遅いからで、さらに同じデータ量を記録するのにしても他のメディアより割高になってしまうからだ。例えば2HDのフロッピディスクの容量は約1.4MBなので、CDの音声データをもし移したとしても9秒程度しか記録できないのだよ。まあワープロのデータなら、本1冊分のデータくらい入ってしまう容量を10秒弱で使いきってしまうということで、いかに音声のデータが記録メディアやコンピューターにとって負担の大きいものかが判るでしょ。(それでも画像データの比べればかわいいものなんだけど)