「え〜、管楽器には木管楽器と金管楽器があって・・・」というような事は小中学校の音楽の時間に習ったと思うし、「ブラス」という言葉や「ウッドウインド(インストゥルメント)」というい葉も耳にした事があるかもしれない。ブラスインストゥルメント(Brass
Instrument)の訳が「金管楽器」で、ウッドウインドインストゥルメント(Wood
Wind Instrument)の訳が「木管楽器」だ。厳密な分け方をすると、フルートやサックスは金属で出来ているのに木管楽器になるんだけど、サックスとトランペットとトロンボーンの組み合わせを「ブラスセクション」といったりするし、音響的にはそんな分類は意味がないので、ここで全く別の分け方をしてみよう。
まずここでの管楽器の定義は「人の息によって音を出すもの」としよう。ピアニカやカズーやリコーダーも管楽器と考えてしまうわけだ。さらにこの管楽器を大きく2つに分けよう。それは「穴のいっぱいあいているものとそうでないもの」だ。
穴のいっぱいあいている管楽器にはサックスやフルート、クラリネットやリコーダー、それにオカリナなんかがあるし、そうでないものにはトランペットトロンボーン、ホルンなんかがある。
この2つになぜ分けたかというと、それぞれに音の出方が非常に似ているのだな。だもんで当然マイキングにも「王道」があるわけだ。
2-6-1 管楽器のマイキング
☆穴のいっぱいあいているもの
穴のいっぱいあいている管楽器の演奏のしかたは、まず管の一端から息を吹き込み、リードを鳴らしたり、管を共鳴させたりする。それであいている穴を手や弁でふさぐ事によって音程を作り出す様になっている。この穴をみんなふさいでしまうと、息の逃げ場が無くなってプレーヤの血管が切れてしまうので、管のもう一端は必ずあいている。で、音は息を吹き込む部分・穴のあいている部分・管の終端の3ヶ所から出ているわけで、結構いろんな方向に音が放出されているわけだ。
このような管楽器を1本のマイクだけでオンマイクで収音したい場合は、どこか1ヶ所を狙うわけなんだけど、この3ヶ所の中で比較的音量があって、その楽器らしい音がする部分は、管の終端の部分。だからここを狙うのがとりあえず正解。(例外は下記参照)逆に考えると、オンマイクである必要がない時には、オフマイク気味のマイキングの方が、この3ヶ所からの音全てを収音する事が出来て、管楽器の自然な音を収音出来る事になるわけだ。
サックスの場合 | ||
サキスフォン、またはサクスフォンが正式名称。楽器自体の歴史は比較的新しいんだけど、(だから一般的なクラシックのオーケストラの中にサックスはない)今や一番ポピュラーな管楽器だ。基本的にはソプラノ、アルト、テナー、バリトンの4種類があって、それぞれ音域や調性は違うものの、音色も似ていてソプラノ以外は同じようなSの字形をしている。
さて、前述のようにこのタイプの管楽器は、管の終端を狙うのが正解だ。沢山の穴からも色々なニュアンスの音が出ているが、芯の太さや音量の面でやはり「アサガオ」と呼ばれる管の終端分を狙うのが一番「らしい」音がする。ちなみに口で吹く部分は、音は殆ど出ていない。 さてここで基本的にはアサガオの部分を狙うとして、マイクをアサガオの部分から離せば離すほど、(図のAの距離)マイクの角度をアサガオから中心に向ければ向けるほど、(図のBの角度)穴から出ている音も含めて収音出来るので、より生の状態に近い収音が出来る。当然ながらその分芯の太さや音量感は薄くなっていくけどね。(ちなみに図がいい加減なのはサックスの複雑な形を描くのに挫折したため。(^_^;)ソプラノサックスの場合はアサガオが下を向いているので、マイクも下から狙う。このマイキングの考え方は、クラリネットなどのシングルリードの管楽器に応用できる。 | ||
フルートの場合 | ||
フルートも穴のいっぱいあいた楽器だけど、例外的に管の終端を狙うマイキングはしない。なぜかちゅーと、フルートの音は管から出ている音と同じくらい、口から出る息の音(ブレス音)がフルートらしい音を構成しているわけだ。 管自体から出ている音はサイン波に近い音色なので、シンセなどでサイン波にホワイトノイズ(息の音のシュミレーション)を加えるだけでフルートっぽい音色になる。 で、この息の音と管の音を収音するために普通オンマイクではプレーヤの口の部分を狙うマイキングになる。ただしフルートを演奏しているプレーヤの息は口から斜め下に出ているので、口の正面や下からマイキングするとマイクが吹かれてしまうので、プレーヤの目の高さぐらいから口を狙って斜め下の向かってマイキングするのが一般的。 このマイキングで、ブレス音がきつい(管自体の音が小さい)と感じる時は、マイクをプレーヤの手の方へ少し角度を付けてマイキングすると改善される。ちなみにPAの世界では見た目の問題で、この様にプレーヤの顔の真ん前にマイクを立てる事が少ないが、レコーディングではプレーヤが演奏しにくくない限り、このマイキングをお奨めする。またこのマイキングの考え方は、オカリナなどのリードを持たない管楽器に応用できる。 | ||
オーボエの場合 | ||
負け犬の・・・オーボエ、ファゴットなどのダブルリード楽器は、リードの出す音色と管の音のバランスが大事。だからこういう楽器は口元と穴の開いた部分の中間をを狙う。 |
☆いっぱい穴のあいていないもの
これの発音原理は簡単。管の一端で音を共鳴させて、それをもう一端で音として放出しているだけ。極端な話、水道管みたいなものでも、この手の管楽器になりうるわけだ。実際の管楽器の管が曲がりくねっているのは、音を比較的簡単に出せるようにしたり、音程をコントロールしやすいようにするためのものなのだな。従ってこの手の管楽器のマイキングは、オンマイクであろうとオフマイクであろうと音の出口を狙うだけでいい。
トランペットの場合 |
通常トランペットというと、コルネットやフリューゲルホーンなども含んでトランペットというけど、音色が違うだけで、音の出方は一緒。要はラッパだ。これはもう文句なしに音が出ているのは管の広がった出口なので、マイクもここを狙う。ここをオンマイクで狙うとマイクがすぐ吹かれそうだけど、意外に「風」は来ない。ただし、むちゃくちゃ音量の出る部分なので、マイクの選択や、ミキサの扱いを間違えるとすぐに歪んでしまうので注意。オンマイクの場合は大体15cm、オフの場合は30cm以上離す。管に対してまっすぐにマイクの指向を向けると攻撃的な鋭い音に、少し斜めから狙うと柔らかい音になる。このマイキングはトロンボーンやチューバなどの楽器に応用できる。演奏者を基準としてチューバは上に、フレンチホルンは後ろに管の終端がくるので注意しようね。またトロンボーンは管の長さを変えて音程を決めるので、プレーヤの邪魔にならないマイキングにしよう。 |
2-6-2 管楽器の収音によく使われるマイク
U-87 |
全ての管楽器の音を忠実に収音してくれるんだけど、物理的に大きいので、オフマイクで使用される事が多い。(このマイクが目の前にぶら下がってたらうっとうしいでしょ?)オンマイクで使用する場合はフレンチホルンやトロンボーンなど比較的丸目の音の管楽器にいい。この場合マイク本体のパッドを入れる。 |
C-451 |
大音量に弱いマイクなので、金管楽器には向かないけどパッドカプセルをはさみ込めば何とかなる。まあそこまでして金管楽器にこのマイクを使う必要性はないわけで、繊細な明るい音を活かしてフルートなどの楽器の息の音を強調したい時にいい。息の音を強調する事によって楽器としての存在感は少なくなるけど、人間が吹いてますという感じが強まるのだ。ただしこの場合このマイクは吹かれに弱いので、マイキングに気を付けよう。元々フルートの音はそんなに高域成分を含んでいないので、ウインドスクリーンを装着するといい。 |
PL-20(RE-20) |
コンデンサーマイクに近い音色ながら大音量にも強いので、金管楽器の収音に向く。オフマイクでもいいけど、オンマイクの方がこのマイクの特性を活かせる。 |
SM-57 |
微妙なニュアンスがよく判るマイクではないので、管楽器だけの音を収音するのには向かないけど、バンドの中での管楽器を収音する場合、その楽器が必要な帯域をしっかりと収音してくれる。 |
SM-58 |
とにかく吹かれに強いのが強み。またこのマイクの高音域の特性の弱さが適度にまろやかさを与える場合もある |
MD-421 |
明るい音のキャラクターを活かしてオンマイクに向く。明るく通りのいい音なんだけど、逆にいうと硬くて嫌みな音にも成りやすいという事なので、最初から硬めの音には向かない。 |
C-414 |
U-87に比べて明るい音のキャラクターを持ったマイクなので、クリアに収音出来る反面鋭すぎる音に成りやすい。出来上がりの音に明確な方針がある場合を除いて、このマイクは使い方が難しいので、馴れないうちは避けた方が無難だろう。 |
MD-441 |
息の音が嫌みになりにくいマイクなので、フルートなど息の音が大きい楽器にいい。また硬めの音を少しやわらげる傾向があるので、硬めの音質のトランペットなどにもいい。 |