マイクの紹介といっても、もちろん全てのマイクを紹介できるわけもなく、代表的なマイクといっても用途や好みによって大きく変わってくる。ここ数年でマイクも世代交代が進んで、中にはあまり見ない物もあるけど、知らないマイクを紹介しても仕方がないので、ここでは私が何回も使ったマイクに限り、私なりの印象を交えてのご紹介。
1-2-1 ダイナミックマイク
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写真1-2-1 SM-58 |
いわゆる「マイク」らしい形をしたマイク。ハンドボーカルマイク用として開発されたもの。マイクを口に近づけて歌う事を前提としているために、近接効果の分だけ低域をカットしてある。また高域ののびを少し犠牲にして、強力なウインドスクリーンを使っている。だもんでハンドマイクで歌う事が少ないレコーディングの世界では、あまり使われる事がない。通称「ごーはち」「ごっぱ」。PAの世界では誰がなんと言おうとボーカル用マイクのスタンダードだ。
シュアーのページのSM-58はこちら。
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写真1-2-2 Beta58A |
SM-58の改良版としてリリースされた物。最近の嗜好に合わせてかなり高域特性が改良されているが、従来のSM-58に合わせて作ってあるモニタースピーカなどと組み合わせると、高域特性の良さがかえって災いして、「ハウリングしやすいマイク」という評価になりがちなのも確か。
シュアーのページのBETA 58Aはこちら。
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写真1-2-3 SM-57 |
SM-58と同時期に発表されたマイク。楽器用のマイクとして楽器を選ばずオールラウンドに使えるが、高域が明るい音がするので、収音した音はどちらかといえば「乾いた」音になる。またボーカルにも使えるが、この場合はウインドスクリーンを付けて使うのが普通だ。通称「ごーなな」。(まんまやな)
シュアーのページのSM-57はこちら。
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写真1-2-4 Beta57 |
SM-57の改良版としてリリースされた物。SM-57よりも更に輪郭のある音が録れ、大音量にも追従してくれるので、同時期にリリースされたBETA 58Aよりは市民権を得ている感じ。
シュアーのページのBETA 57Aはこちら。
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写真1-2-5 565SD |
SM-58やSM-57が発売されるまでは、シュアーのダイナミックマイクのメイン商品だった。70年代初頭のPAといえば、このマイクでドラムであろうがベースアンプであろうが、収音していたものだ。製造元のシュアーでは現在はカラオケ用のマイクという位置づけみたいだ。昔はスイッチのないものや(565D)、4ピンタイプのコネクタのもの(ケーブルの作り方でインピーダンスが選べる)もあった。
シュアーのページの565SDはこちら。
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写真1-2-6 55SH |
その外観から「ガイコツ」という愛称のあるマイク。もともとシュアーが50年代から60年代までの間に作っていたボーカル用のマイクだったんだけど、この外観のファンが多く、ふたたび作り出したというわけ。よって現在の品番は55SHの後にII(ツー)が付いている。
シュアーのページの55SHはこちら。
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写真1-2-7 MD421U |
もう生産はしてなくて、在庫だけ販売しているという状況になっているはずなんだけど、相変わらずどこいってもあるマイクだな。後継機種としてでていたMD-422がこけたので、現在はMD-421-IIというのを出しているようだ。通称「くじら」。
「ドラム用のマイク」というイメージが強いけど、元々はボーカル用として開発されたもの。プラスティックボディーのくせに物理的強度にも優れていて、コストパフォーマンスも高いのでよく使われる。中高域に少しずつピークを持った周波数特性をしていて、それがパーカッションやドラムなどのアタックを上手く強調してくれるため、打楽器に用いられる事が多い。よく使うのは正式には品番のあとに"U"が付くキャノンコネクター使用のものだ。またMD-421の専用ホルダーは非常に抜けやすく割れやすいので、使用にあたってテープで補強するなどしておいた方がいい。(人によっては接着剤で固定している。)それと使用する前にコネクタの近くにあるリング式のハイパススイッチが「M」になっている事を確認する様にね。これが結構動きやすいのだ。(P側になっているとハイパスがかかってしまう。ま、この辺がボーカル用マイクとしての名残だな。)
ゼンハイザーのページのMD-421はこちら。
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写真1-2-8 MD441 |
このマイクの当初の開発ポリシーは、「ダイナミックマイクで、コンデンサーマイク並のフラットで広い周波数特性を」というものだったんだけど、「ドンシャリ」(低域と高域がやけに強調された音のたとえ)が当たり前の今となっては、収音される音はややこもり気味に聞こえる。愛称は「ようかん」。暖かい音を上手く収音したい場合にいい。これも使用の前にMD-421と同じくリング式のハイパススイッチが「M」になっているかを確認しておこう。声がきつめの女性ボーカルなんかにもいいが、ハンドマイクにするには少し重い。あと普通はマイクホルダーに隠れてしまって見えないけど、裏側にハイブーストスイッチがあるのでこれも線が平行になっている方にしておこうね。マイクをマイクホルダーからはずす時は、マイクホルダーに付いているフックを、スライドさせないはずせない。無理矢理引っ張るとマイクホルダーを壊してしまうぞ。
ゼンハイザーのページのMD-441はこちら。
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写真1-2-9 PL-20 |
PL-20とRE-20の違いは指向性で、PL-20がスーパーカーディオイドでRE-20がカーディオイド。音質的には似ているのでここでは一緒にしてしまおう。外見に似合わず「さらっ」とした音が持ち味。下品な奴等(私?)は「馬並」と呼んだりする。でもアメリカでも「Elephant's Dick(象のちんちん)」という奴がいるそうな。マイクの横にあるスリットで指向性を作っているので、ここをふさぐような使い方はしてはいけない。またマイクが重いのでマイクスタンドやホルダーのネジがゆるんでいると、すぐマイクが「反省」してしまうので注意。使う時はマイクホルダーの輪っかの部分の上にあるハイパススイッチがオフ(線が平行になっている方)になっている事を確認してから使おうね。
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写真1-2-10 PL-80 |
これはSM-58と同じくハンドボーカル用のマイクだ。SM-58に比べて「さわやか」な音が特徴。逆にこの特徴のために「腰がない」という評価を受けて、あまりPAの世界で使われなくなってしまったかわいそうなマイク。ま、もうあまり使われることもないだろうな。廉価版とも言えるPL-77も音質的には似ている。どうでも良いけど付属のホルダーはすぐマイクが落ちてしまうので、使わない方がいいぞ。
ハンドボーカル用に開発されたマイク。優しい音がするので女性ボーカルなどに向くことが多い。また比較的小口径のキックなどにも用いられる事もある。いずれにせよ大音量の場所で使用すると振動系がとんでしまうこともあり、注意して使っていても振動系が「へたってくる」のが分かるので、他のダイナミックマイクと比べると少しデリケートだな。
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写真1-2-11 224E |
高域用と低域用に二つのマイクカプセルを持ったマイク。非常に上品な音だが、大音量には向かない。コンデンサマイクのような外観をしているので、思わずファントム電源をかけたくなるが、それをやってしまうとこのマイクは壊れるので注意。
銀色のボディーがかっこいいハンドボーカル用のマイク。このシリーズはD-330の他にD-320とD-310がある。高域にクセがあるために多少使いにくいが、男性ボーカルにぴったりのこともある。個人的には廉価版のD-320方が使いやすいと思う。
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写真1-2-12 D-112 |
ドラムのキック専用に作られたマイク。比較的完成品に近い(がMD421とはまた違った感じの)キックの音が収音できる。
AKGのページのD-112はこちら。
1-2-2 コンデンサマイク
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写真1-2-13 C451 |
コンデンサーマイクにしては比較的安価で、物理的衝撃にも強いのでPAでもよく使われる。少し中高域にピークのある「かりっ」とした音が特徴。このピークがシンバルなどのアタック音を強調してくれるので、ハイハットやパーカッションの小物などの「金物」によく使用される。また重さが軽いので、かなり無理なマイキングをしても安定性がいいという点も使いやすい。通称「しごいち」これも現在は製造されていない。
ちなみに正式にはC-451というマイクは存在しない。普通はC-451EかC-451EB(ハイパススイッチが付いたもの)というボディーにCK-1というマイクカプセルを付けたものをC-451といっているわけだ。CK-1とC-451との間にはパッドやマイクの向きを変えるアダプターなどをはさみ込む事が出来る。吹かれにはかなり弱いので、スポンジ製のウインドスクリーンが付属しているが、必要のない時は使用しない方がこのマイクの持ち味を発揮できる。
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正面 | 背面 |
写真1-2-13 C414 |
U-87と並んでスタジオ用のコンデンサーマイクの定番ともいえるマイクだけど、U-87に比べて少し冷たい音がするのが特徴。どちらかといえばドンシャリの音だ。基本的には指向性で使うマイクなので、向きを間違えない様にね。
414の中にはボディーの色が黒いものもあるので、「1カ所だけ色の違うところが裏」という覚え方をしていると、ブラックボディータイプの時に間違える。(鼻輪女ジョンオズボーンのプロモーションビデオでも思いっきり逆を向いていたぞ(^_^;)そのほか専用ファントム電源でないと動作しない種類もあるので注意。これはスタジオ用にさらにローノイズ使用になっているものだ。このマイクにはいろいろと細かい種類があって、それぞれ音質がかなり違うのだが、私はC414EBしか使ったことがないので、音の評価はC414EBのものと考えて欲しい。
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写真1-2-14 C418 |
クリップタイプのコンデンサマイク。外見はD-112のミニチュアのような形をしている。元々ドラムのリムなどにはさんで使うことを前提としているので、大音量に負けないようにわざと感度を落として設計してある。音質的にどうのこうのよりも、マイクスタンドでは狙いにくい所を狙ったり、見た目すっきりさせるという使い方が主流。よってPA用のマイクと言っていいと思う。ちなみにゼンハイザーにも408というドラム周りによく使うマイクがあるので注意。こちらはND-408だ。ちなみに現在ではMICROMIC SERIES IIとラインナップを変更しているので、このC408に相当する物は、C418になる(写真はC418)
AKGのMICROMIC SERIES IIのページはこちら
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正面 | 背面 | サスペンション |
写真1-2-15 U87 |
どのレコーディングスタジオにも必ず置かれているマイク。スタジオ用コンデンサマイクのスタンダードだ。コンデンサマイクの新製品の評価で、よく「U-87と比べて〜」という言い方をするのはこのため。C-414に比べて暖かく丸い音が特徴。個人的にはオンマイクでの使用が好きだ。通称「ぱーなな」。
現在手には入るのは、キャノンコネクター仕様のもの。(こだわる人に言わせれば、キャノンコネクタ仕様になる前の特殊なコネクタを使っていた頃の方が、音がいいらしいが・・・)直接マイクフォルダーに取り付ける事が出来ないので、写真1-2-15の右側の写真のようにサスペンションホルダーを使う。これは余分な振動などを拾わなくするための物だ。指向性は無指向、カーディオイド、双指向の3つが選べる。このスイッチが付いている方がカーディオイドにした時の指向の方向。その逆側には七輪(きょうび見た事ないかなあ?)の空気孔のようなパッドスイッチと、ハイパススイッチがある。
意外に知られていないが、このマイクは電池でも使う事が出来る。けど特殊(になってしまった)22.5Vの電池を使うので、電池で使う事はまずない。マイクの下側に付いている小窓はバッテリーチェックインディケーター。
このマイクの詳しいスペックはこちら。
外見は全くU-87と一緒。マイクの中にプリアンプ用の真空管が入っているいわゆるチューブマイクだ。当然使うときは専用の電源が必要になる。U-87を更にまろやかにしたような音質で、ピアノなどのアコースティック楽器の収音に威力を発揮する。
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写真1-2-16 U47 |
かなり大型のマイクで、これも真空管を内蔵したチューブマイクだけど、その無骨な外見とは裏腹に乾いた明るい音がする。アコースティックギターやシンバルなどの収音に最適。最近は内部回路にFETを使った「U-47FET」というのもある。(写真はU-47FET)
小型のコンデンサマイク。嫌味のないさらりとした音質なので、音源を選ばないが、どちらかといえば小音量のアコースティック楽器向き。
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写真1-2-17 CMC-5 |
コンデンサーマイク専門(だと思う)のメーカーショップスのCMCシリーズの代表作。比較的癖のないさらっとした音が身上だ。マイクの頭の少し下の部分に指向性の切り替えスイッチがある。
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正面 | 背面 | ふたを開けた ところ |
写真1-2-18 C-38B |
NHKとソニーが共同開発した純国産マイク。そのためか、良くも悪くも「和風」の音がする。漫才用のマイクのイメージが強いかもしれないけど、邦楽器を収音させる時には最高のマイクだ。ナレーションなどの「声」(歌でないもの)の収音は得意中の得意だし、とげとげしい音を上手くまろやかにしてくれるので、ギターアンプの収音などにも良い。通称「さんぱち」。
指向性は背面のケーブルがでている所の上側に、指向性切り替えの穴があり、付属の極細マイナスドライバーで、無指向性からカーディオイドまで連続可変出来る。この穴のある方がカーディオイドにした時の裏側。で、ケーブルの出ている所が、リング状のスイッチになっていて、ここで電源のオンオフと、ハイパスフィルターの切り替えをする。OFFから右に回していくと、赤のM、黒のM、V1、V2とハイパスがきつくなっていく。またOFFから赤のMにした時に、マイクの下側の赤いランプが一瞬点灯してバッテリーのチェックが出来る。
電源はファントムでも電池でもどちらでも動作する。左右の「ぼっち」を下に下げると、ふたが開き、電池交換が出来るほか、この部分に-8dBのパッドスイッチと、ローパスフィルターがある。しかしまあよくもここまで、いろんな所に色々と付けたもんだな。
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正面 | 背面 | ふたを開けた ところ |
写真1-2-19 C-48 |
C-38のニューバージョンという位置づけなんだが、音質はC-38と全く正反対。ドンシャリの音で、どちらかというとC-414に近い音がする。通称「よんぱち」スイッチ類もC-38と違ってふたの中にすっきりとまとめられ、指向性の切り替え、パッドスイッチ、ハイパススイッチ(V側がオン)が入っている。使う時にはマイクの下部にある電源のオンオフスイッチを、入れるのを忘れないようにね。(意外と忘れがち)