【はじめに】 「地学」って?  「地学」で勉強、ないし研究することは、大きく次の3つの分野に分けられます。「地質」「気象」「天文」です。それぞれ、地球の中と表面のこと、地球のまわりの大気のこと、地球の外のこと、です。    科学の4つの分野、「物理」「化学」「生物」「地学」の中で、もしかしたら地学が一番、直接役に立つ実感がないかもしれません。  たとえば物理は機械を作ったり建物を建てたり、化学は新しい材料を作り出したり薬を作ったり、生物はわれわれヒトの健康に役立てたりと、それぞれの成果を活用する場面がはっきりしていますし、そういった仕事をしている企業もたくさんあります。一方、身の回りを見渡して、地学の成果が表れていると感じられるものごとや、地学と直接結びつくような仕事をしている企業はそう多くないでしょう。  しかし、考えてみて下さい。われわれはほとんどすべてのことを、この地球上で行っています。地球はわれわれの活動の舞台であり、前提条件であるわけです。地球のことを知る「地学」の重要さがわかってもらえるでしょうか。  たとえば建物を建てるとき、必要な柱の太さなど強度の計算をするのは物理学の応用です。しかし、どれだけの強度が必要かということは地学の知識が必要になってきます。地震や強風、雨など、想定される自然条件に耐えることが必要ですから。  このところ、文明が宿命的に抱える、解決しなければならない多くの問題が表面化しています。たとえば資源の枯渇、ゴミ、温暖化など、いくつかは耳にしたことがあることと思います。それらの多くは、一部の専門家や企業だけでなく、一人一人の市民が考えて解決してゆかなければならない問題のようです。  われわれが住んでいる地球、長い間住んできた地球、そしてこの先も(少なくとも当分の間は)住むことになる地球について、知っておくことは必ず役に立つはずです。そして地球について知るためには、地球を生み出し、地球をその一部として包み込んでいる宇宙について知ることも必要になってきます。  それらすべてのことは、ぐるりとまわって「われわれは何ものなのか。われわれはどうあるべきなのか」という問いに、そしてその答えを探すことに結びついてくるのです。  現代は科学が十分発達し、わからないことは何もないような気になってしまいがちですが、決してそんなことはないのだということも地学の勉強を通して見えてくるのではないかと思います。  日本の建築物の強度の基準は、長い間「関東大震災の2倍」でした。1923(大正12)年の関東地震、いわゆる関東大震災のときの地震計の記録(*1)から、建物にかかった力を計算し、その2倍の力に耐えるように設計しておけばまあ安心だろうということです。  ところが、ご承知の通り、1995年の兵庫県南部地震、いわゆる阪神大震災ではこの基準に従って建てられた建物がいくつも倒壊しました。大地は人の、「まあ、こんなもんだろう」という想像を大きく越えたゆれ方をしたのです。地球についての、われわれ人間の知識は十分とは言えません。これから調べなければならないことがたくさんあります。  我々は、科学・技術の一部の分野での突出した成果に目を奪われがちです。しかし、自然現象について、本当はまだまだわからないことがたくさんあるのだという認識、慎重な判断をする心がけが必要です。  地学で扱う内容で十分解明されていないことが多いのは、実験や観察が難しいものが多いせいもあるでしょう。寸法的・時間的に大きいものや、たくさんの要因が複雑にかかわっているものが多く、物理や化学とちがって答えが簡単には出せないのです。  1年間の30回程度の授業では、残念ながら深く掘り下げることはできませんが、地球に住む人として是非とも知っておいてもらいたいことをなるべく盛り込んで行くようにと考えています。  (*1)実はこの「地震計の記録」が怪しいモノだったりします。それについては「安心理論・関東地震の2倍」 (http://www.ceres.dti.ne.jp/~usa-kuma/geo/geoside/ktquake.html)をご覧下さい。        【1年間の授業のあらまし】 地質分野 ... 足もとでおきていること  ・火山       ... 新しくつくられる地表  ・火成岩      ... マグマからできる岩石  ・鉱物       ... 岩石をつくる粒  ・地震       ... 日本は有数の地震国  ・プレート・テクトニクス ... 地震と火山、実は兄弟  ・地層・堆積岩   ... 水がつくる岩石・地形  ・化石と時代区分  ... 我々に続く40億年の歴史  ・地殻の変動    ... 地形や地層に残る証拠 気象分野 ... われわれをとりまく大気と水  ・空気中の水    ... 重要な水の性質  ・大気圧      ... どのようにして雲ができるのか  ・高気圧と低気圧  ... 風の吹き方  ・天気の予測    ... 「夕焼けに鎌を研げ」  ・天気図      ... 読めるようになっておこう  ・季節の変化    ... 夏は暑い。冬は寒い。 天文分野 ... 「星の灰」からわれわれは生まれた  宇宙はどうなっているのか  ・宇宙観・地球観  ... 昔の人の考えと現在の考え  ・太陽       ... なぜ光る・なぜ熱い  ・月        ... 一番近い天体  ・太陽系の惑星   ... 地球の仲間たち  ・宇宙の全体像   ... 太陽系の外  天体の運動  ・天球・恒星    ... 宇宙は大きく、われわれは小さい  ・日周運動     ... 地球の自転が引き起こす見かけの運動  ・年周運動     ... 地球の公転が引き起こす見かけの運動  ・季節の変化    ... 夏と冬は何がどう違うのか ヒトと自然 ... 人類の来し方・行く末  ・生物の進化    ... 現在に至る40億年の歴史  ・地球の環境    ... 他の惑星と何が違うのか  ・最初の生命    ... 星の灰から生まれた生命  ・環境と生物    ... 環境が生物をつくり、生物が環境をつくる  ・人類と文明    ... 生物としてのヒトと、文明の主としての人類  ・自然の復元力   ... 「水に流す」ということ  ・文明の未来    ... われわれが生き延びるためには  ・Are We Not Alone? ... ETを探す    【お薦めの本】     (全体を通して) ・「コスモス」  カール・セーガン著 木村繁訳 朝日文庫(朝日新聞社)  ISBN4-02-260269-4 (地質分野) ・地震はどこに起きるのか 地震研究の最前線  島村英紀著 ブルーバックスB995(講談社)  ISBN4-06-132995-2 ・大地の動きを探る  杉村 新著 岩波科学の本(岩波書店)  ISBN4-00-115198-7 (気象分野) ・気象の常識 知っておきたい二痔かな知識  松本誠一著 電気書院  ISBN4-485-57425-3 ・天気予報がおもしろくなる108の話  森田正光著 PHP研究所  ISBN4-569-55607-8 (天文分野) ・星は生きている  野本陽代著 ちくまプリマーブックス9(筑摩書房)  ISBN4-480-04109-5 ・カラー版 ハッブル宇宙望遠鏡が見た宇宙  野本陽代、R.ウィリアムズ著 岩波新書赤499(岩波書店)  ISBN4-00-430499-7 (ヒトと自然) ・タコはいかにしてタコになったか わからないことだらけの生物学  奥井 一満著 KAPPA SCIENCE(光文社)  ISBN4-334-06019-6 ・クマに会ったらどうするか−陸上動物学入門−  玉手 英夫著 岩波新書黄377(岩波書店)  ISBN4-00-420377-5 ・進化を忘れた動物たち  今泉 忠明著 講談社現代新書P680(講談社)  ISBN4-06-148961-5 ・カブトガニの不思議  関口 晃一著 岩波新書赤192(岩波書店)  ISBN4-00-430192-0 ・森が消えれば海も死ぬ 陸と海を結ぶ生態学  松永 勝彦著 ブルーバックスB977(講談社)  ISBN4-06-132977-4 ・森林の生活 樹木と土壌の物質循環  堤 利夫著 中公新書943(中央公論社)  ISBN4-12-100943-6 ・宇宙人はいるだろうか 地球外文明の可能性  水谷 仁著 岩波ジュニア新書116(岩波書店)  ISBN4-00-500116-5