原作漫画 & アニメーション●●
vol.12
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2001.4.9 掲載●●

text by Toshio Mizuno●●
Illustration by Harumi Mizuno●●

●データ●
映画ドラえもん・のび太と翼の勇者たち
キャッチコピー「ドキドキは空にある。」
監督・芝山努 脚本・岸間信明
2001年3月10日 
全国東宝系映画館にて公開

今回は鳥人の国バードピアが舞台。
「バードキャップ」を駆使し、
のび太達が大活躍。

・同時上映
ドラミ&ドラえもんズ
 宇宙(スペース)ランド危機イッパツ!

監督・錦織博 脚本・池田眞美子
宇宙最大の遊園地で起こる事件に
ドラミとドラズが立ち向かう!

がんばれ! ジャイアン!!
監督・渡辺歩 脚本・藤本信行
ジャイアンとジャイ子の兄妹愛物語。
なくなってしまった
ジャイ子の漫画原稿を探すため、
ジャイアンが大奮闘!今回も感動作品に!

情報リンク:東宝・TOHO ENTERTAINMENT
情報元:「のび太と翼の勇者たち」
劇場プログラム・チラシより


 …これがホントのバードマン?

タケコプターじゃない!
空を飛ぶ爽快感。

「のび太と翼の勇者たち」は
「空の映画」になった!

公開から3週間目。だいぶ遅くなりましたが、4月2日に「映画ドラえもん・のび太と翼の勇者たち」を劇場にて観てきました。本当は「大人だけのドラえもん・オールナイト」で観たかったのですが、最近仕事が忙しくて…。でも子供達の反応ってのも、なかなか興味深い部分なので、それも含めて楽しい映画鑑賞になりました。

気になっていた入場プレゼントはねドラくん」もちゃんともらいました。しっかり赤・青・黄色・白で彩色されていて、羽根をパタパタさせるドラえもんキーホルダー。入場プレゼントも進化しましたね〜。まあ単色プラスチックのドラもそれはそれで味がありましたがね〜。

さてさて今回の映画ですが…
まず正直な感想として
面白かったです。いや、藤子・F・不二雄先生がお亡くなりになってからの新生長編映画ドラえもんの作品の中では一番完成度の高いものだったのではないでしょうか?

ご存知のように、現在の映画ドラえもんは藤子プロのスタッフ映画スタッフが話し合いながら製作を進めています。
藤子・F・不二雄先生がお亡くなりになってからの作品は「
南海大冒険」「宇宙漂流記」「太陽王伝説」今回の「翼の勇者たち」となりますが、「南海大冒険」「宇宙漂流記」あたりは、制作スタッフの迷いの部分が作品に現れていて、正直つらい部分がありました(偉そうですが、素人の正直な感想です)。それは藤子・F・不二雄先生の短編原作をベースにする事の限界と、藤子・F作品としての世界観を構築する事の難しさ物語の舞台設定を説明するので精一杯のストーリーなど、多くのマイナス要因が重なっての失敗だったのです。

しかし前作の「太陽王伝説」は、「設定の面白さとキャラクターの感情表現」が生かされたストーリー展開を見せてきて、素直に面白いと思える映画に仕上がっていました。キャラクター同士に友情が芽生えるまでの展開(セリフ等)や、悪役キャラクターの表現(悪役キャラのリアリティー・存在する意味)など、まだまだ苦しい部分もありましたが、生き生きとしたキャラクター表現やドラならではの設定など、いままで迷っていた部分を吹っ切ったかのような、抜けた映画を見せてくれたのでした。

そして今回の「翼の勇者たち」だったワケですが、脚本・演出・美術、全てにおいてスタッフのみなさんの意地のようなものが見えてくる素晴らしい作品でした。

「ドラえもん」の原点とも言える表現に「空を飛ぶ」という行為があります。藤子・F・不二雄先生は昔から漫画の中で「空を飛ぶ」という表現にこだわっていた方ですが、いままでの映画の中ではなかなかうまく表現されていませんでした(注・原作漫画ではとても素晴らしい表現をされているのです。)

近年のアニメーションでは「空を飛ぶ」という表現は洗練された物になっています。宮崎駿監督の作品など、「空を飛ぶ」事のリアリティーを追求した作品が増え、その技術を継承した洋画アニメ・実写映画・TVゲームも登場し、多くの映画が観客に「空を飛ぶ爽快感を与えてくれています。

ドラえもんと言えばタケコプターだったワケですが、今回は「新型バードキャップ」が登場します。「バードキャップ」は藤子・F・不二雄先生の原作短編「バードキャップ(1984年小学1年生)」に登場した道具ですが、今回のは新型!(この辺の名称に-新型-を付けるこだわりもいいですね)鳥頭の帽子を被ると背中から翼が生えて来て自力で空を飛べるのですが、タケコプターとの大きな違いは飛び続けると「疲れる」事。まさに鳥のように自力で羽ばたいて飛ぶのです。
その飛行シーンが良いですね。今までのタケコプターとは違う
スピード感を強調した飛行が丁寧に描かれていて、観る側をグングン引き込んでいきます。

映画」というメディアが「小説や漫画」と違うのは、動きによって感情・感覚を表現できる点です。「空を飛ぶ」という感覚を表現するという事は、ストーリーセリフ舞台設定という他メディア共通の事項よりも、映画にとっては重要なパーツなのです。今回の「翼の勇者たち」は、まずその点をクリアーしている点が素晴らしいのです。「空を飛ぶ爽快感」という単純な、ストレートな感覚で、観客は大きな感動を得られるのです。しかし、この「空を飛ぶ爽快感」を描くのは、映画においてはとても高度な技術が必要になります。最近はディズニーなどでもCGを多様しながら飛ぶシーンを描きますが、今回の「翼の勇者たち」は、CG表現に頼らず、カット割り・アングル・タイミングによる正攻法な表現で、素晴らしい飛翔感を描いています。

そして、次に重要なストーリー舞台設定も、今回なかなか素晴らしい物でした。舞台となるパラレルワールド・鳥人間の世界バードピア」。このファンタジーのような世界にも、ちゃんとドラえもんSF的な設定説明がされていて(物語の後半に、ですが)、納得できる仕掛けになっています(森繁久彌の声にも納得)。その本筋の設定がしっかり出来ている事によって、物語にも無理がなく、キャラクターのバックグラウンドを描く余裕もバッチリでした。

のび太と友達になるメインキャラクター・鳥人間の少年グースケは、過去の悲しい体験により心に傷を負っており、鳥人間でありながら自分の翼では飛べません
悪役の
ジーグリード長官人間を恨んでいるのも、昔人間の猟銃で撃たれたのが原因です。そして、そもそも「人間の環境汚染が、彼らの仲間=鳥を苦しめている」という現実が大きなテーマとなっています。「鳥と人間は共存できるのか?

それぞれのキャラクターが、ちゃんと過去を背負っており、理由のある行動をする。そして起こるいろいろなエピソードを、力強く飛ぶ彼らのシーンで繋げていくテンポのいいストーリー運び

あと、今回の重要なポイントは「セリフ」でしょう。「のび太」と「グースケ」が親友になるまでの過程において、「翼の勇者たち」は前3作品に共通していた「セリフによる友情表現」が排除されています。これはぜひスタッフの方々に聞いて、意図的なのか確認したい事柄なんですが、「友達じゃないか!」等の「クサイセリフ」が出てきませんよね?リアルな友情はセリフで作られるものではなく、行動によって作られるべきです。これは愛情も同じです。「クサイセリフ」と「しゃれたセリフ」は違います。子供向けのアニメーション映画でも、セリフは「直接的説明」ではなく、「自然な会話」であるべきなのです。今回の「翼の勇者たち」では、セリフは慎重に処理され、「のび太」と「グースケ」の友情も、自然な成り行きとして描かれていて、とても安心できました。

その他、背景美術・場面設定も丁寧に作り込まれていて、鳥人間の世界「バードピア」に適度なリアリティーを持たせていて、映画に説得力を与えていました。

また、原作短編漫画とは違う表現で描かれた「バードキャップ」を「新型バードキャップ」と呼んだり、巨大で凶暴なドラゴンをやっつける為にドラえもんが手こずっている際、「スモールライトで小さくしちゃえば?」という観客の疑問にもちょこっと答えてくれたりと、マニア?なドラファンを意識したと思われる細かなフォローも親切でした。

シーンによっては、映画「スターウォーズEpisode:1」の影響などを感じる部分もありましたが、総合的には「ドラえもん的ファンタジー」の世界を、巧く設定に無理なく作っていて、しかもキャラクターの内面を描き込み、「飛ぶ爽快感まで描いた「面白い漫画映画」として完成されていました。僕的にはとても満足でしたし、製作スタッフのみなさんにも感謝の気持ちを言いたいです。「スタッフの皆様!お疲れさまでした。来年も映画ドラえもんをどうぞヨロシク!

同時上映の「がんばれ!ジャイアン!!」「宇宙ランド危機イッパツ!」については、次回のコラムにて!



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