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text by Toshio Mizuno●● ●データ●
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==映画ドラえもんが忘れているもの== ゴールデンウィーク中に、久々にアニメ映画で感動したのです。それはワーナーのアニメ映画「アイアン・ジャイアント」です。この映画、批評家やメディア業界の人々の間ではとても評判の良い作品なんですが、あまり宣伝しなかったのと、絵的に一見レトロに見えるせいなのか、興行的にも認知度的にも今ひとつのようです。僕自身それほど期待せずに見に行ったのですが、思いっきり涙腺をやられてしまい、最後には感動の嵐。とてもシンプルでストレートなストーリーと、子供の頃感じていた大人社会への不信感や不安、友人達とだけ共有できる秘密と友情など、目新しい要素は何一つ無いはずなんですが、最後は大きな感動を呼び起こしてしまう不思議な作品でした。 見終わった後、ふと気づいたのが藤子・Ｆ・不二雄作品との多くの共通点でした。夜の森の中、主人公が突然出会うことになる巨大ロボット。このレトロなデザインのロボットと少年の間には、初め何の意志疎通もありません。空からやってきたらしい正体不明のロボットとの出会いは、藤子・Ｆ先生の「鉄人をひろったよ」や、ドラえもん長編シリーズ等で度々見られる未知の存在との遭遇です。この未知の存在と純粋に友情を深めていく過程が、いくつもの練られたエピソードで丁寧に描かれていく様は、初期の大長編ドラえもんシリーズを見ているようで嬉しくなります。主人公の少年が止めるのを聞かず、家まで後をついてきてしまうロボット。少年を真似て湖に無邪気に飛び込むロボットの姿は、「のび太の恐竜」で見られたピー助とのエピソードを連想するし、友情で結ばれた二人が、いつの間にか事件や敵から互いに「友人」を守ろうとする深い関係に発展していくという展開は、少年漫画・映画の王道のストーリーですね。「のび太の恐竜」以後に作られた「E.T.」とも酷似する点は多いのですが、やはり感動させられてしまうのは、憎いくらい巧い演出と丁寧で高度な作画技術のせいなのでしょうか。映画のラストでは、あの「海底鬼岩城」でバギーくんが見せてくれたような感動のシーンと共にストーリーが畳みかけられ、映画としての終演を迎えます。アメリカ生まれの映画ながら、ディズニーとは違う。どちらかというと日本人が今まで作って来たアニメーション・漫画の系譜に近い「なつかしさ」を感じる作品。「これが見たかったんだよ！」と多くの日本の観客が思うに違いない作品なのです。 藤子・Ｆ・不二雄先生作の初期の大長編ドラえもんは、漫画映画的な王道的ストーリーで僕達を楽しませてくれました。そこには藤子・Ｆ先生の師である手塚治虫先生の影響も色濃く、ハラハラ・ドキドキの冒険活劇の要素をドラえもん世界に巧みに組み込み、日常生活に突然割り込んでくる非日常的冒険をリアルに感じさせてくれたのでした。しかし、それを実現するにはストーリー上に説得力を持たせる為の丁寧で巧みな伏線が必要なのです。藤子・Ｆ先生の作品は、ストーリー上に多くの伏線を仕掛けます。それは時にはSF的解説であったり、時にはキャラクター達のリアルで微妙な心境の変化だったり、時には読者がキャラクターに対して行う感情移入だったりします。これらをストーリー上に巧く配合していけるのは、もちろん多くの経験・観察力と才能の賜で、誰もが真似を出来る芸当ではありません。この高いレベルでストーリーが巧妙に組まれた瞬間、その作品には一種の魔法とも言える何かがかかるのだと思うのです。宮崎駿アニメ然り、多くの名作と呼ばれる漫画・映画は、職人的な高度な技術の上に成り立っているのは言うまでもありません。 藤子・Ｆ・不二雄先生の手を離れてからのドラえもん大長編は、その巧妙さが見られません。キャラクター一人一人の心情の描き方や、ストーリーに説得力を持たす為の伏線の緻密さ、読者・観客とキャラクター達との距離感がどうしても甘くなり、「のれない」作品になってしまっています。 藤子・Ｆ・不二雄先生は大長編ドラの中で、短編ドラでは見えてこなかったそれぞれのキャラクターの別の顔を描いてきました。実は友達思いで情に厚い男だったジャイアン、自分の考えを通す為に危険に飛び込んでいく勇気のある少年だったのび太など、短編では見せなかった顔を描く事で、それぞれのキャラクターに人間的奥行きを持たせ、それ自体が観客をストーリーに引き込む仕掛けになっていました。その描写が最近の映画ドラで甘くなってしまったのです。原作者不在で、既存のキャラクターに別の顔を持たせるのは難しい事かもしれません。しかし、ストーリー的にもキャラクター的にもマンネリ化してしまい、演出の巧妙ささえも危うくなっている現在の「映画・ドラえもん」を観ていると、一度すべてをゼロに戻し、1本の映画として成立する新しい展開を考えるのはどう？と思ってしまうのです。もちろん今までのドラ映画の歴史と、企業としての製作・関連会社の事を考えたら、そう簡単に「映画・ドラえもん」を変えられないのはわかります。でも、もう一度「のび太の恐竜」で味わったような、新鮮な感動をドラ映画で味わいたい！ |
