原作漫画 & アニメーション●●
vol.6
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1999.9.6掲載●●

text by Toshio Mizuno●●
Illustration by Harumi Mizuno●●

●データ●
BSマンガ夜話」(NHK BS第2-BS11)
ドラえもん/藤子・F・不二雄
1999年9月1日(水曜日)
よる10:00〜11:00放送

毎回一つのマンガ作品を取り上げ、その作品の魅力や長所短所などを語ったり、作品を掘り下げ分析していく「BS/マンガ夜話」に、「ドラえもん」が登場!
いしかわじゅん岡田 斗司夫夏目 房之介大月 隆寛などのレギュラー解説陣に、ゲスト解説者、鴻上 尚史鈴木 蘭々千原兄弟を加えた面々で番組は生放送で放映されました。

番組リンク:
NHK「BS マンガ夜話」ホームページ


鴻上さんにももっと原作について発言して欲しかったですね。鈴木蘭々さんの方がファンの率直な気持を頑張って発言していて好感が持てました。千原兄弟の「SFというより人間を描いていたと思うんですが」という発言も、レギュラー陣との世代の違いが出ていましたね。

NHK-BSマンガ夜話で
語られなかった
ドラ大長編の重要性

BSマンガ夜話」という番組は、1つのマンガ作品を選び、1時間かけてみんなで話し合うという番組なんですが、個人的には、いつも出演陣がちょっと変わった切り口でそれぞれの作品を分析し、新しい見方を提示してくれたりする点が面白く、好きな番組だったのです。その番組に、ついに「ドラえもん」登場!だった訳ですから、期待に胸膨らませて見た訳だったのです。

そして番組は終わりました…。
期待ハズレでしたね〜

番組の頭で、「今日は短編コミックス45冊を中心に語って行きたいと思います。」というナレーション。やっぱり大長編ドラをレギュラー陣のみなさんが数冊しか読んでいない!?夏目さんは結局短編コミックス19巻までしか読んでないし…。
あと、出演者が、藤子・F・不二雄(藤本)先生と藤子不二雄A(安孫子)先生の仕事分担について把握していないのが大問題。
藤子不二雄両氏がごっちゃになってました。

ただ、夏目 房之介さんが語っていた、作品ドラえもんの持っている児童向け漫画としての構造として「快・不快原則」(子供がおもしろさの基準とする-気持良さ-空を飛ぶ・思い通りになる、など)や「幼児退行願望」(デンデンハウスは気楽だな-てんコミ9巻を例に)を説明する部分など、ハッとさせられる部分もあり、客観的な見方が聞けてなかなか面白かったです。

しかし、さすが19巻までしか読んでなかった夏目さん。解説の中に大きな問題点がありました。てんコミ6巻の「さようならドラえもん」で、シリーズが一旦終わったのはおっしゃる通りなんですが、「大長編では、のび太はちゃんと成長しているんですよ。だからストレスが無い。短編も6巻まではすごくいいんですよ。でもここで一旦シリーズが終わり、またドラえもんが帰ってきて続いちゃう。それからだんだん(のび太が成長しないのが)イライラしちゃって、今回(19巻以降)読めなかったんですが…」ってお話。

そう、夏目さんは、ドラえもんのその後の大長編シリーズと短編の関係を把握していないのです。だからのび太が短編で成長していないなどと…。

ドラえもんという作品は、児童向けギャグマンガとしてスタートしましたが、大長編ドラえもん(劇場映画用原作)がスタートした1979年あたりから、大きく内容が変わっていったのです。以後毎年続く大長編ドラでは、スケールの大きな冒険活劇の舞台を用意し、それまでの短編では描きにくかった、キャラ達の内面や、友情・恋愛など、主要キャラ達の関係を掘り下げています。そして、その掘り下げた関係を短編の連載に反映させ、よりキャラクターに親しみを持たせる事に成功していると思うのです。それは成長したのび太の勇気や情熱であり、ジャイアンの優しさと思いやりしずかののび太への信頼と愛情という、短編だけでは表現出来なかった、キャラクターへの説得力となっているのです。長編以降のドラ短編では、道具の面白さよりも人間関係の物語を描こうとする話が多くなり、それがまた、この作品世界に深みを持たせる大きな要素になっています。1979年からの大長編と短編は、互いに影響しあい、ドラえもんという作品を大きく成長させていったのです。
ですから、短編コミックス45巻だけで「ドラえもん」を語ろうとした今回の番組は、この作品の大きな魅力でもある「
藤子作品の持つヒューマニズム」についての部分が大きく抜けた、(SFだけが語られた)中途半端な内容になってしまったのです。

やっぱり出演者の世代に偏りがあるので、リアルタイムに読んでいた漫画とそうでない漫画とでは、力の入れように差が出てしまうのでしょうね。
ドラえもんの大ファンの作家・
瀬名秀明さんや、漫画家・安野モモコさんあたりが出演していればもうちょっと違う展開になったのかも…

しかし残念でした。



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