「さようならドラえもん」と
「のび太の結婚前夜」の意味
いつまでもだらしがないのび太と、それを甘やかすドラえもんが大嫌い。そう言って「漫画ドラえもん」を嫌う人が結構います。
しかし、連載中期以降の「ドラえもん」では、実はのび太の成長が描かれる場面が多く見られます。
また、映画と共に描かれた「大長編シリーズ」では、回を重ねるごとに、のび太がたくましく、勇敢になっていくのが解ります。ドラえもんは決してワンパターンのいじめられっ子「のび太」のお話では無かったのです。
その課程で大きな意味を持ったのが、1974年小学三年生3月号に掲載された「さようならドラえもん」(てんコミ第6巻)です。
未来へ帰らなくてはいけなくなったドラえもんとのび太の別れを描いた作品ですが、この中でのび太は、ドラえもんが安心して帰れる様にと、ジャイアンとの1対1のケンカ対決をして、ジャイアンを観念させます。いままでいじめられる一方だったのび太が、ドラえもんの手を借りず、独りで戦うまでに成長した瞬間だったのです。
結局、同じ1974年の小学四年生4月号「帰ってきたドラえもん」(てんコミ7巻)で、ドラえもんは未来から帰ってくる訳ですが、それは子守役としてではなく、のび太の親友として帰ってきたのです。少し成長したのび太と親友としてのドラえもん。多くのドラファンは、これ以後の二人の関係を見守る事になるのです。
そしてのび太が成長し、しずかと結婚することを決定づけたのが、1981年小学六年生8月号掲載の「のび太の結婚前夜」(てんコミ第25巻)です。これ以前にも、未来ののび太としずかの夫婦を描いたお話はありましたが、「結婚前夜」がひと味違うのは、のび太の成長を描いている部分にあります。
のび太とドラえもんは、しずかと出木杉の仲の良さを不安に思い、未来ののび太の結婚前夜を見に行きます。
そこではちゃんと、のび太としずかの結婚前夜が描かれ、ジャイアン・スネ夫・出木杉達に祝福されるのび太がいます。しずかをめぐるライバルだったはずの彼らに心から祝福されているという事、それはのび太が成長し、しずかの人生を任せられると彼らが認めた証拠です。また、親子三人で静かに結婚前夜のお別れパーティーをした源家(しずかの実家)では、この期に及んで結婚を迷うしずかに対し、彼女のパパがこう励まします。
「のび太くんを選んだ君の判断は正しかったと思うよ。あの青年は人の幸せを願い、人の不幸を悲しむことのできる人だ。それがいちばん人間にとってだいじな事なんだからね。彼なら、まちがいなく君を幸せにしてくれると僕は信じているよ。」
この彼女のパパのセリフは、これから自分の娘を預ける父親として、婿になる男に対する評価としては最高の賛辞でしょう。この時、のび太青年は、自分の花嫁の父親にこんなセリフを言わせるぐらい、立派に成長していたのです。
しかも、ここには既にドラえもんはいません。のび太はこれ以前に、ドラえもんとの正式な別れを迎えていたことになります。
大人として立派に成長し、ドラえもんと別れ独立していくのび太。
ドラえもんという作品は、このゴールに向かってのび太が成長していくまでを記録する作品だったのです。
|