MONKIの広告外論(第11講)

「メンズTBC」

猿山義広(元2年D組らしい、3年生のときに転校、現駒沢大学助教授)

 大学の教員をしている関係で日常的に若者と接触がある。自分が学生だった頃と比べて変わったと思う部分もあれば、そう変わってないと思う部分もある。変わったと思えるところの代表的なものは、女子学生の態度と頭が悪くなったこと。とにかくうるさいし、集中力がない。
 先日も授業中、管理会計の問題をやらせていて、3,000円の10%を計算させる過程があったのだが、ある女子学生が3,000円×10%=30,000円とやっていたのには驚きと怒りを通り越した。思わず「お前何やってんだ!」と怒鳴ったところ逆ギレされ、「これでも一生懸命やってんだから、そんなふうに言わなくたっていいじゃない!」と言い返されてしまった。そうなると売り言葉に買い言葉状態へまっしぐらとなり、こちらも「義務教育からやり直せ!」と言わざるをえず、今度は当事者の女子学生の周辺に座っている仲間の女子学生から「先生ひど〜い!」と罵られる始末。当然のことながら、教室の雰囲気は物凄く悪くなった。正直、いまでもムカついている。

 ケダモノのような女子学生と比較すると、男子学生の態度と容姿は明らかに向上した。駒大というと、中畑清(駒大におけるステータスは私よりはるかに上なのだが、ここでは敬称略)のような学生ばっかだと思われるだろうが、そうではない。本当に綺麗な顔立ちをした学生が多いのである。しかも態度がよろしい。私のようないいかげんな教員の授業でも真面目にノートをとっている。この実態を知らない世間は、新聞などで「女子学生が空前の就職難」と報道されたりすると、つい女子学生に同情的になってしまうようだが、教える側からいうと「身から出たサビ」にすぎない。
 こうした変化の結果、必然的にキャンパスでは次のようなカップルが増加した。それは見た目も感じもいい男子学生と、たいして綺麗でもないのに態度が横柄な女子学生のカップルである。ただし、一昔前なら見た目のいい男子は少数派であったから、それなりに自分に自信をもって女子に接していたはずなのに、最近はありふれた存在になってしまい、あまり堂々としていない。このことが男女の力関係をより偏ったものにしている。その程度の子ならいくらでもいるじゃないかと思えるような女子学生の御機嫌を、竹之内豊と金城武を足して2で割ったような男子学生が一生懸命にとっているのである。正直、痛ましくって見ていられない。

 多分、男は見た目ではなく中身だという命題は、現代にこそ当てはまるのだろう。これには2つの理由がある。1つは見た目のよろしい男が増加した結果、見た目のよさの商品価値が相対的に下落してしまったということ。もう1つはメンズTBCのような男性向けのエステサロンが増加したことにより、見た目のよさは比較的簡単に手に入れられるようになってしまったことである。もちろん、現代における男の中身とは、尽きるところお財布の中身や通帳の中身であり、こうした中身は女性にとってとくに重要な要素であるにもかかわらず不景気の昨今なかなか増大しないことも、男は見た目ではなく中身と言われる大きな理由と思われるが。
 年末からオンエアされているメンズTBCのテレビCMは、結構考えさせられる。知らない人のために概略を述べておくと、エステに行ってきた彼女の寝顔に口紅で落書きをするキムタクに対して、もう1人のキムタクが「あんたは彼女が羨ましいんだよ」「彼女と同じことがしたいんだ」と告げ、意を決したキムタクがメンズTBCに入っていくというもの。このCMには15秒バージョンと30秒バージョンがあって、面白いのは後者。受付の女性に深々とお辞儀をするシーンがラストに入っていて、いかにも初めて来ましたって感じが可笑しい。

 とにかく、相手のためではなく、彼女に張り合ってエステに行くという発想が現代を象徴している。自分を捨てた男を見返すためにエステに行くという視点は、すでに坂井真紀のCM「絶対綺麗になってやる」によって提示されていたが、男性がエステに行く動機もそれと似たようなものと考えているところが、TBCのすごいところだろう。ただし、駒大の学生の場合、エステに行くより授業に出ることのほうがより重要であるように思われるが。
 メンズTBCの次回のCMは、できればキムタクに連れていかれる中年男性を登場させてほしい。エステに行くべきは中年男性ではないか。大学に生息している中年男性を見ていると、自分のことは棚上げして、つくづくそう思う。

12回目へ続く・・


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