MONKIの広告外論(第10講)

「ウーチャカ」

猿山義広(元2年D組らしい、3年生のときに転校、現駒沢大学助教授)

 爆笑問題の田中(背の低い方)は学生時代、「これからはオレのことをウーチャカと呼んでくれ」といったらしい。何で「ウーチャカ」なのか不明だが、とてもいいセンスだと思う。
 トヨタのスパシオのテレビCMでナレーターとしての才能(あのねのねの原田伸郎級だろう)を発揮した爆笑問題。年末はエプソンのデジカメ用プリンター「プリントン」でその特異な可笑しさを披露していた。このCM、お姫様の藤崎奈々子の写真を見た太田(痩せている方)が「53には見えねえな」とボケて、田中が「そんなわけねえだろ」とツッコムのがオチになっているのだが、これを繰り返し見ていると、田中のツッコミがじつに洗練された芸であることがわかる。

 ダウンタウンの浜田に代表されるように、ふつう漫才におけるツッコミ芸は反射神経の勝負といっていい。つまり、どれだけ素早くツッコムかが重要視される。ところが、爆笑問題の田中のツッコミは決して鋭いものではない。どちらかというと、やる気なさそ〜なツッコミであり、「またかよ、それがお約束だから仕方ないけど、とりあえずツッコムよ」的雰囲気を濃厚に感じさせてくれる。無論、田中が本心そう思っているわけでなく、そう感じさせるのが芸なのである。
 こうしたやる気なさそ〜なキャラクターは、不況の昨今、かなり重宝されているように思われる。例えば、「踊る大捜査線」の湾岸署署長こと北村総一朗。消極的事なかれ主義(積極的事なかれ主義はやる気がなければ貫徹できない)というとんでもないキャラクターであるにもかかわらず、このドラマを語るうえで重要な要素になりつつある。また、よく知られているキャラクターとしては、高島屋のポスターに使われてたレイモンド・ブリッグズの「さむがりやのサンタクロース」。絵本を読んだことがある人ならご存じのように、このサンタクロースもやる気がない。スノーマンではなく、このやる気ゼロのサンタクロースが選ばれたところが、時代を反映していた。

 では、やる気のないキャラクターの相方はどのようなキャラクターでなければならないか。この難問に対する1つの解答を示したのも爆笑問題であった。
 年明けからオンエアされているジャックスカードのCFは、「最近何か感動したことがあるか」と呟く太田(どうやら上司らしい)に、田中と若者(名前を忘れた)が「さあ」と答えると、いきなりシーンが変わり太田が走るというもの。何でこれがクレジットカードの広告になるのかまったく理解できないが、非常に印象的だった。やる気のない相方に対して、とりあえず突っ走ってみせるしかないというのは、全盛期のコント55号(突っ走ったのは萩本欽一)によって確立された手法であり、これまでのジャックスカードの広告といえば、山下達郎の音楽と東幹久の優しさでイメージを構築していたはずなのに、これはかなり思い切った方向転換であろう。
 この方向転換が吉とでるか凶とできるかは現時点では何ともいえないが、これを決断したジャックス上層部の心情は理解できなくもない。なぜなら、デジタルでデリバティブな不況の世紀末において具体的な組織としての方針が見つからないなら、とりあえず突っ走ってみるよりほかないからである。まさに「気分は青島刑事」である。

 そういえば、映画「踊る大捜査線」自体も、やる気のない映画界に対してテレビが突っ走った結果と見ることができる。あまりにもテレビ的だという批判もあるようだが、あれだけの興行成績を上げられたのは見事。猟奇犯である小泉今日子があっという間に逮捕されてしまい、大物なのに軽い扱いだなあと思っていたが、後半を見て納得させられた。小泉今日子がプロファイリングのいいかげんさを指摘するところは、神戸の連続児童殺傷事件を痛ましくも思い起こさせる。
 ただし、正月番組を見るかぎり、テレビもそれほどやる気はなさそうだ。もちろんテレビに登場する人々は、駅伝ランナーも含めて、みんなやる気に充ちているが、テレビ局の上層部にどれだけやる気があるのかは疑問である。「事件は会議室で起きているんじゃない、現場で起きているんだ」という青島刑事の台詞は、制作の現場にいる人々のテレビ局上層部に向けてのメッセージではないだろうか。

11回目へ続く・・


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