MONKIの広告外論(第9講)

「世紀末の詩」

猿山義広(元2年D組らしい、3年生のときに転校、現駒沢大学助教授)

 最近、おやっと思ったテレビCMに、パルコのグランドチャンスキャンペーンのスポットがある。昔なつかしい「奥様は魔女」のオープニングタイトルのアニメを模して、サマンサと思しきサンタクロース姿の金髪女性(オヤジ的な表現だが)がこちらを向いて鼻をピクピクさせるというもの。おとぎ話がそのままテレビドラマとして成立していた良き時代を思い出させてくれる。けど、現代の若者にこの感覚が伝わるかどうかは疑問。

 おとぎ話がそのままテレビドラマとして成立しにくくなった時代ではあるが、おとぎ話的な香りを残したテレビドラマなら、まだ見つけることができる。その代表例がNTVの「世紀末の詩」。あまり期待していなかった分、けっこう面白いな〜と思って毎週見ている。
 何が面白いかというと、主演の竹野内豊(野亜=ノア)と山崎努(百瀬=モーゼ)にまるで生活感がなく、見た目は大人であっても大人としては描かれていない点。焼栗を売って暮らしているらしいが、これで食えるとは思えない。2人は日夜、真実の愛について考えている。これだけでもう立派なおとぎ話であろう。そして、キャストが豪華。とくに若手女優陣。松本恵(山崎努の娘役)、吉川ひなの、木村佳乃、坂井真紀がレギュラーなのだが、この4人で何本のCMが作られているのか、おそらく相当な数になるだろう(しかも初回は広末涼子がゲストで、広末とひなのの共演は今後まず実現しないように思われる)。

 4人の中では吉川ひなのの使われ方が、何というか、けっこうぞんざいで、ようするにチョイ役に近いのだが、それがかえって効果的な点は脚本(野島伸司)の素晴らしさによる(しかし、よくOKしたよな)。木村佳乃は可もなく不可もないといったところ。それでも過去の彼女のドラマよりは全然いい。坂井真紀ははまり役。あまりにはまりすぎていて、今後どうするのか心配になってしまうほど。ゲストの人選は玄人好みで、中でも谷啓の回と三上博史の回が印象に残る。2人とも切ない役所を完璧に演じていた(三上博史が坂井真紀に話しかける長回しのシーンは圧巻だった)。
 主演の竹野内豊については下手な役者と思ってきたが、うまい役者と共演することでとてもいい俳優になったような気がする。最近、多少余裕が出てきたのか、カッコワルイ野亜からいきなりカッコイイ竹野内豊に表情を変化させてみるなど、細かい芸も披露してくれる。初回はどうなることやらとハラハラしたが。
 ちょっとだけ気になるのは、山崎努演じる百瀬が何かというと「真実の愛とはうんぬん」と説くところ。他人につべこべいう前に、例えば娘の自分に対する愛をもう少し理解したらどうなんだと思ってしまう。これはおそらく野島ドラマが抱える欠落部分なのだろうが、愛する立場は十分描けていても、愛される側の対応についての描き方が弱い。もっとも、愛される側の対応というのはドラマにはなりにくいだろうが。

 現在、民放テレビ局はデジタル化・多チャンネル化を目前にして、さまざまな形での生き残り策を検討しているところだが、「世紀末の詩」のような良質なテレビドラマを見てしまうと、テレビがメディアのチャンピオンであることは今後も変わらないように思う。将来どのようにインターネットが発達しようとも、あれだけの手間と時間とマンパワーとお金をかけてもペイするメディアは、テレビ以外にはありえない。
 蛇足として一言付け加えておくと、このドラマ、どことなく去年フジテレビで放送されていた「ギフト」というドラマに似ている。1話完結でありながら全体としてのストーリーがあったり、主人公の男性が過去を棚上げしている設定であったり、キャストがとりあえず豪華で、主役級を何人も注ぎ込んでいたり、俳優が1人もかぶってない点も意識的にそうしているみたいで逆に何かひっかかる。本当のことは分からないが、野島伸司が「ギフト」に触発されて、あるいは対抗して書いたドラマだと思ってみると、なかなか興味深いものがある。

 最後に月並なことをいうと、やっぱりジョン・レノンはいい。本っ当〜にいい。泣 ける。たしか12月8日が命日だったと思う。

10回目へ続く・・


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