MONKIの広告外論(第5講)

「仮託された世界観」

猿山義広(元2年D組らしい、3年生のときに転校、現駒沢大学助教授)

(ムダ話その1)  日本証券経済研究所のM氏は変わった人である。先日、仕事の打ち合わせで出向いて、世間話になったとき、猿山「いま、どんな本を読んだらいいんでしょうか(もちろん経済書・専門書として)」と聞くと、M氏「ゲーテの『ファウスト』、ダンテの『神曲』、シェークスピアの『ロミオとジュリエット』」とのこと。ホントかよ。

 いわゆる古典がその神通力を失った現在、何がしかの世界観に立脚している活字は雑誌以外にはありえない。
 雑誌を買うという行為は、その雑誌が記事やグラビアで提供している情報を買うことではなく、その雑誌を雑誌として存立せしめている世界観を、どこかの誰かとお金を払って共有し合うことなのである。こんな単純な事実に気づいたのは、ゼミで学生が『NAVI』と『ベストカー』と『カー・アンド・ドライバー」の3誌について比較研究をやってくれたおかげである。
 3誌はいずれも総合自動車雑誌であり、発行部数はコンビニでの取扱状況からいって、『ベストカー』と『カー・アンド・ドライバー』が40万部前後、『NAVI』がその半分強と推察されるが、私にとって断然面白かったのは『NAVI』である。
 ただし、車のスペックに関する情報に関して、3誌の間にはほとんど差はない。考えてみれば、スペック情報というのは客観的なものであり、差があったらかえっておかしい。では、ライターについてはどうか。学生の報告によれば、『カー・アンド・ドライバー』以外の2誌には何人か共通するライターが存在する。また、『カー・アンド・ドライバー』と『NAVI』では、特集としてとりあげる車に共通性が見られたという。じゃあ、なんで『NAVI』だけが断然面白いと感じるのか。(NAVIのホームページ)

(ムダ話その2)  仕事柄、新聞は「朝日新聞」「日本経済新聞」「日経金融新聞」「日経流通新聞」を読んでいる。この4紙のうち唯一、読んで元気になれるのは「日経流通新聞」。1個ウン百円の商品でも、たくさん売れば儲かるのだという商人たちの気概が感じられるからである。デパートやスーパーの特集記事は非常に暗かったけど。

 『NAVI』が明らかに他の2誌と異なっているのは、車というシステム(車それ自体のシステム&車を取り囲む社会的システム)に仮託して世界的状況を批判的に語ろうとする一貫した姿勢が『NAVI』には存在する点である。そして、私の場合、その一貫した姿勢に強く共感する。
 おそらく『NAVI』の根底にあるものは、世界はもっと成熟すべきであるという思想であろう。成熟を阻んでいるのは、具体的には魅力のない車をスローガンだけで売りつけようとする自動車メーカーであり、必要以上に縦横無尽な交通監視システムを導入しようする官僚機構であり、そうした成熟ではなく腐敗につながる制度に対して『NAVI』は批判の刃を向ける。これほど贅沢な反権力メディアは類がない。

 『NAVI』には多くのファッション系の広告が掲載されていることを、誤解してはならないのだ。『NAVI』にとって服飾は、車とともに世界を(とくに日本を)少しずつでも成熟させるための重要な切り口なのである。編集長である鈴木正文氏が自らモデルとなることも多く、これが滅茶苦茶格好いいのである。
 それにしても『NAVI』の広告は凄い。最新号の表2見開きはカルバン・クラインだし、センター見開きはポジとネガを使ったフェラガモ。もちろん、ユナイテッドアローズの連載はあるし、スカパラをモデルにしたKarl Helmutもたまらなくいい。田中康夫氏と浅田彰氏の対談を毎月読めるのも『NAVI』だけだ。

(ムダ話その3)  1人で仕事をしていると、多重人格化していく。私の場合、本家猿山という人間がとりあえずいつもいて、仕事の進み具合や出来に応じて部下猿山または上司猿山が出現したり、批評家猿山とかヨイショ(誉めてくれる)猿山が勝手なことをいってくれる。最近の部下猿山は仕事のペースが遅いが、リストラできないので困っている。

 6回目へ続く・・


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