MONKIの広告外論(第4講)

「デフレGAP」

猿山義広(元2年D組らしい、3年生のときに転校、現駒沢大学助教授)

 広告出稿が全体的に減少傾向にあっても、GAPのスポット本数は順調に伸びている。最近はトランペットのソロ演奏(ハーブ・アルバート!)を使ったフィットジーンズのCMをよく目にするが、ラップ編(ランDMC)、ギター編(ケニー・ウェイン・シェパード)も印象的だった。

 2年半前、東京に戻ってきて、「やっぱ東京だなあ」と思ったことの1つが新宿伊勢丹のGAPだった。そのときは子供服を見に行ったのだが、ベネトンほどの大胆さはないものの、「鮮やかな淡さ」とでもいうべきその色使いには感心させられた。
 その後、GAPは短期間のうちに急速な成長を遂げ、東急トライアングル(渋谷、二子玉川、自由が丘)を制圧する。青い手提袋が30代のお母さま族の必須アイテムとなり、トラックに描かれたロゴマークとともに屋外広告として機能するようになる。そして、このあたりから私はGAPの商品に妙な違和感を覚えるようになった。
 多くの人々は不況だからGAPが流行ると考えているようだが、私のGAPに対する違和感とは、GAPの場合、商品が売れれば売れるほど不況が進行するという気分になってしまうところにある(私見を述べれば、GAPはそれほど割安ではないと思う)。それは、通常はモノがたくさん売れれば好況になるはずだが、GAPの商品には他の消費に波及する要素がまるで見い出せないからである。

 最近、「デフレ・スパイラル」という言葉をよく聞くと思うが、デフレに限らず、経済活動は本来スパイラル状のものである。消費生活を考えてみても、こういう店に食事に行くならこういう服を着たい、こういう服を着るのならこういう靴が欲しい、こういう格好をするのならこういう髪型にしたいとか、もう少しスケールの大きい話として、こういう家に住むのならこういう車やこういう家具が欲しいとか、あるいはその逆だとか、とにかく消費というものは限りなく連動していくものである。
 ところが、GAPの商品はまったく連動していかないのである。これって凄いことだと思う。GAPの服を着ていると「もう、これでいいや」という満足と妥協と諦めが混じった不思議な気持に陥ってしまい、そこで消費スパイラルが途絶えてしまうのだ。GAPが売れるからデフレが続くというのは、そういうことなのである(さらに私見を述べれば、デフレ・スパイラルとは消費スパイラルの停止にほかならない)。

 これと対照的なのがユナイテッド・アローズである。私は最近よく二子玉川のユナイテッド・アローズに行くのだが、ここは健全な消費スパイラルに溢れている。スーツを買うとシャツやネクタイが欲しくなり、ついでにバッグも靴も欲しくなり、何から何まで欲しくなってくる(病気だね)。渡辺由紀(日立のCMに樹木希林と一緒に出ている女優)にちょっと似た店員さんも感じのいい人で、こちらが希望をいえば、いろいろと選んでくれる(正直にいうと、ついでにこの人まで欲しくなってくる)。値段も手頃で、疲れたお父さん族にお勧めのお店である。
 広告戦略もGAPとは大きく異なっている。GAPの場合、イメージ重視の広告表現といってかまわないと思うが、ユナイテッド・アローズはもっと啓蒙的である。興味がある人は『NAVI』という月刊の自動車雑誌を見てもらいたい。ペイド・パブリシティーの形態で出稿されているユナイテッド・アローズの広告は、驚くほど饒舌で、他の記事より読みごたえがあることさえある。なお、『NAVI』という雑誌についても語りたいことは山ほどあるのだが、今回は省略する。

 とにかく、同じように流行っていながら、GAPとユナイテッド・アローズの景気に対する影響は著しく異なるように思う。GAPに何も恨みはないのだが、少なくともGAPが売れているうちは不況から脱せないように思える。不況から脱するには、ユナイテッド・アローズのような健全な消費スパイラルをもつ店がもっと賑わうようになる必要があり、一昔前ならその役割を担っていたはずの百貨店業界が無惨な状態にある今日、これは長銀問題以上に日本経済にとって重要な問題ではなかろうか。
 なお、GAPの名誉のために付け加えておくと、アメリカにおいてGAPは超優良企業の1つであり、『Business Week』誌による今年の企業業績ランキングでも17位に入っていた。あのメリルリンチでさえ19位なのだから、これは凄いことである。ちなみに1位はマイクロソフト社で、Mac派の私としては苦々しい限りである。

 5回目へ続く・・


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