ZODIAK

        

私は魚眼レンズというものはスクエアフォーマットで使用してこそ価値のあるものだと思っている。そうなると必然的に中判以上のものが対象となるわけで、たまたま出会ったレンズがゾディアークであった。
まず惹かれたのが外観である。その大きな第一面を構成する球面は被写体を圧倒する迫力があり一目惚れしてしまったのだ。ゾディアークはいわゆる対角魚眼と呼ばれるレンズであり、6×6センチのスクエアフォーマットで対角180度、水平112度になる。このレンズはウクライナにあるアーセナル製で同社製中判一眼レフのキエフ88やキエフ60用に供給されたものである。
キエフ88の前身であるサリュートがハッセルブラッド1000Fを模倣して出来たところから、よくツアイスのディスタゴンCF30ミリと比較されることが多い。いや、へたをするとデッドコピーなどという汚名を着させられていることがあり実に気の毒だ。
そこで、このレンズを紹介するにあたり、まず始めに汚名を返上することにする。そもそもレンズを語るときに本家だのどうのこうのと言うこと自体が意味を成さないのだが、そのような記述があまりにも多いのでディスタゴンと全く別物であることを以下に簡単に述べることとする。
ゾディアークのレンズ構成は6群10枚であるのに対してディスタゴンは8群8枚、重量も前者が980グラムであるのに対して後者は1365グラム。フィルター径も38ミリに対して26ミリであり両者を見比べるまでもなく別物であることがお分かりいただけるであろう。単に同じ中判用であり30ミリF3.5という焦点距離と開放値が同じというだけで実物を見もせずに断定をする輩がいるのは誠に困ったものだ。間違っても本家とコピーなどという表現はしてもらいたくないものだ。
私が持っているのはいわゆるハッセルFマウントだがペンタコンシックスマウントでも供給されている。そして、最近ではアルサートの名で供給されており、ペンタコンシックスマウントになっている。これはアーセナルのカメラが全てペンタコンシックスマウントになったためである。このマウントのよいところはアクセサリーメーカーから各種カメラ用のアダプターが供給されていることだ。マミヤ645やペンタックス645などのセミ判やM42、ニコン、ミノルタなどの35ミリカメラにも装着が可能なので遊びの範囲が広がる。
それでは、実際に使ってみての印象を次に述べることにする。
まず装着した印象だが以外にホールド性は良く、特にウエストレベルファインダーと組み合わせた場合に左手で鏡胴を下から支えるように持つとしっくりする。35ミリ用レンズではがさつな作りが多いロシア製レンズだが中判用では当レンズを含めて雑な感じのものは少ない。ヘリコイドも節度があり動きもスムーズだ。


製 造 国
旧ソ連
マウント ハッセル・スクリュウマウント
焦点距離・開放F値
30mm ・ F3.5
レンズ構成 6群10枚
最小絞・最短撮影距離 F22 ・ 30cm
製造年度
所有のものは1989年
メーカー
ARSENAL
ただ、これは他の魚眼レンズでも同様なのかも知れぬがピントの山が掴みにくい。しかも、F3.5という開放値とあいまってピントを外せば見事にボケてくれる。魚眼だからといってピント合わせを疎かにするとボケ写真を乱造することになる。その一方で30センチまで寄れることとボケを活かして主題を引き立たせる表現も可能だ。
正直言ってこのレンズを使うまで魚眼というものはパンフォーカスで使うものとばかり思っていたので実に新鮮な世界が広がった。また、公称で中心部ミリ60本、周辺部で14本の解像度はなかなかで中判という大きなフォーマットとあいまって実にシャープな画像が得られる。
歪曲については当然ながら魚眼特有の周辺部の湾曲が生じるが、魚眼レンズで歪曲云々と言う方が大間違いというものだ。むしろ、これを活かしてこそ魚眼なのだから。
次に色の再現性だが、どちらかというと彩度の高い暖色系の色合いになるものが多いロシアンレンズの中にあってゾディアークは極めてナチュラルな色を再現してくれる。そのせいか階調も自然で使いやすくモノクロでも暗部まで豊かに表現してくれる。
ただ、魚眼という画角と巨大な開口部のためにハレ切りが難しく、順光でも強烈な反射光を浴びれば瞬く間にハロが出てコントラストが低下する。この辺りは後期のマルチコート化されたアルサートの方が多少は強いと思うが仕方ないのかも知れぬ。
しかし、そのようなハンディーを越えても高価なレンズが多い中判用魚眼レンズの中で一桁違う価格で高級レンズ同様の画質が得られることは実に嬉しく、何よりも気兼ねなく使えるところがこのレンズの最大の魅力だ。流行の鼻デカ写真を撮ろうと犬の鼻先にレンズを差し出しても鼻汁など気にせずに撮れる。このレンズはそういった写真の世界での冒険心を駆り立ててくれる楽しいレンズなのだ。
もし、カメラ屋の店頭で見かけたら一度手にとって試してみたら良い。きっと貴方の写真の世界が広がることだろう。

(一説には、このゾディアークの方がアルサートよりも良いと言われているが、撮り比べていないので真贋は分からない)