MIR-38B


焦点距離、開放F値が同じで更にはレンズ構成が5群6枚と同じなためにツアイスのフレクトゴン65ミリのコピーと言われている。
それでは、両者のレンズ構成図を見比べてみよう(ページ下部参照)。一見すると同じようだが、特徴として、フレクトゴンは第2面に厚みがあるのに対してミールは最後部のレンズに厚みを持たせてあり、設計が違うことは明らかである。そして、当たり前のことだが評価をする場合にも独立したレンズとして見ていただきたい。どうしても、オリジナル対コピー品という見方で評価を下すと先入観を排除できないからだ。
誰が広めたのか、先ずツアイスありきでロシアものは全て模倣という図式が頭の中で固まってしまっている人が多いらしい。しかし、確かめもせずに曖昧な情報を鵜呑みにして信じる人の多いことには驚かされる。そして、そういった誤った情報がロシア製レンズの評価を下げている一因ともいえよう。
しかし、このレンズには先代モデルとしてミール3が存在するので、そちらとの比較は少し触置く必要があろう。ミール3はサリュート用に供給され、のちにペンタコンシックスマウントでも供給されたレンズである。特徴としては第一面の径が大きく横から見るとラッパのように鏡胴の先が広がった典型的な初期のレトロフォーカスタイプの特徴を備えている。それでは、写りも古くさいかというとそんなことはなく、中には旧型であるミール3の方が写りがよいといって好む方もいるほどだ。だが、私のように街中でのスナップに使う向きには前玉が巨大で威圧的な旧型よりも38Bの平凡なスタイルの方が合っている。
単純に言うと、ミール38Bはミール3をよりコンパクトに改良したものだが外観の差もさることながら構成図を見ると全くの新設計と見た方がよさそうだ。この改良によりミール3は、より現代的な風貌を与えられ使いやすくなった。なによりも開口部の径が小さくなったことは、フィルターやフードの装着を容易にしたという点での功績が大きい。最短撮影距離もミール3の80cmに対し、38Bでは50cmと短くなっている。また、近年のものはマルチコート化されコントラスト、色再現性ともに向上している。
なお、38Bにもバリエーションがあり前期は距離環のローレット部分が削りだしなのに対し、後期のものは現代風にゴムローレットに変わっている。ただ、作りは前期の方がしっかりしており動作もスムーズで安定している。どうもロシアものは旧ソ連崩壊前後の品質が悪いようだ。
さて、65ミリという焦点距離だが6×6判としてはあまり多くは見かけない。これは35ミリに換算するなら40ミリ辺りに相当し、中途半端にうけとられるからかも知れぬ。私自身も実はキエフなどの6×6判で使うことはめったになく、むしろアダプターを介して6×4.5センチのセミ判フォーマットで使用することが多い。こうすると35ミリなら45ミリ辺りの画角に相当し、スナップ撮影にちょうど良いのだ。
製 造 国
旧ソ連
マウント ペンタコン(キエフ)
焦点距離・開放F値
65mm ・ F3.5
レンズ構成 5群・6枚
最小絞・最短撮影距離 F22 ・ 0.5m
製造年度
上の写真は1978年製
メーカー
ARSENAL

開放値F3.5という値も使いやすく、最短撮影距離が50cmと短いのも良い。中判の標準レンズの多くが1mくらいしか寄れないものが多いのと比べると、ずっと使い勝手がよい。いわば順標準レンズとして機能してくれる。その一方で、多少広めの画角は広角的にも使えて万能ぶりを発揮してくれ便利なことこの上ない。
肝心の写りだがメーカー公称値では中心部で42本/ミリ、周辺で18本と申し分ない値である。そして実際の写りは数値を上回っているかのようなシャープな画像を結ぶ。私がこのレンズで一番気に入っている点がこのシャープネスである。
それは春先に菜の花を撮ったときのことである。ポジを見ると中心部に黒っぽい点があったのでゴミかと思い、20倍のルーペで確認すると一匹のミツバチが細部までクリアに写っていたのだ。私はこの時いっきにこのレンズが好きになったのである。
では、もう一つの要である色の再現はどうか。まずコントラストが良く、先に述べたシャープネスと相まって隅々までスッキリとクリアーな画像を結ぶ。また彩度も高く鮮やかな色を再現してくれ全体に気持ちの良い印象を与える。私の場合、自分の腕が上がったかのような印象さえ受ける。この辺りがお気に入りレンズの一本に入る所以である。
私は、もし中判用のレンズを1本だけに絞るのなら迷わずこのミール38Bを装着して出掛ける。それくらい撮影範囲の広い便利なレンズなのである。