MINOX 3S & B


豆カメラと言ってミノックスの名を思い浮かべない人は少ないであろう。それほどまでに有名なカメラにも関わらず以外と使った人が少ないのは、皆少なからずこの小さな巨人を馬鹿にしてるのではないだろうか?
それもそのはずで、僅か煙草4本並べたくらいのボディーに幅9.5oのフイルム、画面サイズは8x11o云々というスペックを聞くまでもなく、「こんなもので写真なんぞ撮れるはずはない」と思いこんでいるのではないだろうか?
かく言う自分もその一人であった。しかし、ひとたび中古店に並んでいたB型を手にした途端に一変した。たった92gという重量がむしろズシリと重く感じられるほど中身の詰まった精密機械なのだ。新品こそ非常に高い値段だが中古になるとコンパクトカメラ並の値段なので思わず衝動買いしてしまった。その時は例えまともに写らなくても、弄っているだけでも楽しいと思ったのである。事実、プリントに出すと「写るんです」並か少し劣るくらいで「こんなものだろう」と思っていたのである。それでも、このサイズにしては凄いと関心したものだった。なんだかんだ言っても気に入ったので、続いて露出計の無い3S型も手に入れてしまった。

でも、やがて飽きてしまって戸棚に飾ってあった。ところが、フイルムスキャナーを手に入れた時に紙でマスキングし、試しにネガをスキャンした画像に驚いた。何と画面の一部に写っている電信柱の住所までクッキリと読みとれるではないか。試しにプリントしてみるとA5サイズでも十分な画質を保っているではないか。通常のプリントに出すと大した画質ではないし、だからといって手焼きするには大変だが、このようにデジタルプリントする事で簡単にこのカメラの本領を発揮できるのである。思いがけないところでこのカメラに惚れ直した。
さて、肝心のカメラ本体についてだが、特筆すべきはレンズであろう。かつて朝日カメラのニューフェース診断室において画像中心部ではミリあたり325本と歴代でもトップクラスの解像度をマークしたとされる。それでは画面周辺では像が乱れるかというと、そうではない。フイルム圧板が湾曲しており周辺部まで均一な画像が得られるよう工夫がなされている。なお、この圧板はフイルム給送時にはフイルムから離れてフイルムが送られると押さえつけるような仕組みになっている。もうひとつ、特徴としてはレンズに絞りが無いことが挙げられる。何と絞り解放で高解像度を誇っているわけだ。一方のシャッターは二幕のギロチン式でT、B、1/2~1/1000まであるから恐れ入る。しかもファインダーは20pの近接までパララクス自動補正になっている。このファインダーの動きを見ているだけでも楽しい。流石に距離計は内蔵されていないので目測になるのだが、通常の撮影では被写界深度の広さを活かしてパンフォーカスでいける。また、近接撮影では付属のチェーンに付いているノッチがメジャーの役目を果たす。更に、こいつにはフィルターが三種類(B型)組み込まれていてNDフィルター使用時は露出計にも連動するようになっていて驚く限りである。でも、それだけではなく、システムカメラとしても整っており、アングルファインダー、望遠鏡アダプター、接写スタンド、三脚、三脚アダプター、ストロボ、現像タンク、スライドプロジェクター、ネガルーペなどアクセサリー群が豊富に揃っている。
故にこのカメラ、ただの豆カメラとして侮ってはいけないのである。一度足を踏み入れると虜になってしまうのだ。
製 造 国
ドイツ
形式・タイプ
ミニチュアカメラ
画面 サイズ
8×11ミリ
(9.5ミリ幅専用フイルム使用)
シャッター
金属2幕式ギロチンシャッター
T, B, 1/2,5,10,20,50,100,200,500,1000
レンズ COMPLAN 15mm F3.5
3群・4枚(テッサータイプ)
ファインダー
パララクス自動補正式
製造年度
3S: 1954−1969
B :  1958−1972
メーカー
MINOX
上の写真左は、B型に三脚アダプターとプリズム式アングルファインダーを組み合わせたもの。右の写真上がB型で下が3SもしくはA型。写真で分かるように3Sに連動露出計を組み込んだものがB型である。写真では分からないが、セレン電池のパターンが格子状のものが前期でハニカムパターンになっているのが後期モデルである。

この豆カメラがいかに高性能であるかは、「カメラと戦争」という本にはキューバ危機を救ったカメラとしてイギリス諜報部のスパイとして活躍したペンコフスキー大佐が使用したものとして紹介されている他、米国CIAのHPでもスパイカメラとして紹介されている事からも納得していただけよう。

使用に当たって、
このカメラ(このモデル)の唯一の欠点としては、ファインダーを引き出すだびにフイルムが一こま送られてしまう事である。だから、不用意に操作してると、気が付いた時にはフイルムが終了なんてことになる。また、カートリッジの光線漏れを防ぐために、所定の枚数を撮り終えたら2コマだけ空送りして現像にだすように心がけよう(完全に送ってしまうとスリットから光が入ってしまう)。なお、詳しい使用方法や、他のモデルに関する情報は下記ページを参考にされると良い。

●ミノックス全モデルの紹介と自身で撮られた素晴らしい作品の紹介
池田 實 さんのホームページ

●ミノックスの使用方法
クラカメ探検隊・珍しいカメラの使い方講座minox編

●オリジナルの使用説明書のダウンロード(3S型)
Download a 1958 Minox IIIS Manual