Искра/Iskra


片仮名でもイースクラと検索すれば、かなり多くの結果が出てくるほど馴染み深いロシア語だがカメラとなるとそれほど知られていない。事実、僕がこのカメラを手にしたときのプライスタグには"モスクワ"と誤って記してあったほどだ。まあ、時代的にみればモスクワの生産終了と同時にデビューしているので後継機とみることもできようが全く別物である。モスクワがツアイスを手本に発展(実際は殆ど中身は変わってないが)したのに対して、こちらは独自?のようにも思える。強いて言うならアグファ・スーパーイゾイレッテが近い(特に露出計の付いたイースクラ2型は似ている)が僕はイースクラの方が洗練されたデザインに思える。「イスクラ(Искра/Iskra)」とはロシア語で「火花」を表し、ロシアには「燃え上がる火焔も一点の火花から」という諺があります。また、中国でも「星火燎原」という同じ意味を表わす言葉があります。このように、初めは小さくても、やがては大きく育つ、という願いが込められていたのかも知れないがアマチュア向けの中判フォールディングカメラは既に時代にそぐわなかったのかモスクワのようにシリーズはおろか4年間で38722台しか生産されずに終了してしまった。
そんなイースクラだが僕はソ連製カメラの中でも出来の良い部類に入ると思う。また前述したようにデザインも洗練されている。なお、このデザインは同時期のシュタールトにも共通するものを感じるのだが同じデザイナーの仕事かと思うのは僕だけだろうか?
レンズはご存じインダステュールでテッサータイプらしいシャープな像を提供してくれ期待を裏切らない。このカメラは二重撮防止機構を備えているのだが、この機構のおかげでセルフコッキングでないのにフイルムを装填して巻き上げないとレリーズボタンが押せないようになっている。この機構は中古店などの店頭で故障と誤解されかねない。もう一歩踏み込んでセルフコッキングにしてくれていたなら完璧だったのにと悔やまれる。他にはライトバリュー方式を採用しているのでシャッターダイヤルと絞り環が一体になって回転するのも僕はあまり好きではないが、その他はいたって快適で特にファインダーはなかなか見やすくて好感が持てる。ただ、距離環が最短距離の位置にするとシャッターチャージレバーと重なってしまい都合が良くない。

製 造 国
ソ 連
形式・タイプ
フォールディングカメラ
画面 サイズ
6x6cm
120フイルム使用
レンズ KMZ INDUSTAR-58 75mm F3.5
最短撮影距離 1m、最小絞りF22
シャッター
B、 1、1/2, 4, 8,15,30, 60, 125, 250,500
X接点、セルフタイマー付
ファインダー
1眼式 2重像合致式距離計連動
製造年度
1960〜63年
上の個体はボディーは61年だがレンズは63年
メーカー
KMZ
カウンターおよび二重露出防止装置の連動ギヤ。蓋を閉めて、右上の溝にある部分が押されないと動かないのでフイルムを装填した上で巻き上げないとボディーレリーズは押せない。
フイルム軸を押さえるピンはバネでなくねじ込み式。ボディーとの間に見える細いピンが蓋を閉めた際に蓋で押さえられるので緩まない構造になってる。
これらの構造はなかなか良く考えられているのだが、モスクワと同様に裏蓋はヒンジ式ではなく着脱タイプである。また、セルフコッキングではないので面倒だ。ここいらのちぐはぐさ加減がソ連らしさかも知れぬ。

なお、このカメラにはセミ判も存在するようだ。