INDUSTAR 61 L/Z



このレンズ、よくプライスタグに"マクロ"の表記を見かけるが、それはちょっと違う気がする。なるほど、外観を見ると鏡胴の奥にレンズの第一面が見える様は一見マクロレンズに見えなくもない。また、通常の標準レンズよりも最短撮影距離が短く30cmまで被写体に寄れるので1:3.5くらいまでなら接写が可能だ。確かにマクロレンズの厳格な定義などないが、少なくともマクロと名乗るからには1:2程度までは寄りたいところだ。ちなみにロシアものでマクロの名の付くのは標準のボルナと超望遠ミラーレンズのルビナーくらいだ。前置きが長くなったが、こいつは標準レンズなのである。
さて、標準レンズである証のひとつがその生い立ちにある。インダスター61と名の付くところからお分かりだと思うが、Lマウントの標準レンズが先に存在する。こちらは、そのレンズをそっくりM42マウントの鏡胴に収めたものである。フランジバックの違うレンズをそのまま収めたため鏡胴の奥に引っ込む形となったわけだ。そして、近接撮影が可能となったのも、その恩恵のひとつと言えよう。ロシアには他にもインダスター50がLマウント、M42(あるいはM39)兼用のレンズとして供給されている。いずれもテッサータイプの優秀なレンズだ。なお、インダスター50の場合は、一眼用のものはLマウントの鏡筒の後半を切り取ったかたちで(実際はネジで外れるのだが)パンケーキタイプになっている。テッサーの基本設計は1世紀近くも前のものだが最新の素材とコーティングが施されるとこんなにも良い描写をするものかと驚かされる。改めてテッサーの優秀さを認識する次第である。
さて、近接撮影のできるマクロレンズとしてはボルナ9があるが、レンズ構成も複雑で、かつがたいも大きく重いがマクロには珍しくなだらかなボケを示すレンズとして名高い。だが、両者を比べてみると意外なほど描写が似ているのには驚く。また、この2者にはひとつ共通点がある。それは右の写真のような絞りの形である。F5.6〜8近辺において所謂"ダビデの星"のごとき形になるので被写体後方にハイライト部分があるような場合には、ちょいと気になるボケが生じることになる。だが、誰も好きこのんで五月蠅い背景を選ぶとは思えないので世間で言われるほど気にすることはない。むしろ、61L/Zの場合、軽さとフードが要らない(レンズが奥まっているので鏡胴自体がフード代わりになる)事、安い事などのメリットがデメリットをカバーして余りあると思う。そして、プリセット絞りにさえ慣れてしまえば使用範囲の広いレンズとして重宝することだろう。

製 造 国
ロシア
マウント M42 スクリュウ
焦点距離・開放F値
50mm ・ F2.8
レンズ構成 3群 ・ 4枚
テッサータイプ
最小絞・最短撮影距離 F22 ・ 0.3m
製造年度
現行品
メーカー
 LZOS リトカリノ

F5.6〜8位置において特徴的な絞りの形状を示す