メーカー:ALTEC 名称: 405A
形式:フルレンジ サイズ(口径):10cm
周波数特性: 60-15000hlz その他: フェライトマグネット

このユニットの正確な生い立ちについての記述は見たことがなく、いわゆるダイヤコーン・シリーズ(600B、400Bなど)のデビューが40年台末なので50年台には登場しているのではないかと思っていたのだが、ある資料によると1968年とあり以外と新しいことを知った。10cm口径ながら背負っているマグネットは20cm口径の403Aや409Bなどとほぼ同じ大きさのもので、振動板の直径とマグネットの直径がほぼ同じという巨大さだ、その外観からもポテンシャルの高さを期待させるものがある。残念ながらアルテックブランド(注1)は2006年春をもって生産を終了したが、このシリーズは現在でも脈々と続いており、エレクトロボイスブランド(注2)で生産されている。要するに半世紀以上にもわたり基本設計を変えずに第一線で使用されているスピーカーということになる。しかも、コンシューマー市場ではなく業務用としてなのだから驚きだ。それだけで十分に名機と呼ぶに相応しいユニットと言えよう。

ところが名機として有名な一方で、「鳴らすのが難しい」「一筋縄ではいかない」などとも言われている。果たして、これって本当に名機なの?と疑いたくもなるのだが、使ってみないことには評価のしようがないので、試しに手に入れてみた次第である。
始めに断っておくが、このスピーカーは音楽鑑賞用ではない。その辺りの認識がずれていると、どんなに頑張ったとしても、良い音など望むべくもない。そもそも、このスピーカーの目的は、録音機器などのコンソールに内蔵して音の確認をしたり、複数ユニットを壁や天井に埋め込んでスピーチなどのPAに使うことを目的としている。故に特性も(これも資料によっていろいろあるが)大まかに言って100〜10000(公称では60-15000)くらいと狭いが、あえて狭くしてあるようにも思う。また、もう一つの用途として人の声のモニターによく供されるようだ。某機関において電話や録音テープの音声を分析する際などに使われているそうだ。逆に解すると、人間の声=ボーカルを聞くと最高?なのかも知れぬ。

もともとが壁や天井埋め込み用なので、エンクロージャーの指定などなかろうと思うと唯一60年代のカタログに30リットルほどのバスレフ箱の図が載っている。これを元に逆算してみると、ポートの調整は90ヘルツくらいになる。なお、板厚の指定はないが、この当時の同様のユニットに倣えば12mmくらいが適当に思う。なお、現在の日本におけるアルテック・プロ製品輸入代理店であるバラッドの企画で現行ユニットを小柄なバスレフ箱に収めた製品が国内で販売されている。これらを参考に、手元にあった端材で適当なバスレフ箱を作ってみた。吸音材はなるべく少ない方が良さそうなので、裏板にのみ少量貼ってみた。
ボンドが十分に乾くのを待って、いざ音出しである。一言で表現するなら「ヌケのよい音」といえよう。予想通りといおうか、ボーカルがぐんぐん前に出てくる。しかも、驚くことにボーカルの裏にある音もけして団子にならず実に忠実に再現しているではないか。と、ここまで書くと素晴らしく誉めちぎっているように思うかも知れぬが、少々勝手は違う。確かに、音声モニター用にはうってつけかも知れない。だが、音楽を楽しむには少々きつい音に感じる。けして高域まで伸びていないのに高音がきつく感じるのは全体的に前に出てくるキャラクターによるものだと思う。ただ、このスピーカーは、他の音楽用スピーカーと比較して語ってはいけないように思う。また、ある意味では他に類を見ないキャラクターの持ち主とも言える。そう捉えると、やはり名機と称して然るべき存在と言えよう。なんともチャーミングなスピーカーだがBGMや古い録音のボーカルものには良いが、オーディオ用途ではないことを改めてご忠告しておく。

注1 EVIから再び分離独立し、アルテック・ランシング・テクノロジーとして再出発したアルテックは、2001年に業務用スピーカーを復活させたが405の型番が使用できないので、現在では404という名になっていた。だが、2005年7月に同社は、Plantronics 社に買収され2006年春にごく一部のPA用スピーカーシステムを除いて業務用スピーカーの生産を終えた。
注2 アルテックが80年代中期に倒産した際に当時のエレクトロボイスの親会社であるガルトンに買収され、後にエレクトロボイス(EVI)に吸収されたため、エレクトロボイスブランドで生産されることとなり現在に至る。

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