メーカー:ALTEC 名称: 403A
形式:フルレンジ サイズ(口径):20cm
周波数特性: 70-11000hlz その他: アルニコマグネット

403Aを買った事を伝えたら、「何をいまさら」と言ったのはオーディオ好きの友人だ。確かに、今更半世紀近くも前のシングルコーンもなかろうに、と自分も思うのだが、未だに人気が衰えない秘密を探りたく入手してしまった。他に同系統の409Bも持っているのだから、何もあえて買わなくても分かりそうなものだ。だが、お気に入りの409Bよりも良いなどという意見を見聞きすると、やはり試してみたくなる。こりゃ殆ど病気と言えよう。
そこで、どうせ買うならば409Bのツイーターなしモデルであるフェライトマグネットタイプではつまらない。どうせなら初期のアルニコマグネットのものと探して手に入れた。そのせいか409Bを入手した時よりも高くついてしまった。こちらの方が人気が高いということなのだろうか?

表から見たら、いかにも安っぽいスピーカーである。フェライトマグネットのものを見ると409B同様にコーンにコルゲーションがあるのだが、こいつには無い。エッジはフィックスドタイプでダンプ材が塗布してある。コーンは非常に薄く軽いもので爪で突付いたら簡単に穴が開きそうだ。裏から覗いて照明に翳して見るとエッジ部分は更に薄く透けて見えるほどだ。ガスケットは409Bよりも薄いが、同様にバッフル裏側からマウントするタイプだ。
20cm口径のスピーカーにしては意外とデカイマグネットが装着されている。手前の台座はオプションで用意された70ボルト送信用のトランスを装着するためのもの。複数個使用を考慮したものだ。

この手のユニットの鳴らしかたとしては、いわゆるウェスタン箱という大昔の少しバッフルが斜めに付いた薄い米松合板でできた密閉箱に入れるというのが好まれているようだ。だが、僕は小中学校の教室にあった校内放送用のスピーカーを連想してしまう。そこで、アルテック社の資料を紐解くと、755系の箱も409Bの箱も60リットルほどの密閉箱しか紹介されていない(ちなみに有名な409Bを入れたバスレフ仕様のDIGは日本の輸入商社エレクトリの企画だ)。60リットルの密閉箱なんて、味も素っ気もない箱だけど、ちょうど手元に同サイズの箱(15ミリのラワン合板で作成)があったので、バッフルのみ交換して試してみる。吸音材は、ニードルフェルトをバッフル面以外の5面に貼った状態だ。
さて、肝心の音だが、音を出して最初の印象は「古くさいなあ」というものである。普段聞いている音も世間から見れば古いのだが、403Aよりは新しいので、ここはしばらく耳慣らしが必要かも知れぬ。そこで、3日ほど断食ならぬオーディオから遠ざかって、改めて聞くことにした。すると、どうだろう「けっこういい音じゃないか」と思えるから不思議だ。いや、思うだけでなく本当に心地良い音なのだ。確かに、最初の印象のとおり、ハイファイの音を求めると物足りないのは否めない。だが、何も足さない&何も引かない、これだけあれば十分だという音がそこにある。しかも、けして妥協ではない音楽を楽しむのに十分な音を奏でてくれる。それは一種の安心感さえ与えてくれる。なるほど、このスピーカーの本来の用途からすれば当然の音づくりなのかも知れぬ。BGMというのは本来そういうものでなきゃいけないのだと改めて認識した次第である。誰が聞いても心地よく、何時間聞いても疲れない。スピーカーと対峙してハイファイを聴くのもいいが、何かをしながら聞くには、ずっとこちらの方が心地よい。最近は少々価格が高騰してしまっているが、この手の音を奏でてくれるスピーカーの存在が少なくなってしまったせいなのかも知れぬ。

参考までにカタログを見ると、本機の特徴として、まず丈夫なボイスコイル、そして手頃な価格とあり、故に複数個使用して室内でのPAや音楽再生に最適とある。使用法としては、天井、壁、もしくはバッフルに装着しての利用に適し、フレームは70ボルト転送用のトランス装着用のブラケットも備え、カドミウムめっきを施してあり錆にも強いとある。正に実用一点張りの丈夫で長持ち、しかも安く、そこそこの音といった感じだ。これが販売されていた当時、いったい誰が半世紀後にもなってからオーディオ用に使われることなど想像しただろうか? その価格から、相当な数が生産されたと思うのだが、用途が壁や天井埋め込みということで殆どが建物の改修や解体とともに廃棄されてしまったのではないだろうか? ちなみに、日本国内で売られていたときは6000円台後半だったように記憶している。

その他のスピーカー一覧へ