プロローグ 大阪から上海への新鑑真号(船)

2001/05/08 - 05/10


 新鑑真号は毎週火曜日に大阪南港または神戸港を上海に向けて出港する客船である。

 ゴールデンウィークが明けてすぐの5月8日に大阪南港から出港する便を、俺は旅の出発点とした。12年も続けた仕事を辞めて、初めての海外一人旅。バックパッカーの間ではよく知られているこの船を使うことにより、海外一人旅に少しでも体を馴染ませられるのではないか、そんな考えがあったのだ。

 それに安いし。シーズン関係なく片道2万円(2等洋室)なのだ。

1日目

 定刻の正午に出港した新鑑真号は、瀬戸内海を西に向かい豊後水道を南に抜けて東シナ海を上海へ向かうらしい。すでにパスポートには日本を出国したスタンプが押されているが、今日の間はまだ日本領海内を移動するだけということになる。

 正午に出港してまもなく、明石海峡大橋の下をくぐり抜け、瀬戸内海を突き進む。初日は日が沈むまで瀬戸内海から出ることはない。飛行機なら上海まで2時間だが、この船だと46時間かかるのだ。瀬戸内海の風景をのんびり見物するのもよろし。

 ともかく腹も減ったし、レストランへ。席に案内したのは日本語がわからないらしいウェイターだった。末席に案内される。

 注文を聞いてくれるのはウェイトレス。彼女は英語が少し分かるようだ。日本語もほんの少しわかるらしい。

 ワープロ出力したものをコピーしてまたコピーしたようなメニューをみたが良く分からない。英語も併記されているので結局そっちを見ながらの注文になってしまう。

 FRIED SWEET & SOUR PORK (写真中央) ¥550
 PRESERVED DUCK EGG (写真左下) ¥150

 青島(チンタオ)ビールはおなじみだな。

 注文したとき、ウェイトレス嬢が「スープはどうするんだ」というようなことを聞いてきた。しかしそのときは何のことか良くわからず、ともかく要らないと言ったんだがウェイトレスはなんかしつこい。それに米飯は要らないのかとも。

 おっちゃんはビールを飲むから要らないのよ、小姐。

 他の中国人客たちはわいわいとしゃべくりながらデカイ炊飯器からご飯を各々で盛っている。よく食うねえ。

 豚肉唐揚げに甘ったるいソースをからませてある皿は、ひとりで食うにはつらい。甘くて甘くて。さくっと歯ごたえはいいんだけど、甘いってばさ。

 ピータンは日本でも何度か食べたことがある。まあ美味いのか不味いのか良くわからんもんだ。プルンとした歯ごたえがゼリーみたいで面白いってくらいか。
 しかし、これはちょっと違った。なんか独特のにおいがする。硫黄くさいというかアンモニアくさいというか……
 そうだ、きったねー公衆便所のにおいだ! 小便が便器にこびりついて結晶になっているような。
 でもこれでへこたれてはいけない。もっと噛んでいると、すがすがしい辛味と体が軽くなるような快感が舌先から全身へと広がっていく。
 うん、割と美味しいね。
 そう思いながらもぐもぐと食っていたらさっきのウェイトレスがやってきて、
「ピータンは醤油をかけて食べるのよ!」
というような意味なのか、中国語で何か言いながら頼みもしないのにテーブルに備え付けられていたキッコーマンを手にとって、慣れた手つきでピータンの皿に醤油をかけてくれた。
 だからって、美味くなったわけじゃねえがな。風味はすこし変わったけど。

 お会計はテーブルで済ませます。ウェイトレスはお釣りの小銭を手渡しするのではなくテーブルの上にジャラジャラっと落としてくれる。ああ、中国って感じ。

 どっちの皿も半分くらいしか食えなかった。もったいないので持って帰りたいと伝えたら、部屋まで持ってきてくれた。2段で8つのベッドがある共同部屋で、俺以外にも日本人一人、中国人二人いるんだけど、なんかあたりまえのようにテレビの上に置いていった。

 夕方、瀬戸大橋の下をくぐり抜ける。

 その後も俺はデッキで一人、瀬戸内海の風景を眺めていた。

 わざわざ海外まで行かなくても、日本にも素晴らしい風景はあるものですなあ。

 といいながら、一時間も眺めてたら飽きてきた。

 船の中を探検したって3分もあれば行くところはなくなる。

 卓球台に数年前のテレビゲーム。トイレにシャワーに自動販売機。350mlのビールはジュースと同じ150円。

 うーん、退屈やなあ。持ってきたウィスキーのポケットボトルはもう空になってしまったぞ。

 同室の日本人青年は23歳で、1年間大学を休学して旅するんだそうだ。チベットからどう行くのか、最終的にはヨーロッパまで行ってくるらしい。

 他にも何人か同じような若い日本人バックパッカー達がいた。でもシーズンオフなんだろう、うわさに聞くほどは多くない。10人くらいかなあ。

 腹もあんまり減らないので、晩飯は昼飯の残りとビールで済ましてしまった。

2日目

 朝飯は7時半から。新鑑真号は朝食つきなのである。

 おやゆ、春巻き、ソーセージ、小龍包、漬物、ポン菓子固めたみたいなスナック、マンゴー、そしてコーヒー。

 小龍包は冷めていたけど、ちょっと厚めの皮を噛み千切ると中からスープが出てきて、まあまあだったな。なんか冷凍物っぽかったけどな。

 シャワーを浴びた。2等だからもちろん共同シャワー。お湯も出たし気持ちよかったよ。

 昼からはずっとビールを飲んでいた。レストランの前にテレビがあって、テーブルがいくつか並べてあって歓談できるようになってあるのだ。

 他の日本人バックパッカーも退屈してたんだろう、みんな集まってきて話をしていたので人見知りの激しい俺も参加させてもらった。

 就職が決まったんで旅に出る人もいれば、就職できなかったから旅に出る人もいる。フリーターで旅行資金を貯めては旅に出る生活を続けている人も、仕事を辞めて旅に出る人だっている。

 行き先もさまざま。北京からシベリア鉄道で7日間もかけてモスクワへ行く女性、とにかく中国をうろうろしようという男性、まだ行き先を考えていない女性、ラオスからベトナムへ抜けようという仲良し3人組、そしてベトナムからカンボジアへと向かう俺。

 いろいろ話したけど、ビールで酔ってた俺はあんまり憶えてねえや。

 晩飯をみんなで食おうと提案し、船内レストランへ。

 やっぱり中華は多くの人数でいろいろ食うべきですな。なに食ったか憶えてないけどな。

 なんでかしらんが、カラオケ大会になってたぞ。

 前に出て歌っているのはレストランのウェイトレス嬢。サービス旺盛なのか、単にカラオケ好きなのか……

 なんかこの後、俺たち日本人の中からも前に出て歌ってた人がいたなあ。なに歌ってたっけ?

3日目

 目がさめたら大きな川だった。

 黄浦江である。長江(揚子江)の河口付近で合流する川である。地図でみると、長江から比べたらカスみたいな小さな支流にしかみえないが、タンカーだって余裕で通れるデカイ川なのである。

 上海名物のテレビ塔も見えてきた。アジアで一番高いと中国大自慢の塔である。
 しかし、ラブホテルの屋根についている飾りみたいな安っぽいデザインはなんとかならんかったのか。

 黄浦江を3時間ほど上流へ進んだところに国際フェリーターミナルがある。

 これがハンパでなく貧乏くさい。なんにもないんだ。

 工事現場みたいなところをテクテクあるいてイミグレーションオフィスのある倉庫みたいな建物まであるくんだわ。

 なんかもう入国審査なんてせんでもそのまますっと街に出られそうな感じなんだよなあ。

 船を降りた時に渡される記念チケットみたいなのは通関するときに渡さないといけないので、捨てちゃ駄目だよ。
 荷物検査も何もなく、入国スタンプを押してもらって、さあ中国だ!

 新鑑真号乗船記念で貰ったのはターボライターでした。


これがフェリーターミナルの建物。知らなきゃ見逃しそうな国際フェリーターミナルだ。

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