(ご紹介)『彼方の山稜』
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『彼方の山稜』(Hybrid版CD-ROM) 著 者:野口公生/発 行:のぐりん出版 『作者の体験が自分の背中から這いよっては遠ざかっていく。リアルなような夢のような...気象情報と夢幻のような山の風景が交錯し、自分が幾重にも重なった時空間の中にたたずんでいるような、不思議な気分にとらわれていく。 そして辛い目危ない目に遭おうとも、山に誘われ飽くことなく稜線を目指す山好きの気持ちが少しわかるような気がしてくる――優れたエッセイであることの証左だ。』 ■私はろくに山を知らない。 しかし、亡くなった祖父や若い頃の父が山好きだったことは知っている。テレビから雪山遭難のニュースが流れても私と母は、たいがいは聞き流してしまう。 「わざわざそんな危ないところに行く人の気がしれない」的な感想をもらすこともある。父は黙ってテレビ画面を凝視している。 『彼方の山稜』は、そんな私をほんの少しだけ山に近づけてくれた。暖房のきいた部屋で炬燵にあたりながら、私は見慣れぬ山岳用語がちりばめられた電子本をゆっくりと繰っていく。 つり上げたイワナの腹に味噌をつめ、たき火で焼く。その旨そうなこと。死の危険が襲いかかってくる山頂部と、紅葉たけなわの下界の残酷なコントラスト。 作者の体験が自分の背中から這いよっては遠ざかっていく。リアルなような夢のような...気象情報と夢幻のような山の風景が交錯し、自分が幾重にも重なった時空間の中にたたずんでいるような、不思議な気分にとらわれていく。 そして辛い目危ない目に遭おうとも、山に誘われ飽くことなく稜線を目指す山好きの気持ちが少しわかるような気がしてくる――優れたエッセイであることの証左だ。 大学生になった著者が山岳部の新人として苦い一歩を踏み出す第一章(朝日連峰行)に始まり、友人の遭難(利尻)、自らも生死を分ける体験をしたこと(北岳)、そして卒業、就職、家庭をもった後も山行きを諦められぬ思いが静かに、そして巧みな文章構成で綴られていく。 とりわけ幼い娘をともなっての山行き、単独で冬山へ際挑戦する場面では、人間はいくつになっても(結婚して子どもが出来て一見安定しきったように見えても)成長し変化することが出来るのだと実感させてくれる。 東京新聞出版局発行の『岳人』に掲載されたエッセイが多い(同誌の入選作数作の他、応募紀行賞、最優秀賞を受賞した作品も収められている)――よくある素人の紀行文(ネットにある旅日記など)と違って、短いエッセイの中に起承転結があり、物語を感じさせ、かなりの力量だ。美しい写真とともにじっくりと読書の快楽が味わえる。 山を愛する人々なら、本書をさらに深く堪能することができるだろう。 あとがきによると野口氏は若い頃に山行きだけでなく西欧放浪もしていたようで、そのエッセイもぜひ読んでみたい。さらに原稿用紙二百数十枚の小説風にまとめられた未発表の作品もあるとのこと。続刊に期待したい。 ●Yuko Nexus6 ライター&Mac音楽家。「アスキー24」「WIRED」誌などでライターとして活躍。Macユーザーの読者が多い"リンククラブ・ニューズレター"(URL)http://info.linkclub.or.jp/にも執筆中! 著書に「FLYERS--California」(ぶなのもり刊 星雲社発売)、「サイバーキッチンミュージック」(翔泳社刊)がある。音楽家=ふにゃふにゃ脱力系サンプリング姐御 YUKO NEXUS6として「NEKO-SAN KILL!KILL!」(KAERUCAFE KACA 0085)を発売中!。 ホームページはこちら→(URL)http://www02.so-net.ne.jp/~nexus6/index.html |