第5話 「ゲルマン系? ラテン系?」

(1999.09.21.掲載)




 学生時代(ずいぶん昔だなぁ…)、約1ヶ月ほど、ヨーロッパを放浪したことがある。プラザ合意以前だったから、今に比べれば圧倒的に円安の時代。確か、1ドル250円前後だったはずだ。当時、僕が出発する2、3ヶ月前にサハリンで撃墜事件を起こした大韓航空というおっかない三流キャリアを使ってさえ、ヨーロッパ往復に18万円ぐらいかかった。そして、ユーレイル・ユースパスの購入に、約7万円。手持ち現金約10万円。総予算は35万円だ。今ならちょっとした贅沢旅行ができるが、当時はきつきつだった。日当たり予算が3000円ぐらい。これを「10ドル旅行」と称して、「地球の歩き方」を片手に僕たちは世界中に旅立ちはじめた、そんな時代だ。
 パリでフランスに入国した僕は、物価の高さに悲鳴を上げて、すぐにスペインに逃亡。国境で自動小銃を突きつけられてパスポートを押収されたり、スリと押し問答して警官に引き渡したり、夜行列車で宿代を浮かせながら、街から街へと渡り歩いた。やがて、マドリードからマルセイユに行き、それまでにため込んだ小金を握りしめて、スイスへ、ドイツへと転々とさまよった。
 最初に、フランス、スペインといったラテン系民族と交わり、旅の後半でドイツというゲルマン民族と交わった。
 おもしろいほどに両民族はちがう。
 もちろん、いろんな場面で両民族のちがいというのは述べられているが、僕はここで街角風景として、交通ルールへの考え方をとらえてみる。
 ラテン系。
 信号なんて、とりあえず無視。自分の判断で大丈夫だと思ったら、赤信号でも平気で進む。交通量の多い大通りで、車の波をかきわけて横断する歩行者などざらだ。ちょっとでも車の流れが途切れると、歩行者は一斉にわたりはじめる。
 ゲルマン系。
 どんなときでも信号厳守。車がまったく通っていなくても、ただひたすらに青信号になるのを待ち続ける。
 日本人は几帳面さからゲルマン系類似とよく言われるが、本当にそうだろうか。
 僕は関西生まれながら、3年間ほど東京にも住んだ。その視点から見ると…。
 東京人。これはゲルマン系。信号遵守。
 大阪人。これはラテン系。信号無視もへっちゃら。
 けれど、東京人にはわからないだろうが、大阪人も大きくふたつに分けられる。
 神戸系。これはどちらかというと、東京人に近い。関西弁もどちらかというとやわらかい感じ。
 和泉系。これは生粋のラテン系か。岸和田だんじり祭りなど、スペインのお祭りに通ずるものがあるような気もする。関西弁も、いわゆる河内弁というやつで、けっこうきつい。和泉ナンバーの車は運転が怖いとも言うし…。それを言うなら、神戸ナンバーは乗っている人間そのものが怖い?(笑)
 その他、駅のホームでの並び方など。
 東京人。ん〜、きちんと並びますなあ。
 大阪人。ドアにだんご。降りる人より先に乗って、どないすんねん?(笑)
 けど、これも沿線によってちがう。阪急沿線は東京人に近い。
 あとは、エスカレーターの乗り方だね。
 東京人。きっちり片側を空ける。
 大阪人。ぞろぞろと有象無象が突っ立って、急いでいるときイラつく。

 …とまあ、何となく傾向が見えてきたような。
 けど、何でもかんでもきっちり型にはめる東京型より、何やちゃらんぽらんな大阪風の方が人間味があるような気もするけどね。
 僕は個人的には東京型の方が効率的で住み易いとは思うんだけど(笑)