第1話 「私鉄ターミナルにて」

(1999.06.18.掲載)




 ある週末の夕方、私鉄ターミナルで人と待ち合わせた。少し早めの時間に退社できたので、僕はゆっくりと待ち合わせの場所に向かう。けれども、やはり早めに着いてしまった。僕はいつも約束の時間よりも10分から15分は早めに着いてしまう。遅れたことなど、ほとんどない。
 さて、どうするか、とあたりを見回すと、コンコースを見下ろす二階に、折良くスタンド・バーがあった。コーヒーなら別に飲みたいとも思わないのだが、僕は「生ビール」という看板に引き寄せられるようにして、その店に入った。
 コンコースを見下ろす窓際に陣取って、僕はビールを頼む。そして何も考えずにぼんやりと人の流れを眺める。ただこうしてビールを飲んでいるだけで、一週間の疲れが洗い流されるような気がするのは僕だけだろうか。
 どこから、こんなにたくさんの人々が湧き出てきたのだろう。そして、みんな、いったいどこに行こうとしているのだろう。
 人の流れは絶えることなく、複雑な軌跡を描き、黙々と自分の目的地を追い求める。ある男性は時計を気にしながら、ある女性は携帯電話で話をしながら、あるいはひとりで足早に、あるいはふたりで微笑みを交わしながら、僕の視界から消えていく。
 人待ち顔で退屈そうな表情を見せていた若い女性の顔がぱっと輝く。その視線を追ってみると、やはり笑顔を浮かべた若い男性が手を挙げながら近づいてきた。
 ここは人々の人生の交差点。昨日出会ったあの顔には、今日はもう出会えないかもしれない。人は出会いと別れを繰り返しながら、自分の道を歩み続ける。
 一期一会。
 ただ一度だけの出会いかもしれない。でも、そんな出会いを僕は大切にしたい。