山行報告(1999年 6月、比良山系・ヘク谷)
5m斜瀑を直登する



 6月中旬のある土曜日、比良山系ヘク谷(滋賀県)を訪ねた。
 もちろん、沢登りだ。
 沢登りとは、沢沿いに山稜をめざす、日本独特の(?)登山形態。
 岩登り+αのスリルと楽しさが病みつきになる。
 ここのところ、ずっと単独行ばかりだったが、今度ばかりは相棒がいた。
 嬉しかった。
 かつての大学時代の山仲間、僕の二年後輩のKYOが一緒だった。

 KYOは京都生まれの京都育ち、根っからの京都人。
 かつてはバリバリの登山をやってたけれど、今は一級建築士の仕事が忙しくて(?)
 冬山も岩登りも、とんとご無沙汰…。
 しかし、僕が山ばかり行っている話を聞いて、最近では血が騒いでるはず?(と、期待)
 本当はおまえも山が好きなんだもんな、KYOよ。
 (僕の冬山写真を「うらやましくなるから…」となかなか見なかった)

 さて、数日前、KYOから「ヘク谷、行かへんか?」と声を掛けられた。
 僕はこの春から初夏にかけて、ずっと隔週末に山に行きまくり。
 前週末には東北・朝日連峰に行っており、帰ってきたばかり。
 かみさんは家庭を顧みない旦那にブチ切れかけ(笑) そうだよなあ、ふつうは。
 おまけに「朝日連峰に行ったら、しばらく山には行かない」と宣言したばかりなのだ。
 けど、ん〜なことはものともせず、僕はKYOの誘いにふたつ返事で乗った!
 あったりまえじゃん。
 せっかく相棒ができたのに行かないわけにはいかない。
 今度はいつ相棒と行けるか、わからないもの。

 本当は日曜日に行くはずだったのだが、土曜日があまりにいい天気だったので、
 朝、電話で「今日、午後から行かへんか」「うんにゃ、そうすっか」と早々決定。
 京都市内から、国道367号、通称「鯖街道」で車で1時間弱。
 僕が学生の頃は、行き違いに苦労する山間部の狭い道だった。
 週末は大渋滞が日常茶飯事だったが、今は完全二車線のハイウエイ。
 ん〜、隔世の感…。
 で、なぜか、京都市内と入山口を二往復して(理由は、KYOの名誉のために伏せよう)、
 午後も遅い時間に、沢登り、スタート。

 ヘク谷は治山工事がまったくされておらず、堰堤も護岸もまったくない美渓。
 葛川本流を渡って、豊かな水量のヘク谷に入渓する。
 午後1時半過ぎ、登攀開始。
 ヘルメットはかぶるが、この沢ならば僕たちにはザイルは不要だ。
 足ごしらえは、地下足袋&わらじ。
 滑りやすい沢筋ではこんな古風なスタイルがいちばんだ。

 新緑に包まれた渓谷をさかのぼる。もう夏とはいえ、沢水は冷たく、日陰の水辺は涼しい。
 いきなり小さな滝がいくつも連続するが、僕たちは忠実に滝を登って楽しむ
 これぞ、夏の沢登りの醍醐味だ、とか思いながら、調子にのってシャワークライミングを続ける。
 シャワークライミングとは、水流を全身に浴びながら、滝を直登するやり方。
 ちょっと緊張して、スリリングで、おもしろいのだが、はっきり言って、涼しいどころか、寒い。
 頭から全身に水流を浴びたら、その冷たさに息が詰まりそう…。

 出たッ!
 二条十二mの滝
 ここは右側の二段の滝をシャワークライミングだ。
 水圧というものは結構きつい。岩から引き剥がされそうになる重さだ。
 それに耐えて、息が詰まりそうな冷たい水流を強行突破していく。
 この爽快感。
 その後も小さな連瀑帯を忠実にたどる
 水流から離れれば何の困難もないけれど、それでは沢登りのおもしろさは半減以下だ。
 そして、核心部の最後、大滝の登場だ
 右岸(滝の左側)の滑りやすい岩壁を慎重に登りつめる。それにしても見事な滝だ。
 ここを抜けると、谷は穏やかな様相となる。
 あとは散発的に連続する小滝をただただ登りつめていくだけだ。

 核心部を抜け、陽溜まりの水辺で遅めの昼食を摂る
 もう夕方4時近い。
 沢水を汲み、そうめんをゆがく。
 できあがりを待ちながら、運びあげた缶ビールで乾杯だ。
 やはり相棒のいる山は楽しい。
 冷たい沢水で冷やしたそうめんを賞味した後、ヘク谷源流をつめる。
 水流は細くなり、伏流水となって、再びわずかな流れが現れた後、完全に途絶える。
 涸れた源流部はやがてクマザサの茂る藪漕ぎとなって、終了点の小女郎ヶ池にたどりつく。
 午後5時過ぎ。
 夕暮れの残照を浴びて、小女郎ヶ池はひっそりとした佇まいを見せていた。
 ここからは暗い杉林のなかをかけ下り、1時間弱で駐車場所に至る。
 小気味よい疲れを感じつつ、あとはただ自宅で待つはずのビールをめざして車を走らせるだけだ。