以下は、タダオから寄せられた「冬の十字峡横断記録」です。
原文のまま、引用します。
                   by 管理者:NG(noguring)


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北ア 赤岩尾根〜十字峡〜ガンドウ尾根〜剣岳
(計画 赤岩尾根〜十字峡〜ガンドウ尾根〜八ツ峰〜剣岳)

□期間 12月21日〜31日
行10−沈1 (計画12−7)
□メンバー   野村勝美 (35) 岡田忠雄 (36)
□行程 12月20日 (京都・和歌山)=(列車)=
   21日 =信濃大町駅 =(タクシー)= 大谷原 − 赤岩尾根Co約2300
   22日 − 鹿島槍ヶ岳南峰 − 牛首尾根Co約2200
   23日 − 十字峡 − 水平歩道上台地
   24日 − ガンドウ尾根Co約1522付近
   25日 − Co約1690ポコ
   26日 沈
   27日 − JP − Co1990大滝尾根頭
   28日 − 南仙人山 − 仙人小屋
   29日 − 仙人山 − Co約2400
   30日 − 池ノ平山 − 三ノ窓 − 池ノ谷乗越
   31日 − 剣岳 − 早月尾根 − 馬場島
 1月 1日 =(雪上車)= 伊折 =(車)= 上市

 今年は特に冬山へ行く予定も考えておらず体もだらけきっており、軽い冬山にでも行こうかなどと思っていたが、11月初め頃に野村からの誘いを受けて行く気になり、急遽トレーニング、準備を始めてこの大山行に備えることになった。期間は短いが無職なので時間は十分使えた。冷静に考えるにはあまりに厳しすぎる状況なので(山行の内容、短期間での準備)、あまり深くモノを考えないようにして今山行に臨んだ。
 今年は入山までには大寒波は来ておらず、高層天気図を見ても予想天気図を見ても天気周期が短いと予想され、少なくとも年内は悪天に大はまりはしないだろうという確信みたいなものがあった。

12月20日
自宅(京都・和歌山)=(ちくま)= (車中泊)
 
 出発の日がこれだけ早いとさすがにちくまも空いている。京都で野村と合流し、野口夫妻と堀中嬢の見送りを受ける。野村は差し入れだという大袋のかりんとうと乾燥バナナを抱えて困っている。彼はすぐ床に寝てしまったので一人でつまみをかじる。

12月21日 曇り時々小雪
信濃大町駅 6:00 =(タクシー)= 大谷原手前500m 6:40 − 西俣出合 8:40
− 高千穂平 13:10 − Co約2300 16:00 (泊)
 
 改札では、松本〜大町間の急行券を要求されずにラッキーだった。駅では、野村が朝食の買い出しと俺が持参した共同装備のパッキングでゆっくりしている。準備を済ませてタクシーに乗り込む。大谷原の手前のスキー場への分岐のところでゲートがあり、タクシーはそこまで。そこから歩き出す。暖かい。いや暑い。荷物が大変重くしんどい。鹿島東尾根取り付き付近で、東尾根に向かうという3人Pが追いつく。
 北股を越えるところでトンネルをくぐり、トンネルの窓から水を取って、これから登る赤岩尾根に備えワカンを履く。良い道で快調に登る。初めの1時間で300m程上がった。今日中に冷池まで行けると思うが、1Pしてからだんだんしんどくなり、ビーコンにする。するとペースはがた落ちになってしまった。さすがに尾根上部は冬型の風で視界も悪く、結構寒い。Co2500位で力尽き、テントを張る。荷物が多く、テント内はぐちゃぐちゃ。野村は、何でこんなに狭いねんと言いたげに不満そう。

12月22日 快晴
st 7:00 − 赤岩尾根分岐 8:30 − 冷池小屋 9:00 − 鹿島槍ヶ岳南峰下 13:10
− 牛首山 14:20 − 牛首尾根Co約2200 16:40 (泊)
 
 アラームが聞こえず起床が遅れる。荷物が多く狭いテント内でのパッキングが大変。俺は外に出てパッキングする(以後下山時までそのようにした)。ド快晴。しばらく登り、雪質が良いので主稜線まで直登せずにトラバースする。
 主稜線では雪庇を警戒して樹林帯の方へ入るので、結構ラッセルがある。小屋はかなり露出している。さらにラッセル。布引山の登りにかかるくらいからラッセルがなく快調となる。だが首がえらく痛く、俺は遅れる。
 南峰まで登らず少し手前でアイゼンに履き替え、牛首尾根に向けてトラバースする。野村はずっとワカンで先行している。下りも結構しんどく時間を食う。雪が少なく、よくはまる。棒小屋沢側からの風が強い。俺はしんどくどんどん遅れ、野村がテント好適地を通り過ぎていくのを恨めしく思いながら必死で歩く。かなり遅くなり、樹林帯でようやく泊まる。

12月23日 快晴
st 6:30 − 懸垂下降 − 十字峡下流約100m地点 14:40 − 渡渉開始 15:10
− 水平歩道上台地 16:30 (泊)
 
 アイゼンワッパで下り始める。雪が少なくヤブが相対的に濃いこともあるためか、晴れていても十字峡への尾根の分岐のルートファインディングは難しい。左にCo2302のポコが見えるので目安になる。高度計をにらみつつ、えいやっと斜面に入っていく。とにかく樹林が濃いので、自分のいる位置が尾根かどうかがわかりづらい。この辺は野村の好判断で的確にルートを採っていく。どんどん下る。雪が少なくゴジラがひどい。重荷が肩に食い込みしんどい。
 Co1476のポコは好展望台。大滝方面、トサカ尾根、北尾根など。そしてその向こうには八ツ峰北面を従えた剣岳がよく見える。ガンドウ尾根は急傾斜部分が比較的少ないように見えて何となくほっとする。下部は見えない。このポコに乗っている雪全体が揺れているようで少しいやな感じ。
 ここから先はどんどん急になり怖くなってくる。クライムダウンの連続。野村が先へどんどん下っていく。やがて、何本かシュリンゲの掛かった木が出てきた。しかし野村はこれをやり過ごしてさらに下っている。何というやっちゃと疲れながらさらに下ると、左から残置fixのある急で怖い下りをクライムダウン。そこを下り終わると、やっと野村が懸垂をセットしている。既に河原まで往復してルート確認したようだ。尾根のやや左の方に向かいザイル1本で懸垂1回。そこからノーザイルで河原まで50mほど降りる。この降り方を野村は、現場でルートファインディングしたのだと言う。十字峡の下流100m位の場所。上を見上げると立った岩場で、皆懸垂でここへ降りてくるのだろう。
 無事降り立ったことにひとまず安心して渡渉場所を探す。少し下流も見るが、降り立った付近が良さそう(ガンドウ尾根側ルンゼの少し上流)。見た目にはあまり水量はなさそうで、これまた一安心。渡渉の身支度は、岡田は靴、ズボンなどフル装備の上にポリチューブをテープで止めて作った防水ズボン着用、野村はスッポンポンの上に雨具のズボンとサンダルというスタイル。
 野村が平流状のところがよいというのに耳を貸さず、まず岡田が落ち込みの上の岩を伝って渡ろうとするが、以外と水深が深く、しかも手がかりにしようとした岩の表面が凍り付いているという状況で、あわてて戻ろうとしたが水圧が大きく落ち込みの方へ流されそうになり、必死で岸へ戻った。持参の防水ズボンは簡単に破れて浸水を許し、もう靴も濡れている。野村は準備をしながら「言わんこっちゃない」という表情。焦っている様を写真に撮られてしまった。気を取り直し、野村お薦めの平流部分にザイルを付けての再突入。股下くらいの水量で簡単に渡れてしまった。ザイル不要。渡り終わって野村にザイルを投げ渡すが少し濡れてしまった。それにしても、牛首の下降から渡渉に至るまで俺はルート選択をはずしてばかり。反対に常に確かなルートを採る野村の選択眼を再認識。
 少し下流に戻って水平歩道へと登る。上流側へ歩道を戻り、台地の高さを目分量で見定めておいて、十字峡から2番目と思われるルンゼを登る。適当なところで左へ入り、少しヤブをこいで1本のルンゼを渡ると台地に出た。地形は申し分ないが木が結構生えている。手近なところにテントを張り、不要となった防水ズボン、野村の渡渉用靴下などをとっとと燃やす。今回は売るほど燃料を持ってきているので、遅くまで濡れもの乾かしに精を出す。俺は懸命に革靴を乾かすが、結局2日ほどは濡れたままだった。高度が低く、寝る頃から雨が降り出す。

12月24日 湿雪
st 7:30 − ルンゼから200m程上がって小尾根に入る 8:30 − 傾斜緩くなる 13:10 − ガンドウ尾根Co1522付近 16:40 (泊)
 
 台地からすぐ下流側のルンゼに入って登り始める。アイゼン。湿雪が降っており気が重い。急なルンゼをがんがんラッセル。初めは調子よかったが、岩が出てきたりで結構こわい。上からもチリ雪崩がくるようになり、左の小尾根へ逃げる。えらい急傾斜。木をつかんでがんがん行く。めちゃくちゃしんどい。一踏ん張りして登って一休みという感じ。野村について行けない。所々岩が出てきて、右へ左へ巻く。えぐしんどい登り。
 やがて少し傾斜が緩みややほっとする。主稜線に出たか。それでも急斜面。途中でアイゼンワッパにする。不安定な雪稜などをこなしていく。不安定なポコ上でいくつかテントを張れそうなところもあったが、先を進む野村はどんどん素通りしていく。ようやく止まれそうな場所にたどり着いて一安心。めちゃくちゃしんどい。体が濡れきっている。今日も遅くまでテント内で濡れもの乾かしに精を出す。渡渉で濡らした靴がまだ乾いていなく冷たい。今日はよくぞここまで上がってきた。鋸が活躍。


12月25日 小雪→晴れ→雪
st 8:30 − ガンドウ尾根Co1690ポコ上 16:30 (泊)
 
 昨夜の乾かしもの作業やパッキングに手間取ったりで出発が遅くなる。現状の岡田のパワーでは八ツ峰は滝ノ稜、W稜とも登攀は苦しい旨を相談した結果池ノ平山から本峰を目指すことにして、ここに食料2日分、レーション3日分(岡田のレーションはかなり多め)、シュリンゲなどを捨てた(申し訳ない行為。しかし、次にここに人が来るのはいつのことやら)。荷物もかなり持ってもらい、情けない。
 今日もアイゼンワッパで猛ラッセル。ブッシュもきつい。しんどい木登りが続く。不安定なリッジではまってひやっとする。1ヶ所リッジの左側に10m程ザイルを張ってそこから懸垂。後続するが、ブッシュを縫っての空中懸垂となりルートファインディングが難しく、尾根右側の急なルンゼに降り立って結構怖い。ザイル1本で一杯。コルへ登り返すが狭く、リッジ上はブッシュだらけで、これではダイレクトに降り立てるはずもない。トップを行く野村は、鋸でガンガンブッシュを切り払っている。再び懸垂。野村の絶妙のルートファインディングで狭いコルにピタリと降り立つ。また雪稜ギャップがあるが、まず岡田が支点からトップで降り、後続の野村は怖いクライムダウン。
 ラッセルしつつ猛烈に高度を上げる雪壁となり、全然休めない。天候は悪くなっている。しばらく下って視界の悪い中不安定な雪稜登り。初めノーザイルだったが、右手の新雪が30cm程ごそっと落ち、肝を冷やしてザイルを張る。だんだん行動も危うくなり、登り切った狭い場所にテントを張ろうかと野村が言うが、先の雪稜を越えて見に行くとまだましな場所なので整地してテントを張る。空洞があちこちに走っているので気を使う。視界が悪く、現在地がよくわからない。
 今日見えた大滝尾根、トサカ尾根はやはりえぐいものだった。初めのうちは晴れてうれしかったがすぐに予報通り雪となり、今日もしんどい一日。

12月26日 雪

 
 予定通りようやく沈。二人ともこれを待っていたフシがある。昨晩寝る前と本日2時頃テントラッセル。しかしこれはかなり早めの慎重な措置という感じで、引きつけて1回のラッセルでも十分だった。野村が風下側の雪を盛大に除雪してくれたおかげで吹き溜まらず。その後雪は積もらずラッセルなしで寝るが、夜半は風が強く不安になる。予報では、明日も冬型が続くようなことを言っている。

12月27日 曇り→晴れ
st 9:00 − Co1833JP 13:10 − ガンドウ尾根Co1990大滝尾根頭 16:10 (泊)
 
 今日は冬型が続くとの情報のため半ば沈に決めていたが、朝の高層・地上天気図、天気予報で2日後くらいに再び天候が悪化するとの話になり、(あまり気乗りしないが)出発せざるを得ないとの結論になり準備する。しかし、風、雪もほとんどなく、テントを出ると良い天気。視界が効き現在地がわかった。
 今日もラッセル。初めのリッジで雪庇が怖いので野村、岡田とザイルを連続。ブッシュ壁に突き当たり、ここからトップを行く野村がザイルを引きずっていく。ブッシュ登り及びラッセル。今日も鋸。急なところを左へ回り込んでいく。1ヶ所後続の岡田が登れず、ビレイしてもらう。苦しい登り。
 やがて傾斜が落ち、S字峡からの尾根と合流するJPもすぐとなる。ようやく安全圏が見えてきた。このあたりから、特に危険がなくなってくるので空身ラッセル(ビーコン)に入る。ブッシュもなく、上を目指して無心にラッセル。JPを越えても同じくビーコンで進み、大滝尾根頭付近で泊まる。今日はようやく良い天気の中を登れた。

12月28日 雪
st 8:00 − 南仙人山 12:00 − 仙人小屋 16:10 (泊)
 
 4時起床予定が寝過ごし5時半起床となり出発が遅れる。今日は晴れるとも思ったが朝から雪で、視界100mほど。出発してすぐに細いリッジの下りがあり、ワンポイントでザイルを張る。その後はひたすらビーコンでラッセル。トップがザイルを引きずる。視界の悪い中しばらくは雪庇にも気を使うが、そのうちそれもなくなりひたすらラッセル。雪は弱くなったり風が強くなったり、結局一日中降っている。
 仙人小屋は冬期は入れない。小屋の脇のちょっとした雪壁に穴を掘り半雪洞テントとした。風が当たらずこれは快適。しかし入口側から(奥も)どんどん埋まってくるので少々不安。キャラバンの「しょうが焼き肉丼」がうまく、久しぶりにどんどん飯を食えた。

12月29日 快晴
st 8:00 − 仙人山 11:00 − 池の平小屋 11:30 − Co約2400 16:20 (泊)
 
 起きるとド快晴。寒いので出発準備に手間取る。八ツ峰を割愛したことにより不要になった装備の一部を小屋建物にくくりつけデポする。
 今日もラッセル。100%ビーコンで進む。迫力の八ツ峰北面を左に見ながら、樹林の全くない広大な雪面を進む。そこそこ雪は降っていたはずなのに、八ツ峰はまだまだ黒い。滝ノ稜は、ドミノ岩先の核心部分は一応白く雪をまとっている。
 雲一つなく、写真を撮りながら進む。雪が重く全然進まない。池の平小屋を越えて池ノ平山への登りにかかってもラッセルの深さは相変わらず。日が陰ると寒くなってくる。一様な斜面が続き最後はやや焦って岩陰にテントを張ることに決め、寒く風が吹く中盛大に整地をする。野村が凍傷気味で、湯を沸かして足指を浸ける。

12月30日 快晴→曇り
st 7:50 − 池ノ平山 9:00 − 小窓 10:40 − 小窓頭付近 13:00
− 小窓王南壁基部 14:10 − 三ノ窓 14:40 − 池ノ谷乗越 16:20 (泊)
 
 今日も朝はスカッ晴れ。風もなく、景色は素晴らしい。今日もビーコンで進む。ピーク付近でラッセルは浅くなり、丸2日半に及ぶ空身ラッセル行動にようやく別れを告げる。ピーク付近は複雑な地形でどこが頂上かわかりにくい。しばらく稜線を歩き、まず1ヶ所目の懸垂。ブッシュ支点で25m1回。そこから上り下りし2ヶ所目。灌木で懸垂するが、結局計4回の懸垂でコルに降り立つ。5月の雪なら、全てクライムダウン及び登り返しも無理ではなさそう。コル付近に大きなクレバスがあり、はまる。
 ここから小窓頭へ向けての大登り。ワカンをはずす。ほぼ稜線上のルートを狙う。始めはドラッセル。一部クラストでフロントポイント登りとなりきつい。上部で小窓頭の左へうまくそれる。ここから2つポコを越えるが、これまたしんどい。急傾斜のクラストで足を休めることができず、ツァッケを立てていく。ダブルアックスで行けば楽になるところも多いが、アホなことに後生大事に運んできたバイルはザックの後ろ。足首が痛く、結構緊張する。
 小窓王南壁基部から少し下って残置ハーケンで懸垂。クライムダウンも可能。2P目は少し下ったところに残置支点がたくさんあるが、やり過ごしてクライムダウン。雪は堅く、残置ザイルも使いながら慎重に下る。
 次の悪天が間近に迫っていて下手をすれば明日から連沈の可能性もあるので、もうここで泊まってしまいたいという誘惑を払い、池ノ谷乗越へ向かって翌日午前中のワンチャンスに賭けてできるだけ前進することにする。もちろん池ノ谷乗越、あるいは本峰で連沈となる可能性もあったが、まあどこで閉じこめられても大して変わらんだろうと先へ進む。池ノ谷ガリーはカリカリで全く休めず、何度来ても(まだ2回目だが)たまらんしんどさ。遠く先行する野村を見ながら1時間半登り続ける。
 池ノ谷乗越は比較的狭く、テントは数張り程度可能。長次郎側に小さな雪庇ができ、雪の下にクレバスが隠れているので要注意。以外と風は弱く、快適な夜を過ごす。今日も野村は湯を沸かして足指の回復に努める。

12月31日 曇り→風雪→雨
st 6:40 − 長次郎コル 8:40 − 剣岳本峰 9:40 − Co2600(12:15〜40)
− 早月小屋(13:40〜50) − 馬場島 17:40 (泊)
 
 2つ玉低気圧の発生とその後冬型が決まることが報じられており、何とか今日中に安全圏に抜けたいと早起き。明けつつある彼方には海岸方面の街の灯りが見える。風はない。空はどんよりしているがこりゃラッキー、絶対逃げたると思う。
 コルからの出だし正面に2つのルンゼがあり、夏道は左側のルンゼだったような気がするが深いラッセル。ルンゼ間の堅い雪壁をスピーディにダブルアックスで抜ける。主稜線に出てから所々雪の深いところがある。ちょっとした岩を登るところも出てくるが基本的に真上を行く。長次郎頭手前で真上を通過不能で岩の左をトラバースするところは前回来たときと同じルート。狭いバンド状を回り込むところで雪の付き方が不安定でややこわ。「ザイルを張ろうぜ」と言うと、「わしが行く」とあっさり却下された。絶妙のトレースで、ノーザイルでOKだった。長次郎頭の懸垂ポイントは、左からのトラバースもできそうな感じの雪だったが、冒険することもないのでノーマルに懸垂する。残置シュリンゲがある。1回でコル。このあたりから雲がだんだん低くなり焦りが出てくる。思ったより天候悪化が早い。
 長次郎コルからの急登は、初めはステップが決まり良かったが、やはり例の塹壕掘りのような登りになる。ここを登り切りさらに少し登るとようやく、視界の落ちた本峰。お疲れさまと握手を交わす。低気圧でかなり状況は厳しくなっているが2人の経験を頼りに何とか下れるだろうと結論を下し先へ進む。風雪で何も見えなくなってしまうので俺は眼鏡を外し、フォローを野村に頼む。
 分岐点の立派な道標のあたりでうろうろし、さらに下ってようやくカニのハサミルンゼを見つけた。鎖をたどる。軟雪で悪く、バックステップ。野村のトレースをたどる。以後ずっと野村がリードし、離れ過ぎないように待っていてくれた。眼鏡を外すと足元がよく見えない。しばらく下って獅子頭トラバース。立派な鎖があるが、こんなに怖かったかと思う。分岐点近くで、この天候の中獅子頭の稜線を登っていく男女3人パーティがあり驚く(後に廣川Pと判明)。会話を交わす。そこから下はトレース、赤布がある。大助かりだ。軟雪で足元も見えないので、ちょっとした下りでもバックステップの連続となり大変。野村はどんどん先行する。烏帽子岩より下での下りも長くしんどい。4ヶ所ほど大きく下ったか。軟雪でしかも団子になり最悪。風雪が続き、目に直接あたって痛い。
 Co2600の手前のコルで野村と少し離れ、空と雪の区別が付かない状態で近い状態でトレースを求め歩いているといきなり右手の雪庇が崩壊し、びびる。寄り過ぎてしまった。Co2600に着いて何となく一安心して下り出すが様子がおかしい。右手に立派な尾根(早月)が見えるので登り返す。こんなところで間違えると思わなかったが地図を見て納得。Co2600より下でも引き続きバックステップを繰り返す羽目になったのは情けないが、今の視力、悪雪では致し方ない。Co2500位で名古屋山岳会がテント2張り。小屋が近くなるにつれ、湿雪気味になってくる。ようやく早月小屋到着。周りのテントは7〜8張り程か。皆今日行動しなかったと言うことは、登頂をほぼあきらめているのか。
 実は明日下山しても元旦には上市のタクシーは動かないことを知っており、大晦日小屋付近泊まり、元旦馬場島泊まりで2日に下山しようと打ち合わせていたのだが(元旦だと飯屋も開いてないし)、小屋の人に聞くと、金はかかるが富山から呼べばタクシーは来ると言う。それももっともな話で、野村の凍傷も気になるし、今日はがんばって馬場島の屋根の下で泊まろうとさらに下り出す。湿雪はどんどん雨へ。団子雪になってうっとうしいのでアイゼンをはずすがすぐに転ぶ。ワカンに変えたらやや快調になった。野村がストックを貸してくれてすごく助かる。全然休まずしんどく長い下り。松尾平付近でかなり暗くなってくる。松尾平は長い。末端の下り出すところで、トレースのない尾根に野村が確信を持って「これだ」というので下り出すがえらく急。登り返して様子を見ると、やはりトレース通りが正しく、下りの尾根までさらに歩く。
 暗くなってもヘドラを点けて視界を限定するより足元のぼんやりしたトレースを追う方が歩きやすそう。ようやく下りに入り、平地に降り立った時には歓声を上げる。
 県警へ出向き、茶、みかん、ビールを頂く。横断パーティは我々のみ。他の入山者もえらく少ない。暖かく乾いた部屋を物欲しげに見ながら何とかセンターの屋根の下にテントを張って、食いまくり、乾かしまくり。野村の足指に水泡ができている。

1月1日 雪
馬場島st 7:40 =(雪上車)= 伊折 8:00 =(車)= 上市駅 8:30頃
 
 下山はしたがそれでも今日は3時間ほどの歩きの予定。ぼちぼち支度をしていると、なんと警備隊の人が、雪上車が出るから早く支度しろと言う。あわてて荷物を雪上車に放り込み出発。すごいスピードで走っていく。あっと言う間に伊折着。ここで下からの交代隊員を乗せてきた警察の人のワゴン車に乗せてもらう。会話をしていると、警備隊の人は同時に剣を愛する一登山者でもあることを感じる。上市駅まで世話になる。
 上市で最後のパッキングをし富山へ。本当はここで盛大に食いまくりをしたかったが元旦ではそれもままならない。野村は早く医者へ行くため特急で帰るがあきらめきれない俺は一応街に出てみる。しかしやはり全然店は開いておらず、駅前の茶店風、ラーメン店、街中では吉野屋、モスバーガー、マクドしか空いてない。仕方なく、一人牛丼とドーナツで食いまくりを決行、特急で帰路についた。

<感想・反省等>

◇ 今回の山行は、計画段階から野村の意向を主体としたもので、リーダーも野村、現地での判断、指示も彼がリーダーシップをとり、こちらから意見がある場合のみ述べるというスタイルを通した。彼の力量を基本的に信頼しているからで、実際彼の判断の方が正しい局面も多かった。俺自身の山行としては物足りない面もあるが、パーティとしての意志決定、行動はスムーズで良かった。

◇ 滝ノ稜を割愛したことにより、純クライミング的要素はほとんどなくなったが、それでもアルパインクライミングを着実に実践している野村との行動力の差はいかんともしがたく、テクニカルな部分のトップはほとんど野村、ラッセルも大きく依存することになってしまった。これには、その方がスピーディに行動できるという、野村のリーダーとしての判断も含まれると思われる。

◇ 今回は天気図はほとんどとらず、その分の時間は行動に充ててきた。これは入山時から高層天気図、週間予想天気図などを持ち込んである程度の推移はわかっていたこともあり、また尾根ルートでは当日の視界以外に行動を止める理由がほとんどなく、長期的な判断を要するのは仙人小屋で予定通り上へ向かうかどうかだけだったためで、特に問題はなかった。
 ただし、年明けからの悪天が、多くのパーティの孤立を生むほど長引くものであることまでは把握できていなかった。

◇ ガンドウ尾根は悪くそしてしんどく、物好きの行く尾根だろう。

◇ 今回の荷物は出発時で27kgほど。ノンデポゆえこの程度は当然とも言えるが、久しくこんなに持つことはなく、クライミング以前の問題として、これをかついでのラッセル、ヤブこぎだけできつかった。このあたりは出発前からある程度想像されたことだったが、後半部が逃げを打てる計画だったため、何が何でも計画貫徹という強固な意志を持って臨んだ訳ではなく、苦しくなれば現場対応というつもりで入山した。野村は、エイドなどでの入山ではそれくらいは担ぐので重さ自体はどうということはないとのことだった。
(岡田 記)