山行報告　（２０００年　８月中旬　大峰山系・芦廼瀬川本流）

「焼�ｰノ淵にて」 （淵を泳ぎ、斜瀑側壁に取り付く）

昨年の夏、かつての相棒ＫＹＯの誘いに応じて十数年ぶりに沢登りに復帰した僕は、彼とともに比良山系西面の沢を訪ね、水流と戯れた。そして、秋の足音が感じられる九月中旬、昨年の目標であった八幡谷を完登したとき、翌年の夏の目標を決めた。 「来年はＧＷ明けからトレーニングをはじめて、台高大峰のどこかの沢に行こうや」 　この言葉を最後に僕たちは別れ、僕はその冬、再びひとりで冬山にもがきに行った。 　でも、こんな漠然とした目標ではあったが、僕たちはその約束を忘れない。今年のＧＷ明けから、僕たちはこの言葉通り、ホームゲレンデである比良山系でトレーニングをはじめた。白滝谷（１級）にはじまり、三舞谷（２級）、猪谷（３級）、奥ノ深谷（２級）、そして荒谷（２級）を登った。ほとんど隔週末のようにこれらの沢に通い詰め、それなりの手応えを感じはじめていた。そんななかで今年の夏の目標として浮かび上がってきたのが大峰山系芦廼瀬川本流（４級）だ。沢中１泊は必須、比良山系とちがって、スケールが大きい。淵は深く大きく泳ぎは必須、滝も高さこそないものの難しい登攀が強いられるという。 　僕たちはたがいの家族を懐柔しつつ（ごめん！）、休暇の予定を調整して、計画を決めた。予備日を含めて二泊三日が必要だ。八月中旬の週末に決定。ここがピンポイントだった。ここ以外では、ふたりの休暇予定が合うところはなかった。 　しかし、その週末を狙いすましたかのように台風９号が接近してきた。入渓前日午後、台風は紀伊半島潮岬沖３００ｋｍにまで接近、速度を速めながら北へ進むという。芦廼瀬川は奈良県南部十津川村にある。下手をすると台風の影響をまともに食らう、いや、その進路上になるかもしれない。 　僕たちは初日に核心部を抜けてしまうべくとにかく出発を決め、仕事を終えたその夜、京都を出発したのだが…。 　８／１２（土）０１：００ＡＭ　芦廼瀬林道終点 　京都から約４時間半、奈良県十津川村の芦廼瀬林道終点に到着。ちょうどお盆ということもあって交通渋滞を予測していたが、意外とすんなり到着。十津川村までの国道１６８号は交通量も多かったが、滝集落で国道４２５号に入ると他の交通はなくなった。断崖沿いに細く伸びる真っ暗な国道をたどり、上小川集落から芦廼瀬林道に入る。林道終点直前で大きな落石に行く手を遮られる。断崖の迫る真っ暗な狭い林道上で必死に切り返し、何とか車を方向転換。落石を避けて駐車。ほかに入山者はいないようだ。 　満月を過ぎた月が中天にかかる。晴れているようだ。この分だと明日は何とかなるか。 　翌朝のことを考えてすぐにも寝るべきだったのだろうが、車のなかでビールを飲みながらＫＹＯと話す。彼とふたりっきりで話すのも本当に久しぶりだ。話題が尽きない。ビールがなくなると、案の定、ウイスキーがどこからともなく登場した。午前２時をまわると、さすがに翌日のことが気になり、楽しい時間を打ち切り、寝ることにする。 　８／１２（土）０７：３０ＡＭ　台風の風雨のなか、突入！ 　あたりの明るさにふと眼が覚める。午前６時半だ。いかんいかん、寝過ごした。とは言っても、４時間程度しか眠っていない。心なしか、昨夜の酒も残っているような気もする。やれやれ。相変わらず、入山初日は二日酔いのスタートか。 　空模様をうかがうと曇り空。風が強く、雲の去来が激しい。あれ、雨が降りそうやないか。こりゃ、まずい、早よ、出発せな。 　まだ眠っている身体を無理矢理起こし、出発準備。 　ところが、突然、激しい雨が降りはじめる。台風の影響だ。僕たちは呆然と空を見上げる。あ〜、これで何もかもおじゃんだ。ここまでトレーニングを重ねてきたことも、何もかも。ふたりで顔を見合わせる。言葉に出さずともわかる、相手が何を考えているか。これだけ一緒に登ってきたんだから。 「あきませんな」 「ああ、こりゃ、無理だな」 「も一回、寝直しまひょか」 「うん…」 　だめとわかっていながらも、まだ踏ん切りがつかず、態度が煮え切らない。 　あたりに店開きした装備を片づけて、車のなかで恨めしげに空を見やる。 「これで帰るのも何やから、ちょっとだけ水を触りに行きましょか」 「そうやな…」 　僕たちは小雨のなか、林道終点にある七泰ダムへ歩き、川原に下りる。美しい水流だ。しかもスケールがでかい。ふと見ると、何か動物の脊椎が横たわっている。イノシシなのか、シカなのか。どこかで生命が燃え尽きて、ここまで流されてきたのか。 　空を見上げれば、激しい雲の流れ。そして、一瞬の青空を見る。いつのまにか雨は止んでいる。僕たちは顔を見合わせる。以心伝心、相手の思いは顔を見ればわかる。 「行きましょか」 「ああ、この様子だとまとまった雨はまだ先だな。今日中に核心部を抜けよう」 「撤退するのでも、ザイルがあるから何とかなるでしょ」 「よっしゃ、突入や！」 　手早く、出発準備。そして、午前七時半、僕たちは小雨のなか、芦廼瀬川に突入した。 　８／１２（土）１０：００ＡＭ　核心部、焼�ｰノ淵へ！ 　 さすがの芦廼瀬川も穏やかな川原歩きからはじまる。そうは言ってもスケールはやはりでかい。淵は深く、ちょっとした徒渉でもすぐに腰まで潜ってしまうし、巨岩がごろごろと堆積しているさまは壮観だ。七泰ノ滝は右岸から難なく高巻き、槇ノ滝は左岸の悪い草付きを高巻く。この辺りには修験僧でも入るのだろうか、高巻きルートには太い鉄製のクサビが打ち込まれ、錆び付いた古い鎖がかけられていた。このあとも、取り立てて難しいところもなく、そうかと言って易しいわけでもなく、心地よい緊張を感じつつ、奥へ奥へと踏み込んでいく。 　右岸に大きな岩壁を見ながら進む。おそらくこれが百間�ｰと呼ばれる大岩壁だ。ここから先は深いゴルジュ状となり、深い淵が連続する。腰までの徒渉を繰り返し、幾度か泳ぐ。ヒイラギ大淵は気付かぬままに通過、右岸から高さ４０ｍほどの立派な滝がかかってくる。おそらくこれが上竜宮谷だろう。すると、この先から芦廼瀬川の核心部がはじまる。まずは２００ｍの大瀞と言われる焼�ｰノ淵のだ。しかし…。かつては深々とした豊かな水量をたたえていたのだろう。しかし、今ではこの淵も半ば土石で埋まり、ほぼ腰までの深さとなっていた。泳ぎはほんのわずかな距離だ。十数年前にここを訪れたことのあるＫＹＯはしきりに残念がる。けれど、いずれ山々は削られて平原に還るのだ。 　ここを通過すると、深い釜を従えた滝が現れた。両岸ともに切り立っている。当然、高巻きなど不可能だ。高巻きをするつもりなら、焼�ｰノ淵の手前から大きく高巻かなければいけないが、それではここの魅力は半減以下だ。僕たちは最初から当然、直登を狙っている。さて、左岸から行くか、右岸から行くか。どちらにしても泳いで（泣）取り付かにゃならんが。手前の川原でしばし休憩を取りながら考える。 　でも、これが不安に駆られ、緊張しつつもいちばん楽しいひとときだ。沢登り（に限らないけれど）の醍醐味はこのルートファインディングだ。相手の弱点を探り、そこを攻めるのだ。 「前のときは、左岸から行ったような気がしますわ。あのときはけっこうシブかった… 「いや、右岸のスラブは見たほどの傾斜はなさそうやで？」 「そうですな…。ほな、まずこっちから攻めましょか」 　登攀隊長のＫＹＯがザイルを付けて、泳ぎはじめる。いちばん懸念していた側壁の立ち上がりでは、水中にスタンスがあって難なく壁に取り付くことができる。終了点にハーケンを打ち確保支点を取ったところで、僕が泳ぎ、そして登る。 　ここからしばらくは深い淵を繰り返す。へつり、高巻き、様々な手段を講じようとするが、悪足掻きに等しい。もう選択の余地はないのだ。ただひたすらに泳げ、泳げ！ 　なおも泳いで行くと、前方にすさまじい瀑流の渦巻く直瀑が現れた。お〜、いったいここはどうやって登るねん？ 　手前の釜は深く、激しい流れが渦巻いていた。深いゴルジュのなか、逃げようがない。右岸をのぞき込むとまったくの垂壁。まったく問題にもならない。それじゃ、左岸か？　例によって弱点探しがはじまる。 「たぶんね、泳いであそこに取り付くんですわ」 「あん？　この逆流を泳ぐんか？」 「うん、たぶん、ここや。思い出したわ。あそこで石井（秀行）が落ちてあの滝から脱出できずにもがいとったんや」 　ＫＹＯがルートを指さして示す。 「けど、ほれ、あそこに残置スリングがあるで？」 　僕は左岸の凹角に残された青いスリングを指さす。あの凹角ならば泳がなくても取り付けるからだ。泳ぎが苦手な僕は極力泳ぎを回避したい。ちょっとハング気味だが、あの凹角を強引に抜ければ、その上部のバンドに出られる。 「でも、あのバンドに抜けてから、滝への下りが悪そうやから、やっぱりこっちですわ」 　さまざまに議論したあと、ＫＹＯの結論に落ち着く。 　ザイルを付けて、瀑流にＫＹＯが飛び込む。逆巻く流れをものともせずに泳ぎ切り、岩に取り付…けない。立ち上がりがすごく悪いのだ。それでも強引に身体をせり上げ、濡れて滑りやすい逆層の壁を登る。３ｍほど上がり小さなテラスに立ったところで、こちらを振り返る。 「じゃ、ここでビレイを取りますわ！」 「了解！」 　すさまじい轟音のなか、大声でのやりとり。 「いいぞぉ、ほな、きてください！」 　へいへい、行きまっせ！　覚悟を決めて、しずしずと水流のなかに身を沈める。 　しかし、僕の下手くそな泳ぎでは歯が立たない（泣）　横泳ぎは得意なんだが平泳ぎが苦手。ザックを背負っていると横泳ぎができんのだ。しかし、そのうちに快調に進みはじめる。お〜、僕の泳ぎも大したものだ、なんて、絶対に思わない。何のことはない、ＫＹＯがザイルを引っ張ってくれているだけだ（笑） 　せっかく引っ張ってはくれたが、やっぱ、この立ち上がりは悪い。水中にスタンスがないから、腕力でせりあがらないとだめだ。よれよれになってＫＹＯの待つ狭いテラスに這い上がる。 　ここからも悪い。再び、ＫＹＯがトップで登るが相当シブっている。右手のクラックにはハーケンが連打されている。残置スリングもある。しかし、とにかく悪い。ＫＹＯの記憶でも、これほど悪かったはずはない、という。自嘲気味に、技術が落ちたのかな、とも言っていたが。しかし、僕が思うにこの降り続く雨のせいもあると思う。ここは滝のしぶきがかかるところではない。だから普通はもっと乾いているのだ。でも、今日の雨で、ここはぬるぬるの足場になってしまっている。 　テラスからの第一歩、アブミを使ってせり上がり、その上の残置スリングをアブミ代わりにさらにせり上がる。その先で行き詰まり、数分を費やす。 「あかん、ハーケン一本、残置するわ」 　ＫＹＯの声が頭上から降ってくる。 　打ち足したハーケンにさらにアブミをかけてようやく突破。 「ザイル、あと何ｍある？」 「あと７ｍや！」 「これ以上は伸ばせへんから、ここでビレイを取るわ！」 「了解！」 　続いて、僕が登る。ほんま、悪い。まあ、フォローの気楽さで登れるけど、トップは怖いで？　残置ハーケンはぐらぐら。ちょっとした衝撃で抜けそうだ。もしも落ちたら、下は瀑流渦巻く深い釜。あの流れから脱出できるものかどうか。 　アブミを回収しつつ登り、そこからのトラバースはそのまま僕がトップで行き、ザイルがいっぱいに伸びきったところで、ようやく細い灌木の根元に気休め程度のビレイを取る。 　ここがいちばん難しかった。それだけに登攀の邪魔になるカメラをザックのなかにしまってしまい、この登攀状況を記録できなかったのはちと残念（そんな余裕なんてなかったってば） 　右岸から２０ｍほどの滝が降り注ぐ。ここが焼�ｰノ滝のほぼ終了点だ。 　核心部、焼�ｰノ淵を通過、午後１時過ぎ。 　８／１２（土）０４：２０ＰＭ　狼返しの滝 　核心部を抜けてしまうと、僕たちの気持ちにも余裕が生まれる。しかし、まだまだ芦廼瀬川は手を抜かない。いくつもの泳ぎを用意し、あるいは美しい風景を見せてくれて、僕たちを飽きさせない。 　小雨が降り続く。沢のなかではあまり感じないが、かなり強い風が吹き荒れているようだ。時折、木の葉が激しく風に舞う。ふと見上げると、はるかな岩壁の梢が強風に翻弄されているのが見える。やはり、台風が近づいているのか。 　両岸ともに穏やかな様相となり、どこでも幕営は可能だ。でも、台風が近づいているのなら、少しでも遡行終了点に近づき、安全地帯に逃げ込みたい。だから、僕たちは暗くなるまで行動するつもりだった。 　穏やかな流れに引き続き、深い淵が連続して、突然、滝が現れ、僕たちの行く手を閉ざす。 　後でわかったのだが、これが狼返しの滝だった。 　例によって、弱点探し。日没近く、雨にも濡れ、疲れ切ったこの時間帯、できることなら泳ぎたくはない。 　うん、右岸がこの滝の弱点だ。右岸から水際を慎重にへつりながら登り、釜の縁に降り立つ。 　ここを過ぎると、突然、前方に堰堤が見える。 　あれ、もう堰堤じゃないか！　ここまできて、ようやく先ほどの滝が狼返しの滝だと知る。 　堰堤の左岸を高巻いて越える。もう安全地帯だ。 　時刻はもう午後５時に近い。そろそろ行動終了の時間だ。天候は相変わらずしょぼくれた雨。全身びしょぬれだ。幕営装備はツエルト１枚しかない。この分だと、全身濡れネズミのビバークとなりそうだ。まあ、これはこれでやむを得まい。もともと覚悟はしていたことだ。 　穏やかな川原にツエルトと倒木を利用して、ツエルトを張り終える。これが今宵の宿だ。安眠できるかどうかは別にして。いや、きっと安眠できるだろう、何せ、昨夜は４時間しか寝ていない。そして、今日は、朝から１０時間近い連続行動だったのだ。 　僕たちは黙々と幕営準備を終え、夕食の支度にかかる。本当は盛大なたき火を予定していたのだけれど、この雨だ、乾いた薪は手に入らない。それに僕たちの疲労も限界に近い。 　ここまで持って上がった缶ビールでささやかに乾杯。たがいの労をねぎらう。 　雨は強く、食事の後はツエルトのなかで酒を飲む。それぞれの好きな酒。僕はウイスキー、ＫＹＯは泡盛。疲れと酔いが限界に達し、午後８時過ぎ、ふたりとも眠る。びしょぬれのウエアを身につけたまま、びしょぬれのシュラフで。 　８／１３（日）０７：００ＡＭ　ビバーク地を出発 　夜中に何度か眼を覚ました。そのたびに耳を澄まし、ツエルトを打つ雨の音、間断なく聞こえ続けるせせらぎに注意を向ける。雨は激しくなっていないか。沢音に増水の気配はないか。もちろん、僕たちがツエルトを張った場所は、増水の危険が少ないところを選んだつもりだ、それでも、自然界に「絶対安全」はありえないのは確かなことだ。 　雨はしとしとと降り続く。防水性のないツエルトはこの雨を完全に防ぎきれない。僕たちのシュラフはもうびしょぬれだ。それでもまだシュラフにくるまっている方が温かい。身体の痛みで眼を覚まし、ひたすら朝の訪れを待ち望む。 　午前５時半、起床。知らないうちに雨は上がったようだ。まだ眠り足りない身体を無理矢理起こし、ツエルトの外に出る。雲の去来が激しいけれど、時々、青空も見える。その青空が徐々に広がっていく。あれ、台風は遠ざかっているのか。 　さわやかな朝の大気のなかで、朝食の支度。それと並行して幕営の撤収。無言のうちに手分けして僕たちはそれぞれのつとめを果たす。食事の後、のんびりとお茶を飲みながら、出発の準備。 　午前７時、出発する。 　出発していきなり、胸まで浸かる徒渉だ。やれやれ、いきなりか。文句を言いながら、キリッと冷たい沢水に浸かる。ここからいくつか深い淵が連続する。狼淵だ。 　やはり、芦廼瀬川は最後まで気が抜けない。この狼淵をを抜けたらもう終わりだろう、と思いきや、モチ谷出合の先で、またまたこんな深い瀞を用意していたりする。ほんと、最後の最後まで楽しませてくれる沢だ。 　このあとは朝霧の漂う穏やかな源流を、のんびりと登りつめる。 　午前８時過ぎ、左岸に林道を認め、遡行終了。 　こうして僕たちは今年の夏の目標だった芦廼瀬川本を完登、この夏を終えた。 　終わってみると、実に１年越しの計画だった。この間、ＫＹＯも僕も、よくモチベーションを失わずにトレーニングを重ねてきたものだと思う。これは自画自賛だ。来年はもっともっと大峰・台高に足を踏み入れるだろう。これは僕たちの予感であると同時に熱い思いでもある。 　この芦廼瀬川遡行を通して、ＫＹＯも僕もトレーニング不足を悟った。今から来年の沢登りに向けて、地道なトレーニングを重ねよう。さしあたっては、まず、今年の目標でもあった貫井谷だ。ここは、ＫＹＯに頼るばかりでなく、僕もトップでザイルを伸ばしていこう。そのささやかな経験がきっと来年の糧になるだろうから。 ＜参考＞ 　遡行終了点から林道に出ると、炎天下の地獄の林道歩きが待っていた。 　Ｒ４２５号を通る車のヒッチハイクを期待していたが、この先の白谷トンネルが工事のため通行止めだという。それじゃ、通りかかる車なんか、あれへんやんか！　僕たちはラジオで高校野球を聴きながら、無感覚で歩き下る。今度、もしもここにくることがあったら、折り畳み式の自転車を終了点近くにデポすべきやな、と意見が一致。 　今度、ここに向かわれる方、これは必須ですよ。車が二台あるならいいけどね。 ＜余談＞ 　帰りの林道では灼熱地獄。水なんぞ、どこにでも流れておるわい、と高をくくっていたものの、水などどこにもなし。ようやくザレ谷で水を汲む。ここで何気に路上に視線を落とした僕は、白いものを拾う。 「あれ、何や、これ…。シカの角やないか！」 　正確には、どうやらそれはニホンカモシカの角。近くにもう片方が落ちていた。出発の朝に見つけた動物の脊椎といい、今回のカモシカの角といい、山深さのなかに生命の輪廻を見た一瞬だった。