●自分の好きなスパイ小説、スパイ映画について少し紹介してみよう。
その1 スパイ小説
 自分は007シリーズはあまりにヒーローっぽくって好きではないので、読んでいない。紹介するのはハードボイルドの巨匠「ハドリー・チェイス」の『プレイボーイスパイ1』。これはシリーズ物になっていて、他に『〜2』と『〜3』がある。内容は…以前CIAに籍を置いていたが、今は一匹狼のスパイ「マーク・ガーランド」の活躍をハードに描いている。
何も知らされずに、金のために敵地へ飛ばされたり、+++++++++++++++++、という本編は、一気に読める。主人公がプレイボーイというところは007に近い物があるが、話自体は格段に面白い!
「チェイス」の作品でこの他にオススメという作品は『悪女イブ』『ミス・ブランディッシの蘭』『ある晴れた朝突然に』『あぶく銭は身につかない』等だが、今はほとんどが絶版で探すのが一苦労…。
http://homepage1.nifty.com/ta/sfc/chase.htm

 次に「ジョン・バカン」の『39階段』。主人公の「リチャード・ハネー」が恐るべき国際スパイ団の陰謀に巻き込まれる、地味だがそこがまたイイ作品。“三十九階段”という謎の言葉を手がかりに、その陰謀を阻止しようとスパイ団の魔手から逃れ、事件を解決していく。ここに出てくるスパイは非常に現実的だ。文庫本で170P弱なのに物語の展開が軽快で、読み応え十分!この『39階段』はヒッチコックが『三十九夜』(邦題)というタイトルで映画化している。
http://www.geisya.or.jp/~waruwaru/TORU/BackNumber/39STEPS1.htm



 そしてこれもヒッチが映画化した作品で、「サマセット・モーム」のその名も『秘密諜報部員』! 短編集だが、主人公はアシェンデンで統一している。内容は「サマセット・モーム」自身が体験したことを素朴に書き上げたもの。普通スパイ小説というと、非常な任務や波瀾万丈、神出鬼没的なものが多いが、これは違っていて、スパイ活動をうまくやりとげても誰からも感謝されず、窮地に陥っても誰も助けてくれない…という硬派な作品。これもヒッチコックが『間諜最後の日』として映画化している。
http://moutoku3594.web.infoseek.co.jp/408-2-5wsomersetmaugham.html

 最後は、いろいろな作家の作品を集めた短編集『スパイ入門』。これは「グレアム・グリーン&ヒュー・グリーン」が編集し、もちろん「ゲレアム・グリーン」の作品も納めてある。「ジョン・バカン」「サマセット・モーム」「エリック・アンブラー」「ウィリアム・ル・キュー」とそうそうたるメンバーで、これぞ本物のスパイ!と言いたくなるような作品ばかり。派手目を好まない(ワタシもそうだが)方にはオススメの一冊。
http://homepage2.nifty.com/te2/b/b042.htm#b10757

その2 スパイ映画
 スパイ映画と言えば有名なのは小説と同じく007シリーズ。スーパーヒーロー007の活躍はそれはそれで面白いが、「味」が無いように思える。では、「味」があるスパイ映画とは…ワタシはヒッチコックの映画をオススメする!!
サスペンスの神様「ヒッチコック」の作品の中にスパイ物と呼ばれる作品は少なくない。リストアップしてみると…
 ●暗殺者の家
 ●三十九夜
 ●間諜最後の日
 ●バルカン超特急
 ●海外特派員
 ●汚名
 ●知りすぎていた男
 ●北北西に進路を取れ
 ●引き裂かれたカーテン
 ●トパーズ
と、10本ばかりあり、他に工作員を扱った作品が二本ある…
 ●サボタージュ
 ●逃走迷路
ヒッチコック作品、全53本中これだけのスパイ物があるのだ。どの作品も面白いが、特に『海外特派員』は名作!

◆第二次世界大戦直前のヨーロッパ。仕事でヨーロッパに派遣され、オランダの大物政治家の暗殺を目撃してしまったアメリカ人の海外特派員は、それをきっかけに予期せぬ陰謀にまきこまれてゆく…。

ヒッチ独特のカメラワークやプロットの数々は見物!
http://homepage2.nifty.com/e-tedukuri/FOREIGN%20CORRESPONDENT.htm

『暗殺者の家』は1956年に『知りすぎていた男』として自らリメイクしている。

◆某国首相を暗殺しようとする国際陰謀団の陰謀に巻き込まれ、娘を誘拐された夫婦がその犯人を追う。そしてだんだんと組織の計画がハッキリしてきて…。

 シンバルに合わせて狙撃するというアイデア、そしてそのシンバルが曲のどのあたりで鳴るかとスパイが確認するシーン。こういった細かい演出がサスペンスを盛り上げてくれるのだ!

 小説のところでも書いた『三十九夜』『間諜最後の日』。あの有名な『北北西に進路を取れ』の元になったのが『三十九夜』と言われている。『三十九夜』も『北北西に進路を取れ』も「巻き込まれ型」と呼ばれる、ヒッチがよく使うパターンだが、思うにその方が感情移入させやすいと考えたからなのではないか?

※『三十九夜』という邦題は『三十九階段』より“それらしい”ということで、日本で勝手につけた。

 一方『間諜最後の日』はスパイが主人公になっている。この主人公「アシェンデン」は敵のスパイと間違えて無実のイギリス人を殺してしまう。悩んでいるところへ新しい情報が入り敵の本拠地へ向かうが…という内容。007やナポレオン・ソロみたいな現実からかけ離れているフィクションではなく、人間くささが漂うスパイ映画に仕上がっている。

 『バルカン超特急』は『海外特派員』と列ぶ名作であろう。列車を使ったサスペンスだが、同じようなシチュエーションの映画の中ではトップクラスではないだろうか?

◆休暇旅行の帰り、主人公「アイリス」は車中で陽気な老婦人「ミス・フロイ」と親しくなる。しかし、突然姿を消す「ミス・フロイ」アイリスは乗客を訪ねて回るのだが、誰もそんな老婦人は知らないと言う。アイリスは知らない間にスパイ戦に巻き込まれていたのだ!

 ヒッチはこれをロケをせず、セット、スクリーンプロセス、ミニチュアだけで撮影。しかし作品はそんな事は感じさせず、スケールの大きい名作に仕上がっている!

 『汚名』は主演(「イングリット・バーグマン」「ケイリー・グラント」)を見てわかる通り、スパイをからませたロマンチックスリラー映画だ。物語の素材として、原爆を作るのに必要なウラニウムを使っているが、これは広島に原爆が投下される以前の事だったというのも先見の明があって面白い。

 『北北西に進路を取れ』だが、これは知っての通りの名作。一難去ってまた一難、誘拐、脅迫、人違い、殺人容疑とあらゆる災難を一身に背負った「ロジャー」は敵の正体を暴くより他に逃げ道はないと知り、単身スパイ団に立ち向かっていくという、巻き込まれ型のお手本みたいな、娯楽作品。ラシュモア山のシーンは手に汗握ります!

 『引き裂かれたカーテン』『トパーズ』は話しが入り組んでいて、ヒッチっぽくない。シーン毎では目を引くものがあるが、全体の完成度は他の作品と比べるといまひとつ…。

 『サボタージュ』『逃走迷路』の2作品はそれぞれ面白く、『サボタージュ』は主人公のヒロインが殺人を犯してしまう。これは1929年の『ゆすり』(ヒッチコック作品)と似ていて、ほかにも凶器であるナイフの扱いや、ヒロインが殺人の罪を逃れる設定など、共通点も多い。
『逃走迷路』は全く違って、『北北西に進路を取れ』的作品だ。犯人と間違えられた男が、真犯人を追いかけて様々な場所を移動しながらラストへと引っ張っていく。この辺りはヒッチの十八番。自由の女神のシーンが印象的だ。主人公のキャスティングに難があるものの、見せ場が多いので非常に楽しめる作品。

◆まとめ
 以上で、短いながらスパイ物の小説と映画について書かせてもらった。結果、小説は「チェイス」、映画は「ヒッチコック」ということになる(笑)! 絵はむかーーし描いた同人誌に載せたモノで、文章はそれを元に修正している。