おそるべきもなか
 
りたーん
 

 
恐るべき最中
給食・・・
給食の味を忘れて久しい。
あなたは給食は好きでしたか?
私は嫌いだった。
小学2年の頃、給食が嫌いで嫌いで4時間目になると腹がいたくなるという
精神性の胃痛にみまわれたりもした。
あるいはコッペパンが嫌いで机の中に押し込み、その事実を忘れていた学期末に
かびたパンとご対面、という事があったりもした。
私は机の中を片づけないアウトローな男だったのだ。
 
そんな私だったが、味覚の変化の為かいつしか給食が好きになり始めていた。
そして小学四年になる頃には「ハイエナ軍団」の一員となっていた。
 
 「ハイエナ軍団」とは?
 給食は大抵、人数より大目に作られる。
 故に余剰分が発生し、それが人気メニューともなると争奪戦が展開された。
 しかし、嫌いなものを残しておきながら、余剰分に手を出す不届き者が現れた為、
 クラス内で掟が作られた。
 「余剰分を食すにはまず、己に配られた分を全て食す事。」
 掟は厳格に守られた。
 己に配られた給食を全て食べる事が出来たのは一部の人間だけだった。
 それは選ばれた民、イノセントである。
 いつしか他のものは尊敬と妬みを込めて、イノセントを「ハイエナ軍団」と呼ぶようになった。

「ようやく俺もハイエナ道が身についてきたな」
そんな思いを感じ始めていた小学四年の夏頃に奴は現れた。
私は今でもあの日の事は忘れない・・・

給食班が配膳室からがしゃがしゃと給食を運んできた。
ハイエナ軍団の目が光る。
「今日は何かな?」
「ん?冷凍たっぱがあるぞ!」
「また冷凍みかんか?」
「イマイチだな。」
好き勝手言っているうちに給食が配られる。
「うおおおおっ!!」
クラス中がどよめいた。
なんと冷凍たっぱに入っていたのはアイス最中だった!!
プリンやココア、ミルメークは今までにも出てきたが、アイス最中は初めて見るメニューだった!!
皆が歓喜した!!
「いたーだきーますっ!!」
大勢の者達がさっそく、アイス最中にかぶりついた。
によ~ん・・・
「うわ~!!これアイスじゃねぇ!!
 納豆だ!!」
「何~!!」
何とそれは、アイス最中ではなく、アイスの代りにぎっしりと納豆が詰っている冷凍納豆最中だったのだ!!
糸を引く最中!!
教室中の充満する納豆のにおい!!
「うぎゃ~!!」
教室は一変、阿鼻叫喚地獄と化した!!
・・・
・・

 
嵐の後には静けさだけが残った。
皆、静かに給食を食べていた。
ハイエナ軍団もこの時ばかりはおとなしく食べていた。
もくもくと。
もくもくと・・・
 
ドウシテアイスジャナインダロウ?
ドウシテナットウナンダロウ?
アイスカトオモッタライトヲヒクンダヨ?
ムアットニオウンダヨ?
ボクタチハダマサレタンダ・・・
 
私達の心は深く、そして静かに傷ついていた。
目の前に転がるアイスの皮をかぶった納豆が憎かった・・・
 



 
 りたーん