『ロマンシング サ・ガ 3 in 江戸』 by プランチャ  もしもロマサガ3のキャラクターを時代劇の世界に置き換えたらどうなるだろう? そんな考えが筆者の頭に浮かんだのは、ヤーマスでの怪傑ロビンをめぐる一連のイベ ントを見ている時だった。  このイベントは随所で「時代劇テイスト」ともいうべきものを感じさせる。病気で 寝ている貧しい老人の布団をはがそうとする悪徳商人の手先。それを阻止する覆面の 正義漢。ドフォーレ商会が助っ人のモンスターを呼んでくる時の「先生方、お願いし ますよ」という台詞など、そのまんま時代劇のパロディだ。  もしこれがFFシリーズや聖剣伝説シリーズなら「ふざけている」とか「安易だ」 とか非難を浴びそうだが、ロマサガだと違和感なくはまってしまうから不思議だ。  そういえば、ミカエルのテーマは「水戸黄門」の有名なテーマ曲に似ている。でも ミカエル様は現役ばりばりの君主だから、水戸黄門になぞらえるのは少々シブすぎる。 (水戸黄門+暴れん坊将軍)÷2というところだろう。  影武者に日常の業務を任せて領内を見回る彼を陰から見守っているのが、くのいち カタリナ。ある時は小間物商に変装して町で情報収集し、またある時は黒装束で武家 屋敷の天井裏に忍びこみ、下での密談に耳を澄ます。気配を察した悪いやつが天井に 向けて突き刺した槍の穂先を、危ういところでかわすなんていうのは日常茶飯事だ。 もちろん、温泉での入浴シーンも欠かせない。  兄思いのお姫様のモニカは、ゲームの設定のままで通用する。悪いやつに帯を引っ ぱられ、「あ〜〜〜れ〜〜〜っ」と叫びながらくるくる回転する役がもっとも似合い そうなのが彼女だ。  下々の者たる他のメインキャラクターはどうだろう。まず、我らがユリアンは町奴 の「百合蔵」。そして百合蔵が思いを寄せるのが、同じ「しのん長屋」に暮らす幼な じみの「おレンちゃん」だ。  美人で腕っぷしの強いおレンちゃんは、百合蔵が町で武家の不良息子一味とトラブ ルを起こし、袋叩きにされているところを助けたりする役回りがふさわしい。彼女は 生粋の江戸っ子で、喧嘩と花火とお祭りをこよなく愛しており、お御輿がいつでもか つげるように常時はっぴを着用している。好きな異性のタイプは「自分よりも強い人」 彼女の妹が町娘の「お沙羅ちゃん」であることは言うまでもない。  トーマスはやはり商人の息子だろうか。彼は商いの道を学ぶための修行の旅に出て、 途中長崎に立ち寄る。そして、かつて聖王が水妖「ふぉるねうす」に対抗するため、 町一個を改造して作ったのが出島だという事実を知り…(以下省略)  百合蔵たちがたまり場にしている酒場にある日ふらりと姿を現わすのは、着流し姿 の謎の異国人、「竜巻三十郎」ことハリード。実は波斯国=ペルシャの王族の一員だ が、ティベリウスの率いる十字軍(レコンキスタですね)によって故郷を奪われ、シ ルクロードを経由して遥か極東にまで流れてきた。奇妙な形の剣から繰り出す剣法は 誰にも見切ることができない…とここまで書くとちょっとかっこよすぎるか。彼は北 方を目指しているが、それはランスならぬ奥州平泉に「聖王廟」を見物しに行くため なのだ。  サブキャラクターの皆さんも忘れてはいけない。  ウォードは南蛮渡来の「さんぐらす」と2メートル、否、七尺の赤ふんどしがトレ ードマークのかぶき者。いつも刃物を持ち歩いている物騒なお兄さんだ。  タチアナはゲームそのままの家出娘で良いとして、複数ある偽名は、時代劇でもお 菓子の名前だろうか。そうすると、「あんみつ」とか「ようかん」とか「おだんご」 とか名乗るのだろうか?それはそれで可愛いが。  伊豆の湯治場(どうして伊豆かって?江戸時代のリゾート地→伊豆の温泉という発 想です)で日がな一日海を眺めて暮らしている白髪の男「浜蔵」、その正体はかつて 瀬戸内海を荒した海賊「鉄(くろがね)の与一」。  「詩人」(固有名詞)は平家物語ならぬ聖王記を語る琵琶法師だ。歌があまりにう まいので聖王にあの世に連れていかれそうになり、全身にお経を書いて難を逃れた経 験があるというのが自慢。  傘張り浪人のシャールは、非業の死を遂げたかつての主君の令嬢を守って暮らして いる。彼女、「お美夕さん」は病弱で床に伏していることが多い。彼らの話相手は、 もっぱら近所の子供たちだ。裏長屋でひっそりと暮らす二人の間には、日夜こんな会 話が交わされている。     舎里之介「お美夕さま、お粥ができましたよ」     お美夕 「ごめんなさいね、私の体が弱いばかりに…」     舎里之介「…それは言わない約束でしょう」  一本の古井戸を境に北と南に分断された「もうぜす長屋」では、水芸の一座の女座 長ウンディーネと火吹き芸人ボルカノが対立している。主人公はわざと双方から、相 手を殺せという依頼を受けて……ん?どこかで似たような話を聞いたと思ったら、黒 澤監督の「用心棒」だ。  レオニード伯爵は古い山寺に住む美形の吸血妖怪「獅子之丞」。六百年もの歳月を 生きているので、聖王だけでなく魔王(平将門か?)も知っている。ロビンは直訳し て義賊「こまどり頭巾」(たまに偽物も出現)。そしてきょ・う・じゅ(はあと)は 女性版「平賀源内」と思えば、時代劇にも馴染む。…という具合に、妄想はとどまる ところを知らない。  これはなぜなのだろう。思うに、他のRPGではキャラクターと世界観の密着度が もっと高いのだ。各キャラクターが輝くことができるのはあくまでそのゲームの世界 の中なので、他の舞台に移されることにはあまり向いていない。ところが、ことロマ サガ3に関するかぎり、キャラを全く違う時代や場所、たとえば江戸時代の日本に連 れていってもうまく行きそうに見える。キャラが「翻訳可能」なのだと言えるかもし れない。  「スクウェアのRPGで最も時代劇にはまるキャラクターが多い作品」、この称号 を「ロマンシング サ・ガ 3」に贈りたいと思う。                                 (了)