雑文集ひねもぐら

入江和生

はじめに

 私は共立女子大学文芸学部に半世紀近くにわたって勤めた。
 その間、長いあいだ英文専攻の四年生の卒業ゼミナールを担当した。
 そのある時期、まるで小学校か中学校のように、学生から原稿を集めて「学級通信」ならぬ「ゼミ通信」を発行した。それは一九九〇年代初めからの一〇数年、言い換えれば私の五〇代初めからの一〇数年にあたる(但し、たとえその間であっても、発行しなかった年もある)。発行を終えてからもう二〇年近くになる。
 どうしてそんなものを出す気になったかは覚えていない。多分、暇だったのだろう。私もなるべくそこに原稿を載せるようにした。多くは卒論の書き方だとか教育実習の心得だとか、無味乾燥の極致のようなものだったが、時にはエッセイふうのものも書いた。今、それを読み直して、それなりにその時代を映しているような気がして、懐かしい思いに駆られている。ここには、なるべくそういうものを集めた。
 学生を読者に想定して書いたのだが、学生がどの程度読んでくれたかは定かでない。もとより、学生と私とのあいだの断絶は深かったが、それを埋めようなどとは夢にも思わなかった。むしろ、それを大事にするところに私の基本的なスタンスがあった。それによってなんとかやってこられたのだと私は信じている。
 ここで言う一〇数年は、学生にとってのいわゆる就職氷河期でもあった。四年次生は卒論と就職の二つの重荷を抱えて苦闘した。彼女たちはいま、社会の重責を担う主体となっている。彼女たちは学生時代をどう振り返っているだろうか。
 このゼミ通信はそのまま「ゼミ通信」という名称を用いた年もあったが、その他の、例えば「氷河通信」という名称にした年もあった。また、「ひねもぐら」と名付けた年もあった。これは私がかつてたわむれに「ひねもす・ひねもぐら」というペンネームを用いていたのを持ってきたものである。
 それをこの雑文集の名称としても用いることにした。特に意味はない。
 ここには原則として古い年代のものから順に並べた。

二〇二四年一二月一〇日
入江和生

目次

入江和生

一九四三年東京生
東京外国語大学英米語学科卒。同大学大学院修士課程修了。
共立女子大学教授、同大学学長を経て、同大学名誉教授。

著書
 『シェイクスピア史劇』(1984 研究社出版)
 『シェイクスピアの歴史劇』(共著 1994 研究社出版)
 『妄想シェイクスピア酒場』(2023 小鳥遊書房) 他
訳書
 エドワード・ダウデン『悲劇論』(1979 荒竹書店)
 トマス・キャンピオン『英詩韻律論/四声部対位法論』
 (2020 http://www.ceres.dti.ne.jp/~ksirie/campion/) 他